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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
11章 目覚める者、眠りにつく者
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11章-堕ちていくもの-


唐突に爆散した人類軍の戦艦に呆気に取られた直後、このしばらくの間にすっかり慣れた悪寒と共に警報がブリッジに鳴り響く。


「っ、爆散した大型戦艦からアンノウン誘導装置の反応! しかもこれは……!」


コウヨウは驚きからかはっきりと口にしなかったが、魔力などを感じ取れるようになっているアキトには彼の驚愕の理由が言われずとも理解できた。


「今の気配……さっきの数十発同時起動よりもさらに規模が大きい!」

「さっきより大きいっていったい何発分よ!?」

「え、えっと密集しての起動だったので正確には計測できませんでしたが、最低でも百発分程度のものだったかと」


百発となればそれだけで千体以上を誘導できるレベルだ。

五分と経たずにこの一帯はおびただしい数のアンノウンで溢れかえることになるだろう。


「これってテロリスト側の自爆!?」

「状況的にそう判断すべきだとは思うが……」


人類軍の拠点への接近を許し、自分たちの持つ旧型の兵器では太刀打ちできないと判断したテロリストたちが捕虜にされるくらいならばと自滅覚悟でアンノウン誘導装置を使用した。

そう考えれば辻褄の合いそうな状況ではある一方で、気がかりなこともある。


「それならば基地内で使用すればいいのであって、大型戦艦をどこからともなく飛ばして実行する必要がありません」


まさにミスティの指摘した通りで、大型戦艦などという金のかかるものを使う必要はない。

何か違和感がある。


「――いや、その詮索は後だ。今は出てくるであろうアンノウンたちの対処に備える」


事情はさておき、この後に待っているのは人類軍、テロ組織、そして大量のアンノウンという三つの勢力による大乱戦だ。

とても他のことに気を回している暇はない。


「総員、ここからはかなり激しい戦いになる、警戒しろ!」

『『『『『了解!』』』』』


機動鎧部隊にアキトは檄を飛ばしたが、それに対する返答がひとつ少ない。


「シオン?」


同じく異常に気づいたアンナが問いかけるもやはり返答はない。しかし〈アサルト〉が健在なのはブリッジから把握できている。

その矛盾に嫌な予感がしてきたその時、小さなノイズを鳴らして〈アサルト〉との通信が繋がった。


『――あ』

「あ?」

『あああああああああああああああああああああ!』


なんの情報も伝わってはこないが、明らかに異常だとわかるシオンの声。

彼に何かが起きたと察するには十分すぎる。


「シオン!? どうしたの!?」

『あああああああああああああああああああああ!』


アンナの問いに答えることもなく狂ったように叫び続けるだけのシオンに機動鎧部隊の面々もシオンに対して呼びかけるが、やはりなんの応答もない。


そして次の瞬間、アキトは今までに感じたことのないほどの悪寒に身を震わせた。


気のせいなんてものでは絶対にない確かな悪寒。

本能というよりは魂の底から発せられたかのような警告魔物堕ちと対面した時ですらも感じたことのない代物だ。


しかし何よりも恐ろしいのは、その悪寒の元凶たる禍々しい気配を〈ミストルテイン〉の正面方向――まさに〈アサルト〉のいる方角から感じる事実だ。


異常がわかってから〈アサルト〉を映し出していたモニターに目をやれば、唐突にコクピットのハッチが開き、中から人間大の何かが外へと飛び出した。

遠すぎて判別はできなかったが、今のタイミングで〈アサルト〉から飛び出せる存在などシオン本人の他にいない。


『ああクソ! 最悪も最悪じゃねぇか!!』

「朱月か!」


シオンの狂気じみた悲鳴に変わって届いたのは朱月の悪態だった。


「朱月、いったいシオンに何があった!?」

『んなもん、お前さんなら気配でおおよそわかってやがんだろ!? シオ坊は堕ちやがった(・・・・・・)んだ!』


堕ちた、つまり魔物堕ちになったということだと言葉では理解するが、信じられない。

それほどまでに唐突なことだ。


「どうしていきなり!? そう簡単に魔物になったりしないってミセスだって言ってたじゃない!」

『ああ俺様だってこんなことになるたぁ思ってなかった! だがな、誘導装置が百個以上同時起動して何が起こるかなんて予想できるはずがねぇだろうが!』


これまで、〈ミストルテイン〉は多くのアンノウン誘導装置起動の場に居合わせてきたが、同時起動という観点からすればそれは多くとも十数個程度の限った話だ。

今しがたの百個以上の同時起動は〈ミストルテイン〉の遭遇以前に、それこそアンノウン誘導装置がこの世に誕生して以来初めてのことかもしれない。


そのような特殊な状況において何が起こるかなど、千年以上生きる魔女であろうと予想できるはずがない。

そんな当然のことをアキトたちも朱月も、そしてシオンも見落としていた。


『今更悔いても仕方ねぇから、とにかく一番重要なことを言わせてもらう』


かつて聞いたことないほどに真剣に、朱月は告げる。


『人類軍の連中を今すぐ逃してお前らも逃げる準備をしろ。……今からここで生まれる魔物は、人間の手に負えるもんじゃねぇ』


――その言葉の直後、戦場の真ん中で漆黒が膨れ上がった。


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