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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
11章 目覚める者、眠りにつく者
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11章-とある砂漠での出来事-


――某日、中東の砂漠地帯。


一見するとなんの建造物も見当たらない広大な砂漠を注意深く――相当に目を凝らして観察すれば、その片隅に砂漠によくある岩に偽装された建造物があることがわかる。


その建造物の中にあるエレベーターを降りたその先に、とあるテロリストたちの拠点があった。


旧暦の戦乱の時代、とある国が秘密裏に建造した基地を利用した拠点はテロリストたちしかその存在を知らない。

――ただし今となっては「知らなかった」というのが正しいだろう。


「人類軍の飛行戦艦三隻。真っ直ぐにこちらへと向かってきます!」

「クソッ! ここが知られたということか!」


基地の中枢である司令室でテロリストのリーダーの男が悪態をつきながら机に拳を叩きつける。


「しかし、本当にこの基地の存在に気づいているのでしょうか? 別の作戦のためという可能性もあるのでは?」

「なんの用があってこんな砂漠地帯を目指す? アンノウンの出現情報すらないんだぞ」


戦艦三隻が出撃した拠点から他の人類軍基地のある都市へと向かう場合、この拠点のある方角に進むのはかなりの遠回りになる。

拠点付近の砂漠地帯でアンノウンの出現でもあればそれの討伐という可能性があるが、それがないなら人類軍がこちらに三隻もの戦艦を向かわせる理由がない。

さらに言えば、とある都市に潜ませていた諜報員からの定時連絡が途絶えて数日が経過している。


それらを踏まえるなら、諜報員が人類軍に拘束されなんらかの方法でこの基地の情報を白状させられたと考えるのが妥当だろう。


「ギリギリまで様子を見るが、この拠点の情報が漏れていると考える方がいいだろう。拠点を放棄する準備を進めろ」

「しかし、ここを放棄してしまえば……」

「わかっている」


現在この世界には無数のテロ組織が存在するが、どれだけ大きな集団でも資金も物資も潤沢とは言い難い。

男たちは規模で言えばそれなりに大きなテロ組織だが、一番の拠点であるこの拠点を失えば受けるダメージはかなり大きい。

はっきりと言えば、再起するのはかなり困難だろう。


「再起は厳しいが不可能ではない。しかしここで捕まってしまえばその可能性すらもゼロになる。……ここはひとりでも多くの同志が生き延びる選択をする」


リーダーの男の指示に悔しさを滲ませつつも部下たちがそれぞれ拠点放棄の準備を開始する。


「並行してアンノウン誘導ミサイルの準備を進めろ。どうせ持ち出せはしないからな、全て使い切って構わん」


ありったけの誘導ミサイルでアンノウンを呼び集め、人類軍がそれにかかりきりになっている間に地下トンネルを利用してこの拠点を離れる。

地下トンネルの存在はこのような事態に備えて諜報員たちにすら知らせていないので、人類軍にも知られてはいないはずだ。


組織のメンバーを確実に逃げ延びさせて再起のタイミングを窺うだけだ。


「(幸い、近頃は乗り気なスポンサーもいるからな)」


半年ほど前からアンノウン誘導装置を筆頭に資金面にしろ物資面にしろ積極的に提供してくれるスポンサーがいる。

その前提があれば、再起できる可能性も大きく上がるだろう。


リーダーの男は“この先”について考えを巡らせる。そんな中、ザザッという音が司令室の通信機から聞こえた。


『こちらは人類軍所属、特別遊撃部隊〈ミストルテイン〉。砂漠地帯の地下拠点に潜伏しているテロ組織に告ぐ』


オープンチャンネルの通信での呼びかけは男たちの予想が当たっていたことを決定づけた。

完全にこの拠点の存在は知られてしまっているらしい。


『我々は無益な争いを望まない。武装を解除して投降するのであれば諸君らの身の安全を保証する。繰り返す、武装解除して投稿するのであれば諸君らの身の安全を保証する』


若い男の声で繰り返される降伏勧告を部下のひとりが鼻で笑った。

リーダーの男も似たようなもので、彼がやらなければ男自身が鼻で笑っていたかもしれない。


そもそもこの程度で降伏するのであればテロリストなどしていないというのもあるが、何よりテロリストに広くアンノウン誘導装置が出回っていることをわかっていてなお人道的(・・・)な降伏勧告をする甘さに対する侮蔑だ。


まあ人類軍の立場を思えばしないわけにはいかないのだろうが、自分たちのトップをテロリストに殺されておいてなおこれというのは笑えてくる。


「どうしますか?」

「当然降伏などしない。準備を進めろ」

「えー、降伏しないんですかー?」


男の背後から妙に緊張感のない若い少年の声が聞こえてきた。


「(志の低いガキがいたらしいな)」


組織には若い少年兵も少なからずいる。その中の誰かが愚かにも降伏したいなどと考えているようだ。

そんな軟弱者を叱り飛ばそうとリーダーの男は勢いよく振り返り、――声を発することもなく動きをぴたりと止めた。


振り向いた先には確かに少年がいた。十五、六歳くらいであろう小柄な少年だ。


しかし、その少年はテロ組織の構成員というには小綺麗で――この状況に似つかわしくないニコニコとした笑みを浮かべていた。


「お前は……誰だ?」

「それはいいんですけど、本当に降伏しないんですか?」


男の問いをどうでもいいと雑に流して少年が改めて問いかけてくる。

こちらを馬鹿にするようなその態度に男は思わず声を荒げる。


「するわけがないだろう!」

「そうだ! 降伏するくらいなら自爆する方がマシだ!」


リーダーの男の否定に部下たちも賛同するように声を荒げる。

大の男たちがここまで叫べば叫ばれた側は多少怯むくらいしそうなものなのだが、目の前の小柄でひ弱そうな少年はただ「ふーん」とこぼすだけだった。


そのあまりに余裕のある態度にリーダーの男が違和感とわずかな恐怖を覚える中、少年は「わかりました」と軽く音を立てながら両手を合わせる。


「みなさんは、降伏しない。あくまで人類軍と戦う構えってことですね。オッケーオッケーそれじゃあ俺も仕事を始めましょう」


そして少年はパチンとひとつ指を鳴らす。

その次の瞬間、少年の背後には何人もの武装した兵士が立っていた。


突然すぎる状況に男も部下たちも反応できない中、現れた兵士たちが銃口をこちらに突きつけてくる。


「降伏してくれなかったので、武力制圧を始めちゃいます。……アキトさんに殺さないように手加減しろって言われてるので、できるだけ大人しくやられてくださいね?」


その言葉が終わると同時に少年の足元から飛び出した黒い拳が、リーダーの男に見事なアッパーカットを決め、その意識を刈り取る。


その約三〇分後。

テロリストたちの地下拠点は人類軍側に負傷者をひとりも出すことなく制圧されたのだった。


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