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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
11章 目覚める者、眠りにつく者
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11章-不変なるもの-


迫る〈パラケルスス〉の刃は天魔竜神が身をかわしたことで空を切る。

しかしアキトは焦ることなくその小さな体を追いかけ、迷わず金色の刃を振るっていく。


天魔竜神は人間としても小柄なサイズでありながら、その機動力は下手な戦闘機をあっさりと凌駕するほど。

先程までのように悠然と構えているならともかく逃げに転じられているとなると攻撃を当てるなど不可能にも思えるが、〈シルフ・フォーム〉の機動力は伊達ではない。


飛び回る天魔竜神に遅れを取ることなく追跡し、全てとはいかないなりに五割ほどの確率で刃を魔力防壁に叩きつけていく。


「(やっぱりこれなら効くのか!)」


〈アサルト〉を筆頭に他の機動鎧の攻撃ではびくともしなかった天魔竜神の魔力防壁だが、穢れを祓う力を宿した金色の刃は目で見て明らかなほどに魔力防壁にダメージを与えている。

だからこそここまで微動だにせず攻撃を受け止め続けていた天魔竜神もこうして攻撃から逃げようとしているのだろう。


「――!」


目の前の天魔竜神がアキトを前に顔をしかめた次の瞬間、彼の左右に突然生じた歪みから小型ファフニールの頭だけが勢いよく飛び出してきた。

すんでのところで回避した〈パラケルスス〉をそのまま歪みから飛び出してきた二体のドラゴンが追いかけてくる。


『させねぇよ!!』


アキトがそれらを迎撃するより先に、勢いよく割り込んできた〈アサルト〉が〈月薙〉でその二体の首を落とした。


「朱月!」

『アキトの坊主、テメェはこのままアレを攻め立てろ!』


端的な指示に頷いて再び〈パラケルスス〉を天魔竜神へと向かわせる。

アキトと〈パラケルスス〉を明確な脅威であるとと認識したのか、次々と小型ファフニールが差し向けられるが、それらは朱月や他のメンバーの攻撃で悉く落とされていく。


手下を差し向けるのに集中して動きが少しばかり鈍っていた天魔竜神に〈パラケルスス〉は正面からふたつの金色の刃を振り下ろした。


「――――っ!!」


天魔竜神の魔力防壁と金色の刃が接触し、その余波が周囲の大気を揺らす。

相性がいいとはいえアキトの攻撃だけではまだ防壁を破るには至らないようだが――、


「俺ひとりだけ見てていいのか?」


スピーカーで外部にも聞こえるようにしていたわけではないが、天魔竜神はその声が聞こえたかのように怪訝な顔をした。

その小さな体を〈パラケルスス〉のものとは違う影が覆う。


『俺だっているんだ!』


〈パラケルスス〉の双刃とは違う、金色の一振り――〈セイバー〉の振り上げた〈アメノムラクモ〉が天魔竜神の防壁にさらなる一撃を加えた。


「――っ!?」


天魔竜神の顔に明確に驚きと苦痛が浮かぶ。

その一秒後、防壁は砕け三つの刃は天魔竜神の両翼と尾を断ち切った。


「があああああっ!!」


初めて声をあげた天魔竜神はそのまま下へと落ちていく。

すぐに翼を再生させて体勢を立て直したが、少なからずダメージはあったのだろう。

こちらを見上げる赤い瞳にここまでの虚ろさはなく、睨むようにこちらを見ている。


「……朱月、シオンの本体に刃が当たっても問題はないんだな?」

『ああ。少なくともハルマの坊主は前にもやってのけてるし、試しにやらせた時のお前さんのも何ら問題なかったはずだ』


今アキトたちが振るっている刃は穢れを祓うための刃であり、穢れ以外のものを害することはない。

それがわかっていても翼や尾以外の天魔竜神の体――シオンの生身の体に刃を振るうのは少々ためらわれるが、ここまでくれば覚悟を決める他ないだろう。


『にしても、思ったよりも順調で驚いてる』

「まあな」


シオンが魔物化して誕生したのが目の前の天魔竜神だ。それは理性を失ったシオンとも言える。

そんな存在であればシオンの持つ力を存分に奮って大暴れするのではと危惧していたのだが……。


「この状態でも、アイツは俺たちを傷つられないらしい」


ここまでの戦い、天魔竜神本体は朱月の乗る〈アサルト〉以外を攻撃していない。


天魔竜神の機動力や防壁の強度を考えれば余裕はいくらでもあるはずで、初手の〈クリストロン〉や〈サーティーン魔導式〉などには容易に攻撃できたはずなのに何もしなかった。

テロリストたちに仕掛けられた際にはあんなにもあっさり反撃を行ったというのに、それは明らかにおかしい。


その上、あれだけ警戒を見せた〈パラケルスス〉に対してもファフニールをけしかけることはしながらも直接攻撃をしなかったとなれば最早決定的だ。


「シオンの意識が多少残ってるのか――あるいはそのシオンが内部から邪魔しているのか。どっちにしろ天魔竜神は朱月を除く俺たちを、愛する者を自分の手で攻撃できない」


小型ファフニールのような手下を差し向けるのがせいぜいで、それすらアキトたちの知るシオンの力と比較すればとても本気のものとは思えない。


『魔物に堕ちてなお身内には手加減できるたぁ……≪天の神子≫の愛ってのは一周回って恐ろしいくらいだよなぁ』


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