11章-転機-
「術式起動、拡散、増幅、付与……行け!」
〈ドラゴントゥース〉が魔法陣を介して分散し、無数の閃光となって前方のアンノウンたちを散らしていく。
「うはは! どけーどけー邪魔だ邪魔だー!」
先程までとは違い誰も巻き込む心配なくて撃ちまくるのは簡単でいい。
本領発揮とばかりにハイテンションの状態でシオンはこちらに向かってくるアンノウンたちを薙ぎ払っていく。
『シオンのテンションはともかく、前から来るアンノウンがほとんどいなくなってきたわね』
「そりゃそうでしょ。もうテロリストの拠点は目と鼻の先ですから」
〈ミストルテイン〉の強行突破の後も何度か道を阻むようにアンノウン誘導ミサイルが打ち込まれたが、その数は最初と比べれば少ない。
テロリストたちが拠点の近くにアンノウンを呼び出してしまうと、自分たちが呼び出したアンノウンに襲われるという残念な結果になりかねないため、あまり積極的にはできないのだろう。
最早目と鼻の先というところまで来てしまえば、彼らは自滅覚悟でもなければアンノウン誘導装置を使うわけにはいかなくなる。
「(最初のあの妙な感覚もあれ以降ないし、気のせいだったか、数の問題か……)」
『目標の放棄された軍事拠点にまもなく到着します! アンノウンの反応はありませんが、警戒を』
少しだけ脱線していた思考はコウヨウの警告に遮られた。
さらにその直後、前方に見え始めた古そうな軍事拠点からいくつかのミサイルが飛来してくる。
「とりあえず迎撃しますね!」
先程同じく魔法で拡散させた〈ドラゴントゥース〉でミサイル群を迎撃する。
撃ち抜かれて爆発する無数のミサイルからはアンノウンを呼ぶ気配はなく、どうやらただのミサイルのようだ。
『自力での抵抗にシフトしたわけか……放棄されたものとはいえそれなりの規模の拠点だ。砲台やミサイルの発射台もかなりの数がある。警戒を怠るな!』
「『『『『了解!』』』』」
アキトの言葉を裏付けるように基地の各所にある回転砲台から砲弾やビームが放たれ始める。
それらを掻い潜りつつシオンたちは拠点へとさらに距離を詰めていく。
『三つの部隊のうち、ここまで到着できてるのは俺たちの部隊だけみたいだな』
『仕方ないわ。シオンや〈ミストルテイン〉なしであのアンノウンの群れを強行突破するなんて無理よ』
ハルマやリーナの言う通り、現状この場には〈ミストルテイン〉とその後ろに続いてきた部隊しかいない。
本来の作戦では三つに分けた部隊が包囲するように拠点に到着している予定だったが、やはり予定通りとはいかなかったらしい。
「そういえば作戦では北東から来る部隊のリーダーが降伏勧告するとか言ってませんでした?」
『ここまで抵抗されてるんだ、今更降伏勧告なんて必要ない』
「なるほど楽でいいですね」
つまりシオンたちはこのまま戦えばいいというわけだ。
『上の考えはともかく、できるだけ捕虜を確保できる方が好ましいのは確かだ。砲台や兵器を無力化する方向で戦ってくれ』
『特にシオンは自重して。アンタが本気で暴れたら更地になりかねないからね』
「りょーかいです。アンノウンがわらわら出てこないなら楽なもんですよ!」
会話の片手間に視界に入ったミサイル発射台をひとつ〈ドラゴントゥース〉で破壊しておく。
地上を見ると飛行ユニットを持たない旧式の機動鎧がいくつか出てきているようだが、シオンたちはもちろん人類軍にとっては大した脅威にはならないだろう。
「(あとは破れかぶれで残った誘導装置全部使うとか血迷ったことされないといいんだけど……)」
割とあり得そうなのが嫌なところだが、そういった理性を欠いた行動に出られない限りは人類軍の優勢のまま戦いは終わることになるだろう。
そう思った矢先に、センサーがこちらに接近する大きな物体の反応を示した。
「あれは……人類軍の戦艦?」
〈グングニル〉ではなく、その前の世代よりもさらにもうひと世代ほど古そうな大型の戦艦がこちらへと向かってきている。
『あれは……? あんな旧式の戦艦が今回の作戦に参加しているとは思えませんが……』
てっきり作戦に参加している戦艦かと思ったのだが、どうやら違うらしい。
ブリッジでもその正体がわからないのかミスティの戸惑う声が聞こえてきた。
「(なんか変だ)」
戦艦は何か通信を飛ばしてくることもなくただ沈黙したままこちらに接近してくる。
そして、その戦艦に人間の気配がない。
それどころかそもそも生き物が乗っている気配が少しも感じられないのだ。
オートパイロットで動いていると考えればあり得ないことではないが、そもそもこんなところに無人の大型戦艦が飛んでくる時点でおかしい。
思わず攻撃の手を止めて戦艦の動向を見ていた中、唐突に、戦艦が爆散した。
そして――、




