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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-≪銀翼騎士団≫の思惑①-


「状況は、非常に悪い」


〈ミストルテイン〉のブリーフィングルームに集まったいつものメインメンバーと朱月。


普段飄々としている朱月ですら表情が厳しい事実が、何よりも現状の深刻さを物語っている。


ほんの数時間前に行われた≪銀翼騎士団≫による全世界へと向けた宣戦布告。

本当の意味で地球上全ての人間に対して行われたらしいそれは、漏れることなく〈ミストルテイン〉にも届いていた。


「全世界への宣戦布告……狙ってやったんだとしたらかなりたちが悪いわよね」


あのように誰彼構わず民間人にまでメッセージを届けられてしまえば、混乱を避けるための情報規制なんてこともできない。

その結果、現在世界中が大混乱に陥っている。


もしもアンナの言っていた通り狙ってやったものだとしたら相当に悪意がある。


「その辺りレイルさんの見解はどうでしょうか?」

「そう、ですね……少々違和感のある行動だとは思います」


ミスティの問いにガブリエラは戸惑いつつも答えた。


「私たち【異界】の目的は、来る災厄への対処です。そのために世界に巻き起こす混乱は最小限であるべきだというお話は以前にもしたと思うのですが……この方法はその考え方に反します」

「確かに、見事に大混乱だもんね」


宣戦布告がつい数時間前のことなので混乱はあれど何か事件が起きるまでには至っていない。しかし、この後どうなるかはわかったものではないだろう。

パニック、暴動、経済の混乱、どのようなことになってもおかしくはあるまい。


本格的な戦いが起きる以上それらを完全に防ぐことはできないだろうが、宣戦布告のやり方次第ではもう少し混乱を抑えることはできたはず。

しかし≪銀翼騎士団≫はそうしなかった。


「……元々混乱を最小限にするであろうということ自体レイルさんの推測の域を出ませんでしたし、彼女が【異界】を離れていた期間に何か方針転換があった可能性もあります。今は深く考えずともいいのではないでしょうか」

「はい。それよりもこの後どのように動くかを決めなければ……」


今後どのように動くべきか。そう口にしたガブリエラの表情は厳しく鬼気迫るものがある。


「(無理もないか)」


この状況は彼女が最も危惧し、避けたいと考えていたもの。

こうなることを防ぐために行動していた彼女は、結局自分の力が及ばなかったことを深く悔いているのだろう。


「……未然に防ぐことが叶わなかった以上、少しでも早く戦いを止める必要があります」

「だろうな。多少の武力衝突はもう避けようがないだろう」


もしも今の時点で人類軍側から話し合いを持ちかけることができたならギリギリ武力衝突を避けられたかもしれないが、現在の人類軍にそれを望むことはできない。

仮にクリストファーが健在であったならわずかな可能性はあったかもしれないが、今の人類軍上層部では可能性はゼロだ。


ガブリエラもそれがわかっているからこそ、“戦いが起きるのを防ぐ”という理想論ではなく、“少しでも早く止める”という現実的な方針を口にしたのだろう。

とはいえ、後者も実現が可能かと言えばかなり厳しいものではある。


「……今の上層部が話し合いのテーブルに着く可能性ってなると、はっきり言って絶望的でしょうね」


アンナの言う通り、《境界戦争》に積極的な“推進派”が主導権を握る現在の人類軍が自ら和平交渉をしようとするとは考えにくい。

ふたつの世界の戦いを止めたいのなら、まずは人類軍内部の状況を変えていかなければならないだろう。


それをどのように実現するかについて考え始めた矢先、ミスティの持つタブレット端末が電子音を鳴らした。


「っ! 艦長! 大変です!」


端末に届いたであろうメッセージを確認するやいなやミスティが顔を真っ青にした。

その時点で只事ではないのはわかる。


「≪銀翼騎士団≫の出現ポイントから最も近くにあった人類軍基地と隣接する都市が制圧されてしまったそうです!」

「……早速か」


宣戦布告までした以上はあまりのんびりとはしてくれないだろうと思ってはいたが、早速行動を開始したらしい。


「それで、現地の状況は?」

「交戦した人類軍基地は壊滅的な被害で、すでに一切の機能が停止しているそうです。そのため衛星やドローンから撮影した映像からしか情報が得られないようですが……」

「何か問題があるのか?」

「いえ、問題ではなく……どうやら隣接する都市には戦闘の被害が一切及んでいないそうでして……」


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