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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
11章 目覚める者、眠りにつく者
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11章-ひとつの終わりに向かって④-


集結しているテロリストたちとの戦い。

実質的に人類軍とテロリストたちの最終決戦となる戦いを控えている〈ミストルテイン〉の食堂にて。


「…………」

「…………」

「…………」

「……あのさナツミ、何か用?」


食堂でランチ兼おやつタイムと洒落込んでいたシオンの前に無言で現れたナツミからじっと見つめられるという意味不明な状況にさすがのシオンも困惑を隠せない。


「俺の顔に何かついてるとか?」

「ドーナツの食べかすは口の端についてるよ」

「マジ? ……いや、でもその視線の理由はそこじゃないよねさすがに」


それだけであんなにも凝視されるとは思わないし、そもそもそれが理由なら一言指摘すればいいだけの話だ。


「…………」


シオンの問いにまた黙ってしまったナツミは黙秘しているというよりは何を言うのかを考えているように見える。


「……あたしはシオンみたいに隠し事とか腹の探り合いとか騙し合いとか誘導尋問とか得意じゃないからあれだけど」

「唐突に悪口みたいなの飛び出してきたなオイ」

「シオンとか兄さん。何かあたしたちに内緒でコソコソやってるでしょ」


暴言に近い言葉に続いて真っ直ぐに問われてわずかに答えに詰まった。しかしすぐいつも通りを装う。


「いや、最近は特にそういうのはないよ? そもそも俺はともかくアキトさんはそういうことするタイプじゃないだろ?」

「そういうのいいから。何かやってることは確信してるんだからね」


今までのナツミであればシオンがこういう風に対応すれば大なり小なり揺らいでいたはずなのだが、今回はそれが少しも見られない。

確信があるというのウソやハッタリではないらしい。


「……オッケー。何かやってることについては認める。……それで、どうやって確信した?」

「最近のテロリストの制圧の時、シオンこっそりいなくなってたでしょ」


制圧作戦の度にシオンの気配が完全に戦場から消えることにナツミは気づいていたのだ。

実際、逃がしたり殺したフリで捕まえたりしたテロリストをレオナルドに引き渡すためにほんの数分だが戦場から離れていた。


「単に気配消しただけかもしれないじゃん」

「そんなことする必要ないじゃない。実際潜入する時とか全然そんなの気にしてなくて、作戦がほぼ終わったくらいにいつも消えるんだもん」


シオンがわざと意地の悪いことを言ってもナツミはやはり揺らがない。

そのことにもナツミの成長を感じるが、それ以上に気になるのはナツミの感知能力だ。


「なんかナツミ、いつの間にか感知上手くなった? かなりしっかり俺の気配追えてるみたいだけど」

「上手くなったかはわかんないけど、五回くらい前の作戦の時にいなくなったかもって思ってから注意深く探ってたから……」

「注意深く探ってたにしても、かなり腕が上がってるっぽいね」


テロリストの引き渡しについてはあくまでシオン、アキト、アンナ、ミスティ、レオナルドの五人だけ秘密ということにしてある。

つまりガブリエラやシルバにも秘密にする必要があるわけで、シオンはそういった魔力の気配を感じ取れる相手向けにシオンが戦場からいなくなっているのを誤魔化すための仕込みを簡単にではあるがちゃんとしていたのだ。


ナツミはその隠蔽工作を潜り抜けてシオンの動向を正しく把握できていた、ということになる。


もちろんガブリエラやシルバも注意深く探れば同じようにできていただろうが、ナツミが知らぬ間に彼女たちに近い領域まで到達しているというのがまず驚きだ。


「(ハルマはともかく、ナツミは何かに補助されてるわけでもないのに……)」


アキトは〈光翼の宝珠〉に、ハルマは〈アメノムラクモ〉からそれぞれ補助を受けており、本来の本人の技術以上の魔術を扱えるようになっているが、ナツミはそうではない。

彼女はあくまで自分自身の実力として、人外と同等の域まで近づいてきているのだ。


「(才能があったのは確かだけど、だとしてもちょっと成長が早すぎる)」


あり得ないと断言できるほどではないが、普通の成長スピードではないのは間違いない。

そう考えた時にどうしても頭に過ぎるのは彼女の血筋――≪月の神子≫の直系であるという本人すらも知らない事実だ。


「シオン?」

「あ、いやホントに成長早いなーって思っただけ」

「それはいいんだけど……ってまた話ずらされてる!?」

「……バレたか!」


別にそういうつもりはなかったのだが、今の話を続けるのは都合が悪い。

あえてナツミの勘違いに乗っかって話をズラそうとしていたことにしておく。


「ああもう! あたしは心配してるってのにひどくない!?」

「心配? 隠し事されてるのが不満とかじゃなくて?」

「不満は不満だけど、兄さんも関わってるわけだしイジワルとか仲間外れってわけじゃないのはわかってるから。……でも、何をやってるのかわからないと気になるし、心配にもなるじゃない」


その心配が抑えきれず、こうしてシオンに直接尋ねにやってきたということらしい。


「なるほど……それについては素直にごめん」

「でも話してはくれないんだよね、多分」

「うん。……知らせない方がいいことだから」


シオンたちの行動は現在の人類軍への反逆にも等しい。

万が一にもバレた時に備えて、ナツミや他の船員たちには何も知らないでいてもらう方がいいのだ。


ナツミからすれば勝手極まりないことを言っている自覚はあるが、彼女はそれで納得してくれた。


「とにかく、あんまり危ないこととかしないで……って言ってもどうせ聞いてくれないだろうけど、せめて危ないことしてもちゃんとあたしのところに戻ってきてよね」

「わかってるよ」

「ならいい。それじゃああたし戻るね」


言いたいことは言い切ったとばかりに戻っていくナツミを見送り、彼女が完全に見えなくなってから深く息を吐き出す。


「なんか強くなったな、ナツミ」


魔術方面にしても精神面にしても、以前より逞しくなったように思う。


それが喜ばしいと感じる一方で、何故かシオンは妙な胸騒ぎを覚えていた。


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