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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-≪銀翼騎士団≫の思惑②-


『臨時ニュースです』


モニターに映るニュース番組のスタジオで女性アナウンサーが真剣な――それでいてわずかに戸惑った様子で言葉を続ける。


『本日の正午前。欧州東部に位置する都市、XXXXに隣接する人類軍基地が【異界】の≪銀翼騎士団≫により襲撃を受け、制圧されました』


続いて大きく崩れた人類軍基地の映像が映し出された。

すでにある程度時間が経過しているのか火の手などは上がっておらず穏やかなものだが、誰が見ても基地としての機能が失われているのがわかる。


『一方で隣接する都市およびその住民には一切の被害はなく、また最終的に投降した人類軍の軍人たちも武装解除の後解放されたとのことです。……現地より中継です』


画面が切り替われば、静かな町並みを背景に男性アナウンサーがマイクを片手にこちらを向いていた。


『こちら、隣接するXXXXの街です。つい数時間ほど前に隣接する人類軍基地が制圧されたものの、街はそのような気配を一切感じさせません』


その言葉通り、少なくともカメラに映っている範囲では建物や道路が壊れている様子は確認できず。それどころか街中を普通に人や車が行き来している。


『……人類軍基地が制圧されたということですが、あなたがたや住民の方々は外出していて問題はないのでしょうか?』


スタジオの女性アナウンサーからの当然とも言える問いに現地の男性アナウンサーが微妙な表情を浮かべた。彼もまた戸惑いを隠しきれていない。


『人類軍基地が沈黙し生存していた人類軍が投降の意を示した直後、≪銀翼騎士団≫から宣戦布告の際と同様に直接脳に語りかけるような通信が行われまして……“我ら騎士団に武器を持たない人々を傷つける意思はない。魔物に対する防備のため部隊を付近に残すがこれまで通りの生活を営んでもらって構わない”とだけ言い残して本当に部隊が去ってしまったんです』

『そう……ですか』


男性アナウンサーの答えに、ここまで辛うじてポーカーフェイスを保っていた女性アナウンサーの表情が完全に崩れた。

最早完全に困惑を隠しきれていないが、視聴者も皆同じような心境なので彼女を責めることはできないだろう。


『≪銀翼騎士団≫は都市や住民、投稿した軍人に対して一切の危害を加えることはなく。それどころか投降した軍人が怪我をしていればその治療を済ませた上で姿を消しました。都市外部との通信や行き来も特に制限されておらず、住民たちは戸惑いつつもいつも通りの生活を続けています』


改めて特に変わった様子のない街の様子が映されたタイミングで、ブリーフィングルームのモニターはニュース番組を映すのを止めた。


「……これはなんというか」

「意味がわかりませんね……」


確かに人類軍基地を制圧しているが、本当にそれだけだ。

人間同士の戦争であればあの都市は≪銀翼騎士団≫の占領下に置かれて然るべきなのだが、それ以上のことは何もせずあっさりと立ち去ってしまっている。


「……いや、彼らは宣戦布告の通りにしているだけなのか?」


“戦う意志を持たぬ者に刃を向けることは決してない”


そのようにギルベルト・ガルブレイス騎士団長ははっきりと口にしていた。

今回の≪銀翼騎士団≫の行動はその言葉に則り武力を持たない民間人や投稿して戦う意志を失った軍人たちに刃を向けなかったというだけのことなのかもしれない。


「有言実行ってわけね……あとはメッセージのつもりでもあるのかも」


実際に抵抗しない者には攻撃せず、なんなら怪我の治療までして去った。

さらに彼らの言葉を信じるのならアンノウンが出れば彼らを守る意思もあるという。


通信網などを制限していなければ今のニュースのように自然とその話は外部にも伝わる。

そうすれば≪銀翼騎士団≫が宣戦布告の際の言葉通り無用な戦いや殺生を望んでいないのだというアピールになるだろう。


「抵抗しなけりゃ攻撃されることもなく、その後何か制約されるわけでもねぇ。……となりゃ、抵抗しないで大人しくしとけばいいって考えになる連中はそのうち出てくるだろうな」


現時点ではまだ≪銀翼騎士団≫を信用する人間はほぼいないだろうが、今後も同じようなことが続いていくのだとすれば話は変わる。

シオンや“天使”と呼ばれたガブリエラがそうであったように、事実が人々の考えを変えていくだろう。


「【異界】は攻めてきたがそこまでやべぇことにはならねぇとわかれば人間共の混乱も落ち着いていく。堂々と全員に宣戦布告を聞かせたのもそっち狙いなのかもな」

「包み隠さず堂々と振る舞ってクリーンな印象を与える、みたいな話?」

「人類軍経由になると都合よく捻じ曲げられるってのはよくわかってるだろうからなぁ」


現実に《太平洋の惨劇》の事実は人類軍によって大いに捻じ曲げられている。

そういった邪魔が入らないように自ら大々的かつ堂々と――人類軍による情報統制が行われないように動いているというのが朱月の考えだ。


「実際さっきのニュースは普通に流れたし、この時代なら個人でもネット経由で地球の裏側の相手に写真やら動画やら送れるんだろ? 人類軍でもそうそう邪魔はできねぇんじゃねぇか?」

「確かにそうだな……そうしていけば民間人から一定の信用は得られる」


予想外の事態に人々の戸惑いは大きくなるだろうが、少なくとも強い憎しみの感情が≪銀翼騎士団≫に向かうことはないだろう。その時点で穢れの発生は抑制できる。


さらに≪銀翼騎士団≫が徹底してそのような人道的な振る舞いを貫けば、「対話の余地があるのではないか」という意見もおそらく出てくるだろう。そういった世論が強まれば人類軍も無視はできない。


混乱を防ぐというだけではなく、世界に暮らす人々の信用を勝ち取り彼らを味方につけようと考えているのかもしれない。


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