11章-喪失-
――クリストファー・ゴルド最高司令官を護送していた戦艦及び、護衛艦四隻が北大西洋にて消息を絶った。
――消息を絶つ直前にはアンノウン誘導装置特有の反応と救難信号、救援要請の広域通信が確認されており、すぐに近くを哨戒していた複数の部隊が救援に向かうも戦艦は発見できず。現地に残っていたのは少数のアンノウンのみ。
――まだ確認中ではあるが、戦艦及び護衛艦の残骸と思しき金属片を複数回収。生存者は確認できていない。
――以上の状況からして、クリストファー・ゴルド最高司令官および彼の護送に従事していた軍人たちの生存は絶望的であると判断せざるを得ない。
イギリスにてクリストファーを見送った翌日に届いたそんな報告に、ブリーフィングルームに集められた〈ミストルテイン〉主要メンバーは何も口にはできなかった。
「……俺たちが護衛を続けられてりゃあ、こうはならなかっただろうに」
しばらくの沈黙を破ったラムダの声は悔しさと憤りのニュアンスを隠さない。
「上層部の連中は何を考えてやがったんだ」と続く不満の言葉を咎める者は誰ひとりいなかった。
誰も彼も自分たちが護衛を続けていればと、守れたはずなのに守れなかった命があることへの後悔や悔しさに胸を痛めている。
「……それで、この後どうなる」
冷静にそう尋ねたのはゲンゾウだった。
クリストファーとプライベートでも親しい間柄だったらしい彼が悲しんでいないはずもないが、それでもこの場の最年長らしく表にその悲しみを出すことはほとんどしていない。
そんな彼の問いに、ミスティが重々しく口を開く。
「現時点ではまだ何も決まっていません。上層部としてもこのような事態になるとは想定していなかったようですから、まだ混乱しているようで」
「まあ、準備があからさまに足りてなかったってわけでもねぇからな」
クリストファーが乗る戦艦は最新鋭の高い戦闘能力を持つものだったし、護衛のために四隻の戦艦も同行していた。戦力として〈ミストルテイン〉には少しばかり劣るかもしれないが、それでも十分な戦力である。
それがあっさりと破られてこのような結果になってしまったのは上層部としても完全に想定外だったのだろう。
「しばらくはこのままイギリスで待機しつつ、上層部からの指示を待つことになります」
上層部の混乱は少々心配ではあるが、もとより各地での作戦行動はそれぞれの地域の支部に権限が与えられている。
上層部の直接的な管理下にある〈ミストルテイン〉のような例外を除けば、最高司令官の死という大事件があろうとそこまで大きな混乱には繋がらないはずだ。
この一件の影響でアンノウンへの対処などに大きな影響が出る心配がないことは幸いだと言えるだろう。
「ひとまず主要メンバーには先に通達をしましたが遅くとも本日中には人類軍内部の全ての人間に、明日の昼頃には民間に対しても会見を行って公表するそうです。混乱を最小限にするためにこのことはひとまず内密に」
ミスティの指示に集められた面々は頷く。
現状それ以上話せることはないこともあり、これにて解散となった。
それぞれがどことなく重い足取りでブリーフィングルームを去っていく中、シオンは静かにアキトのところへと向かう。
ミスティと何か話をしている様子だったが、シオンの接近に気づいてこちらに振り返ってくれた。
「シオン。どうした?」
「あー、アキトさん、大丈夫ですか?」
クリストファーの死に対して誰よりも後悔や悔しさを抱えているのではないかと心配してぎこちなく問いかければ、彼は少しだけ表情を歪める。
「何も思わないわけじゃない。が、俺がここで潰れてる場合じゃないからな」
それはつまり全く大丈夫ではないが無茶をしていると言っているも同然だが、そういう無茶が必要な状況なのはシオンにもわかるのでダメとは言えない。
それに虚勢とはいえ前を向いて動くことができているのならとりあえずは大丈夫だろう。
であれば、シオンもその強がりを尊重して話を進めるだけだ。
「少し、話したいことがあるのでこの後アキトさんのお部屋にお邪魔してもいいですか?」
アキトが不思議そうな、そしてそばで聞いていたミスティがなんとも言えない複雑な表情を浮かべたがあえてそれは気にしないでおく。
「ここでは話せないのか?」
「ダメですね。俺とあなたのふたりっきりじゃないとダメなので」
ミスティがさらに複雑そうな表情になったが、アキトはただ「わかった」とだけ答えた。
「少しミスティと話さなければならないことがある。先に部屋に行って待っていてくれ」
「了解です」
アキトの了承を得たシオンは、指示通り先にブリーフィングルームを出てアキトの私室へと向かうことにした。




