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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
12章 揃う役者たち
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12章-明かされゆく真実①-


シオン・イースタルが魔物に堕ちてしまったことで顕現した強大な魔物、天魔竜神。


その状態のシオンを救うべく敢行された〈ミストルテイン〉によるシオン救出作戦。


作戦の中でナツミを含むミツルギ三兄妹に目覚めた浄化の光。


無事に救出したばかりシオンの浄化の光に対する異常な態度。


極めつけに異常な反応を示すシオンの体を奪い、≪月の神子≫御剣(ミツルギ)(コヨミ)――他でもないナツミたちの母親(・・・・・・・・)に仕えるものと名乗った朱月。


あまりに多くのことが起こりすぎて混乱するナツミたちは格納庫から〈ミストルテイン〉の会議室へと場所を移していた。


「――さて、いろいろと話さなきゃならねぇが……どこから説明したもんか」


集まった〈ミストルテイン〉の主要メンバー全員の視線を一身に集める朱月はそれを気にするでもなくいつも通りの態度でナツミたちを見回した。


「どうあれ、お前の知っていることは全て話してもらうぞ」

「へいへい。……とりあえずは比較的最近の話――ミツルギの三兄妹が使った浄化の力について話してやる」


ナツミたちの体から溢れた謎の光。

それは決して悪いものではないとナツミは感じたし、その点については朱月も保証した。

しかしその一方で、シオンはナツミたちがその光を扱ったことを避けなければならなかったとも言っていた。

よいものなのか悪いものなのかはもちろん、そもそもどうしてナツミたちにそんな力があったのかすらも何もわかっていない。


「細かい部分はあとにして結論から言えば、ありゃあ≪月の神子≫の持つ特別な異能。シオ坊の“天つ恵み”や“天つ喰らい”みたいな“神子”としての固有の権能だ。確か“破邪の白光”って呼び方をしてたはずだ」

「どうしてその≪月の神子≫の力をアキトたち兄妹が使えるの?」


アンナの疑問はこの場においてもっともなものだが、格納庫にいた面々は少なからずすでに答えを聞いている。


「そいつは簡単なこった。こいつら三兄妹は当代の≪月の神子≫である御剣暦の子供なんだからな」


もう一度はっきりと告げられた母親の名前。

今はもう会えない彼女こそが≪月の神子≫なのだと朱月は言う。


「コヨミの旧姓は月守、初代≪月の神子≫の末裔だ。その血を引いてる三人が≪月の神子≫の力に目覚めておかしなことはないだろ」

「それはそうだけど、そんなこと急に言われてもはいそうですかとはいかないわよ……」

「ああ。そもそも俺たちはそんな話聞いたことがない」


アキトの言うようにナツミたちはそんな話を聞いたことがない。

御剣家が名家なので普通の家とは言い難いが、それでもそんな特別な生まれであるなんて聞いたことは一度もなかった。


「そりゃそうだ。お前さんたち三人にだけはなんとしても隠し通す手筈だったんだからな」

「手筈って……わざと隠してたってことか!?」

「ああそうさ。……他でもないコヨミがそう望んだからな」


ハルマが声を荒げても朱月は冷静に、淡々と答えるだけだった。


朱月曰く、“神子”でありナツミたちの母親であるコヨミがわざと事実を隠したのだという。

そんなことを聞かされれば次に出てくるのは「何故?」という疑問だけだ。


「お母さんはどうして、あたしたちに何も教えてくれなかったの?」

「そうすることが、一番お前さんたちを幸せにできると思ったからだ。……実際それは間違ってないと俺様も思う」

「それってどういうこと……?」

「そのあたりの事情は≪月の神子≫と月守家がどういうもんなのかを聞けばわかるだろうよ」


そうして朱月は、≪月の神子≫の強力な浄化の力のこと。

浄化の力を用いた“封魔の月鏡”という魔術のこと。

そして、そのために≪月の神子≫が果たさねければならない役目について話してくれた。


世界を守るためというあまりにもスケールの大きな話は現実味がなかった。


それでも、何故何も知らないことが幸せだと考えたのかはナツミにもすぐに理解できた。


「何も知らせないことで月守家の役目から俺たちを遠ざけようとしたってことか……」

「幸い、少なくとも生まれたときにはお前さんたちの誰にも≪月の神子≫の力はなかった。どちらにしろ≪月の神子≫の名も役目も継ぐことはできない。……だから、何も知らせずに普通の人間として人生を送ってほしいとあいつは願ったんだ」


もしも、ナツミたちが自分のルーツを正しく理解していたとしたら、どうだっただろう。


世界のために犠牲になる母を見送ることで大きな悲しみを背負うことになったのではないだろうか。

≪月の神子≫の血を引いているのになんの力にもなれない無力な自分に絶望したのではないだろうか。

自分が普通の人間ではないことを知りながら、なんのためらいもなく他人と共に笑い会えただろうか。


母の秘密はナツミたちをそんなしがらみから遠ざけてくれていた。

生まれたときから今までずっと、ナツミたちは彼女の愛情と願いによって守られていたのだ。


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