11章-ひとつの終わりに向かって②-
ブリーフィングルームでの全体への情報共有の後、シオンはアキト、アンナ、ミスティの三人と艦長室へと移動した。
「さて、わかってるとは思うが次の作戦でどうするかについて話したい。このままだと黒幕を見つけるのが一気に難しくなるからな」
アキトもシオンと同じことを懸念していたらしい。
それはアンナやミスティも同じらしく、話が早い。
「いつものように適当にリーダー格をレオナルドさんに引き渡すってのも考えましたけど……」
「難しいかもしれませんね」
逃げるように促したとしても最早逃げ場がないに等しいテロリストたちがそれを聞き入れる可能性は低い。
現在の状況を思えば、逃げるくらいなら自爆するくらいの構えだったとしてもおかしくはないだろう。
殺した風を装って逃がすのも、今回の場合には正直難しい。
第一に、テロ組織が複数集結していることでリーダー格と呼ぶべき人数が多く、その中で誰を逃せばいいのかがわからない。
第二に、今回は電撃作戦で戦闘なしで終わらせるという戦法が取れない上に、大量のアンノウン誘導装置による激しい戦いが予想される。
さすがのシオンでも少なく見積もって四桁のアンノウンが暴れる戦場で特定の人間を見つけ出して確保して回るなんて真似は難しい。
「〈アサルト〉を朱月に任せてシオンは裏で動くとかできない?」
「できなくはないですけど、リーダー格をとっ捕まえる瞬間を誰にも見られちゃいけないわけですし……」
リーダー格となると多数の構成員に囲まれているのは間違いない。
これまでは周囲を囲う構成員たちにどれだけ目撃されても問題はなかったのだが、今回の場合シオンは戦場にいなければおかしいのだ。
そんなシオンがテロリストたちのところに生身で現れてリーダー格を殺して去っていったなんてことが生き残ったテロリストの証言でバレたりしようものなら人類軍からの追求は避けられない。
「俺としてはリーダー格捕まえる時に近くのテロリスト皆殺しにしちゃうっていう方法でもいいんですけど」
「いや、よくないよくない」
「でしょ? それに多分人類軍の歩兵部隊だって動くじゃないですか」
アンノウンが呼び集められる以上、機動鎧や戦艦での戦うことになるだろうが、情報源としてテロリストたちを確保する努力が一切されないということはない。
テロリストたちが放棄された軍事基地を拠点にしているとわかっている以上そこに潜入部隊を送るはずだ。
テロリスト相手なら最悪口封じに始末するのでもいいのだが、万が一突入してきた人類軍に目撃でもされてしまえば非常に不味い。
「さすがに人類軍相手となると口封じで皆殺しはできませんし……」
「当然ですよ……」
「まあそういうわけで、今までみたいなやり方はちょっと無理だと思うんですよね」
となれば、何か別のアプローチをしなければならない。
「正直データ方面についてはカナエ先輩がいればどうとでもなると思うんですよね」
「まあそうだな」
「……それはそれで恐ろしいというか、彼女が人類軍の人間で本当によかったと最近心から思います」
ミスティが若干顔を青くしているのはさておき、電子方面においてシオンすら凌駕して十三技班最強を誇るカナエならテロリストたちから情報を掠め取るなど造作はない。
ただやはりそういったものはデータが残りやすい分、証拠隠滅を徹底されがちなのだ。
いくらカナエでも完全に消されてしまったデータを盗むことはできない。
なのでどうしても人間の証言というものも必要になってくる。
「……今回について言えば、俺たちが動くのは難しいだろうな」
しばらく考えてからアキトがそう結論を出した。
「そもそも、今回は確実に大きな戦いになる。魔物堕ちのような規格外の個体がいないとはいえ予想される数を思えば油断はできないし、他のことに構っている余裕はないだろう」
「実際そうですよね。今となってはみんな魔力防壁を使いこなせますから負けることはないでしょうけど……」
〈ミストルテイン〉が問題なかったとしても、今回は他の人類軍もいるのだ。
彼らが危険になれば助けに入らなければならないことなどを考えれば、戦闘以外に意識を向ける余裕はさすがにない。
「と、なるともう方法はひとつですね」
「ああ。レオナルドに動いてもらおう」
〈ミストルテイン〉が動けなくとも、レオナルドはそういった制約なく動くことができるはずだ。
「すぐに準備しよう」
「はい。それらしい内容を考えなければですね」
表向き〈ミストルテイン〉とレオナルドに繋がりはない。
そのため初回のレオナルドからの連絡に倣う形で、一見プライベートな連絡の体を装いつつやり取りをしている。
面倒ではあるが、最初にレオナルドがそうしてきたということはそうした方がいいということなのだろう。
「こういう時、要件をストレートに連絡できないのは不便よね……」
「ですねー……あ」
「「「あ?」」」
シオンの口からこぼれた間の抜けた音に三人の視線が集まる中、シオンはたった今気づいたひとつの事実を告げる。
「俺、レオナルドさんにフツーに魔法で通信できるんでした」
「「「…………」」」
数秒遅れて「そういうことは早く言いなさい!」というアンナの怒声が響いたのは言うまでもない。




