11章-今すべきこと-
「――はい。ということでみなさんおつかれさまです!」
〈ミストルテイン〉の格納庫にてシオンがパンと手を叩けば武装した歩兵部隊の面々から「おー」だの「おつかれー」だの気の抜けた返事が返される。
砂漠に潜伏しているとあるテロ組織の制圧作戦。
それはシオンと〈ミストルテイン〉歩兵部隊によって滞りなく――アンナ曰く「テロリストたちが若干可哀想になる」くらいにあっさりと完了した。
まずアキトが降伏勧告をする。……もちろんアキトにしろテロリストたちの制圧を命じた上層部もテロリストたちが降伏するとは思っていないが、人類軍の立場的にやらないわけにはいかないので勧告しているだけではある。
そんな義務としての降伏勧告をしつつ、しれっと空間転移でテロリストたちの拠点に潜入したシオンが降伏の意思を最終確認。
降伏の意思なしとわかれば即座に空間転移で敵中枢に直接歩兵部隊を突入させるという流れだ。
ちなみにこの作戦。シオンではなくミスティ発案である。
少し前まではシオンに頼るのに後ろ向きだったはずが、とりあえず信用すると決めればしっかりと作戦に効果的に組み込んでくる。
シオン相手だったから空回っていたというだけで、基本的には優秀な軍人なのだ。
実際、理不尽と言ってもいいくらいの電撃作戦で司令室を制圧できたおかげもあってアンノウン誘導装置を使われることもなければ、指揮系統の頭を最初に潰せたおかげで残る構成員たちの制圧もそれはもうあっさりと片付いた。
〈ミストルテイン〉側は無傷、テロリスト側の被害も最小限で終えられたのはこの作戦のおかげだろう。
「いやぁ、にしてもこの防御装置すげぇな!」
「本当にな。ロケラン撃たれた時本気で死んだと思ったのに」
歩兵部隊の人々がキャッキャと話しているのは、彼らの首に下げさせた小さな機械のことだ。
この機械もまた今回の作戦で〈ミストルテイン〉側の被害をゼロにした立役者――小型の魔力防壁ジェネレーターである。
十三技班の方でひっそりと開発を進めていたもので、実のところまだ人類軍の方にちゃんと存在を伝えていなかったような代物なのだが、シオンの思いつきで今回歩兵部隊に持たせておいたのだ。
実戦での使用は初めてだったがその効果は絶大で、テロリストたちの銃弾はもちろん苦し紛れに撃ち込まれたロケットランチャーの爆発からも使用者の身を守ってみせた。
「冗談じゃなく、これからの戦争を変える代物よね……」
「んーあんまり戦争には使われてほしくないですけどね」
ただの人間でもお手軽に魔力防壁が展開できるようになるので、今までの銃弾や対人兵器の類はほとんど無効化できる。
兵士の命を守れると言えば聞こえはいいが、それを持つ側が一方的に相手を攻撃できるようになるということでもある。
シオンも十三技班もあくまで対アンノウンを想定して開発したのであって、アンナの言うように人間同士の戦争で普及されてしまうのは正直望むところではない。
「まあなんにせよ、おかげさまで歩兵部隊全員無傷で帰って来れたんだから今はそれでよしとしましょう」
「ですね。……それでこの後はどうするんですかね?」
あくまで今回の任務は対象のテロリストの制圧のみ。
それがあっさりと片付いた以上は次はどうするべきかという話になる。
「とりあえずは捕まえたテロリストたちを近くの人類軍基地まで連れてくことになると思うわよ。……最悪殲滅も止むなしって話だったのにほぼ全員生捕りにしっちゃったからきっと上層部の人たちも驚くでしょうね」
「普通は生捕りなんて無理でしょうからね……」
空間転移や魔力防壁というチートを存分に活用しての作戦だったからこの結果なのであって、普通に人類軍の装備などで行えばこうはいかなかったはず。
上層部の想定外の結果が出せたとしてもなんらおかしくはない。
「でもって今の捕虜たちを送り届けたら……多分また別のテロリストの制圧に駆り出されることになるんじゃないかしらね」
「今更ですけど、それでいいんですか? 俺たちってどっちかというと対アンノウン向きの部隊ですよね?」
そういう命令が出されたので今回テロリストたちを制圧したわけだが、今までの〈ミストルテイン〉は魔物堕ちを含めてアンノウンや人外案件への対処を任されてきたはずであるし、それらは〈ミストルテイン〉でなければ対処できないことも多い。
一方でテロリストの相手となると、言い方は悪いが〈ミストルテイン〉でなくても対処ができる。
現実として世界各地でアンノウンの活性化が見られている状況も鑑みれば、この手の作戦に〈ミストルテイン〉を使っている場合ではないのではなかろうか。
「そこら辺はアタシも気になってるんだけど……今はテロリストをどうにかしたいっていう意見が多いみたいよ。まあ、最高司令官を殺されておいてそのまま放置ってわけにもいかないしね」
「ああ、なるほど」
クリストファーという人類軍のトップは状況的にテロリストに殺されたと判断されている。
世界を守る軍隊である人類軍のトップがテロリストに殺されたとなれば、社会不安を煽るだけではなく世間からの人類軍への評価や信頼にも響くことになるのは言うまでもない。
「体裁的にテロリストを野放しにはできないってわけですか」
「それもあるし、アンノウン誘導装置も問題だからね。……無作為に出てくるアンノウンよりもその気になれば人口密集地を狙ってアンノウンを出せるテロリストたちの方が危険でしょ」
そう言われると確かにその通りだと納得せざるを得ない。
「結局のところ、一番恐ろしいのはアンノウンじゃなくて同じ人間って話になっちゃうんですかねぇ」
「そうねぇ、嫌な話だけど否定はできないわ」
知能を持たず自然現象として姿を現すアンノウンたち。
明確な悪意を持ってアンノウンを同じ人間にけしかけようとするテロリストたち。
果たして本当に恐ろしいバケモノはどちらなのだろう。
「ま、状況はわかりました。しばらくはテロリスト相手に奔走することになりそうですね。……そんなことやってる場合なのかって気もしますけど」
「ええ。あんまり時間がないからね」
シオンたちの目標である和平の成立は、【異界】の侵攻が始まる前にせめて交渉の開始くらいにはこぎつけておかなければ厳しくなる。
しかしクリストファーの死によってそれが大きく遠のいてしまっているのが実情だ。
「アキトもミスティも裏で上層部の知り合いに声をかけたり色々としてくれてるみたいだけど、すぐにってわけにはいかないみたい」
残念ながらシオンに人間の権力者の知り合いなんてものはいないし、アンナも同じくだ。
この手のことでふたりにできることはない。
「だから、アタシたちはただ目の前のことをしっかり片付けて、せいぜい上層部に恩を売ってやりましょう」
「今はそれしかないですもんね」
できないことよりも今できることを。
ふたりで頷きあってそれぞれの仕事に戻るシオンとアンナだった。




