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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
10章 争いを拒むもの、争いを望むもの
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10章-クリストファー・ゴルドは微笑む①-


「私のいない時に魔女に会いに行くだなんてずるいじゃないか」


そう言ってぶすくれているのは、御歳いくつかは知ったことではないがだいぶいい歳こいた爺さんである人類軍最高司令官殿である。

決して言葉選びが年齢に見合わないわけではないのだが、この場合振る舞いが妙に子供染みているせいで妙な空気になっている気がする。


「ずるいと言われましても。俺たちはともかく人類軍最高司令官が人外に大手を振って会いに行くのはいかがなものかと」


アキトの正論にシオンとミスティがうんうんと激しく頷く。


そもそもクリストファー・ゴルドという男がその程度のことわかっていなはずもない。

わかっていてなお、こうして拗ねているのだ。


「ガブリエラ君にも普通にあっているしこの船にはシルバ君という少年もいるのだろう? 今更魔女に会うくらいなんら問題はないと思わないかい?」

「人類軍関連の施設とか〈ミストルテイン〉の中で会うのと魔女たちの本拠地で会うのとじゃ天と地くらいの差があると思うんですが?」


実際のところどうだとかそういう問題は置いておいて、単純にどうせなら魔女たちと会ってみたかったというのが最高司令官の本音であってこの問答にも正直意味はないだろう。


さすがにこれ以上ダラダラとこの話をするつもりもないらしく、最後に大きくそれはもう残念そうにため息をついてクリストファーは話題を変えた。


「さて、いくつか君たちにニュースがある」

「いいニュースと悪いニュースですか?」

「いや。そういうお約束のものではなく、普通にどちらもいいニュースではあるんじゃないかな」


シオンの冗談に律儀に付き合いつつ、クリストファーは指を一本立てた。


「まずひとつ。本日私が済ませてきた会合で、私の欧州巡りは無事に完了したよ。ひとえに君たちのおかげだ」


続いて二本目の指を立てる。


「次、情報部の尽力により、私を狙っていたであろう欧州に潜んでいたテロリストたちは徹底的にお縄になった。ひとまず私へのテロ攻撃は落ち着くだろう」


そして三本目。


「最後に、〈ミストルテイン〉に与えられていた私の護衛任務は終わりだ。私は明後日には用意された戦艦で米国にある本部に戻ることになっているので、それまで護衛を続けてくれればいい」


確かに全体的に良いニュースではあるのだが、最後のひとつは少々引っかかる内容だ。


「その、いいのですか? いくら欧州に潜むテロリストを排除できたとはいえ、容易に護衛の戦力を削ってしまって」


テロリストたちの本拠地は中東であって、欧州に出てきていた者たちを捕まえまくったとしても生き残りはいる。

今までほどスムーズに手は出せないにしろ、今後手を出してくる可能性のある者たちがそれなりに残っているであろう現時点でクリストファーを守る戦力を減らすというのは少々気が早すぎるように思える。


「……実は俺たちに教えられないだけで、人類軍内部にいた暗殺の黒幕もとっ捕まえられた、とか?」


そうだったらこの決定にもあっさり納得できるのだが、クリストファーは首を横に振る。


「残念だけれど、暗殺の黒幕については手がかりもまだまともに得られてはいないよ」

「情報部とかも動いてるんですよね? それでも手がかりなしですか?」

「ああそうとも。まあ、私が黒幕なら一番に情報部を欺く方法を考えるからねぇ」


人類軍の諜報活動を一手に引き受ける諜報部は人類軍内外問わず悪いこと(・・・・)をする側からすれば危険な相手。

他の何よりも対策を考えるというのは当然と言えば当然の判断だろう。


「彼らの情報網の穴を的確に突いているのか、あるいは、彼らの一部がすでにすっかり抱き込まれてるのか」


存在は判明していて黒幕がテロリストに与えたであろう潜水艦なども確保できているのに尻尾が掴めていない、というのはクリストファーの言う通りそういうことなのだろう。


「であれば、尚更現時点で警戒を緩めるのは得策ではないのではありませんか?」


情報部の一部が牛耳られているというパターンなら、下手をすれば情報部によって欧州に潜んでいたテロリストが排除できたという報告すらフェイクなんて可能性まである。

護衛の戦力が落ちるタイミングは少なくとも黒幕には筒抜けだろうし、〈ミストルテイン〉から離れた瞬間にあの世行き、というのが普通にありそうで笑えない。


「確かにちょっと気が早いかもしれないんだがね。これ以上君たちを私が独り占めするわけにもいかないというわけさ」


要するに、人類軍上層部の方でそのような判断になったということなのだろう。

それ自体も大概怪しい。


「正直、ここで警戒緩めるとか最高司令官を殺してくださいって言ってるようなものなのでは?」


シオンが言いたいのはつまり、上層部内に黒幕とその一派が紛れているんじゃないかという話だ。


誰がどう考えてもクリストファーの身が危険な時に彼を〈ミストルテイン〉から離そうとすれば黒幕なのではと疑われてしまうが、欧州のテロリストの排除が終わったというそれらしい結果を得られたので引き離しにかかった。という風に考えれば辻褄は合うだろう。


「選挙じゃないわけですし誰が言ったかはわかってるんでしょ? その辺の人たちがシンプルに怪しいんじゃないですかね?」

「そういう考え方もあるけれど、私が黒幕なら自分は反対せずに適当な他人が反対してくれるように仕向けるかな」

「うーん、タチが悪いけどごもっとも」


シオンの考えているような黒幕の暗躍がありそうとはわかっていても、尻尾を掴むには足りないというのがクリストファーの考えということらしい。


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