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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
11章 目覚める者、眠りにつく者
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11章-作戦準備②-


明日が出撃。しかも久しぶりに相当激しい戦いになりそうとなれば格納庫は当然忙しくなる。


「数が出るってんなら当然手数もいる! 使い捨てのミサイルパックなんかも惜しみなくくっつけてやれ」

「親方ー! リンリーちゃん特製の新型ミサイル積んでもい〜!」

「おうおうどうせバレやしねぇだろうから好きにしろ」

「やったー!」

「いやいやいやそれはダメでは!?」


「〈サーティーン〉は出撃命令出ると思うか?」

「どうっすかね。ぶっちゃけそこらの機動鎧よりよっぽど戦力になるっすけど……」

「基本的には作業用だからね……他の部隊の人たちを混乱させそう」

「……下手すると、自信を喪失させかねない」

「ああ。戦闘用に乗ってる自分よりも作業用の機動鎧がアンノウンボッコボコにしてるの見せられたら嫌だな確かに」

「……ちょっと面白そうっすけどね」

「「「コラ」」」


ギャイギャイと格納庫の各地で騒がし声が上がる中、シオンは自分の乗る〈アサルト〉の整備に勤しんでいた。


「シオン、〈アサルト〉はどうだ?」

「問題ないよ。最近激しい戦いはなかったしね」


〈アサルト〉を使った近頃の戦闘と言えば、テロリストたちがアンノウン誘導装置で呼び出した無数の中型アンノウンを相手にするくらいのものだった。

もちろん一般的にはそれもそれなりに激しい戦闘なのだが、ヤマタノオロチ、ファフニールといった規格外を相手にしてきたことを思えば大したことはない。


「つーかあれだな。多分シオンは今回で〈アサルト〉も乗り納めだよな」


というのも、シオンが乗る新型機に使うエナジークォーツの生成はつい先日完了しているのだ。

それをECドライブに組み込んでの起動テストもすでに済んでおり、まず問題なく実戦でも使用可能な状態になっている。

さらに言えばそれより少し早くハルマに預ける2番機、未だパイロット未定の3番機も同様に完成済みだ。


とはいえさすがに今回のような重要かつ大きな作戦を新型機の初陣にするわけにはいかなかったのでシオンは〈アサルト〉を、ハルマは〈セイバー〉を使用する。

逆に言えば今後の出撃ではシオンもハルマも新型機に乗り換える予定なので、今まで使ってきた機体とはひとまずお別れということになる。


「自分で乗らなくなると思うと、やっぱりなんだかんだ不思議な感じがするもんだね」

「そうでしょうね。機動鎧にしても魔装にしても、自らの命を預ける剣であり鎧ですから。自然と愛着が湧くというものです」


ギルの影からひょっこりと姿を現したガブリエラがそんなことを言いながら微笑む。

彼女の騎士らしい考え方はシオンにはあまり似つかわしくないものだが、こればかりは彼女の言う通りなのだろう。


「思えば最初は偶然見つけただけだったんだけど、長い付き合いになったもんだよ」

「オイオイ、まだ終わりじゃねぇだろうが」


おもむろにシオンの影から飛び出してきた朱月は鼻息を荒げる。


「別の機動鎧に乗り換えようが、〈月薙〉や俺様との契約は続いてるんだ。なんだかんだお前さんと〈アサルト〉の縁は切れねぇ。というかまだまだ魔力をもらわねぇとならねぇからな、意地でも切らせねぇぞ?」

「わーなんか台無しにされた感じ」

「そんなの柄じゃねぇだろうに感傷に浸り出すからだ」


確かにこういう場面でしんみりとするのは柄ではないし、そもそも気も早いかもしれない。


「ま、確かに今後は朱月に預けてしっかり戦力になってもらう予定だし。しんみりするもんでもなかったか」

「本気で俺様に使わせる気かよ……テメェは本当に鬼使いが荒いな」

「働かざるもの食うべからずってことだよ」


何はともあれ、今は〈アサルト〉で明日の戦場で暴れ回ることだけ考えていればいいのだろう。

こういう話は戦いを終えてからゆっくりすればいい。


「明日はとにかく数を相手にすることになるだろうからね。いくら雑魚相手だとは言っても、油断してサボったらダメだからね、朱月」

「へいへい」


雑な返事だけ残して再び消えていく朱月を見送ってから改めて〈アサルト〉を見上げる。


ある意味で、全ての始まりとなった機動鎧。

この機体の、そして朱月や〈月薙〉の存在がなければ、あるいはシオンはその正体を露見させることもなかったのかもしれない。


そう考えれば疫病神のように思える節もあるが、同時にこの機体と出会っていなければ〈ミストルテイン〉に乗る“愛する人々”を守ることはできていなかったかもしれないのも事実だ。


出会いが幸運だったか不運だったかなんて話は、最早今更でしかない。

ただ、シオン・イースタルにとって意味のあるものだったということだけは間違いないだろう。


そしてその出会いの果てにある今を、シオンは決して後悔などしていない。


それだけは確かだ。


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