10章-お暇の時間-
シオンとルリアが内緒話を終えた頃にはミランダとアキトたちの内緒話ももうとっくに終わっていたようで、シオンは何に邪魔されるでもなく彼らのところへと戻った。
「シオン、機械の方はどうだったかしら?」
「ちゃんと直しましたよ。……でも次からあのレベルの修理はお金取りますからね」
さすがにあれだけの数と種類を毎度無料で修理させられてはたまったものではない。
絶対に金をよこせとまでは言わないが、せめて美味しい食事くらいはご馳走になってもバチは当たらない作業量だったと思う。
「それはさておき、結構いい時間ですよね」
「ああ。確かにもう夕方だ」
昼前にこの≪魔女の雑貨屋さん≫本社に来たわけだが、世間話はもちろん機械の修正なんてことまでやっていたのだから時間が経っているのは当然だ。
「ミセス、そろそろ失礼しようかと思います」
「あらそうなの? せっかくだから晩御飯もここで食べていってはいかが?」
「いえ、任務の関係上日が暮れるまでには〈ミストルテイン〉に戻らなければならないので」
日が暮れる頃にはクリストファーが会合を終えて〈ミストルテイン〉に戻ってくる。
会合の間護衛を担当していた現地の人類軍から、仕事を引き継がなければならないという訳だ。
この国にいる限りアンノウンの脅威はないに等しいが、人間の暗殺者などが差し向けられる可能性もあるので油断はできない。
「それならさすがに引き留められないわね……今日は楽しかったわ。また機会があれば気軽に遊びに来てちょうだい」
「ぜひ≪魔女の雑貨屋さん≫を今後ともご贔屓に」とミランダはウィンクした。
部屋を後にして城の中を外――ここに立ち入る際に通った雑居ビルへと向かう。
ミランダはあの部屋に残し、来た時と同じくルリアに先導してもらっている状態だ。
「さすがに城の中の探検とかはできなかったな」
「またそんな小学生みたいなことを……」
「ギルらしいといえばギルらしいですけどね」
「気持ちはわからなくもないけど、探検はやめといた方がいいわよ」
なんてことのない雑談だというのにルリアは随分と微妙な顔をしている。
「なんでだ?」
「この城、魔法でただでさえ商品開発部あたりがいろいろやってる上に拡張とか機密保持のための防御とか混沌としてるから。階段登ったはずなのに何故かひとつ下の階にいるとか割とあるからね」
「何それ面白そう」
「そんなに興味あるなら〈ミストルテイン〉にもそういうの作ってやろうか?」
「待てやめろバカ」
冗談のつもりで言った言葉だがアキトの反応は素早かった。
「というかそんな気軽にやれるものなのか?」
「〈ミストルテイン〉はもう俺の仕掛けた魔術が張り巡らせてありますからね」
「その話は確かに何度か聞いてるが……」
ちゃんと話をしたわけではないが、何度かその話題には触れている。
実際それでレオナルドを欺いたりもしているので実感もある程度はあるだろう。
「この城ほど好き勝手するのはあれですから精々探知魔法を至る所に仕込んであるくらいですけど、その気になれば階段登ったつもりが下のフロア、くらいはあっさり」
「そもそも意図的に仕込む魔法じゃないだろうが」
「まあそこは遊び心ってやつですよアキトさん」
そうこう話をしている内に、城の外へ出て雑居ビルへと通じる扉の前まで到着していた。
以前来た時にも思ったことだが屋外にポツンと扉があるだけという絵面はなかなかシュールである。
「さて、それじゃああたしのお見送りもここまでですね」
「ああ、いろいろとありがとう、バッカス君」
「いえいえー。〈ミストルテイン〉やシオンにはずいぶんと仕事をもらってますからこのくらいはお安い御用ですよ」
ルリアのニコニコとした笑顔が営業スマイルであることをシオンはよく知っている。
「ですので、また何かあったら是非ともあたしに声をかけてくださいね。知らない仲でもないですからサービスしますんで」
「って言って〈ミストルテイン〉からの依頼を独占しようとしてるのがこのがめつい魔女です」
「やかましい」
「……そんなことしなくても、こちらも君のような面識のある相手の方が頼みやすいからな。心配せずとも君に声をかけることは多くなる」
「さっすがナツミンのお兄さん! どこぞのケチな神子と違って話がわかりますね!」
「ちょっとアキトさん、これにそんな優しくしたらつけ上がりますよ!」
「これとは何よ!」
ギャイギャイと言い争いを始めるシオンとルリアにアキトが控えめに笑う。
「なんというか、シオンがここまで喧嘩する相手は初めて見るな。これからも仲良くしてやってくれ」
「「仲良くはないですが!?」」
「それで仲良くないというのは無理があると思うぞ」
そう言われてしまうと言い返しにくく、自然と言い合いも止まった。
「何はともあれ、改めて今日はありがとう。ミセスにも改めてよろしく伝えておいてくれ」
その言葉を最後にシオンたちは扉から雑居ビルへと戻っていく。
最後にシオンが扉を潜ろうとすると、後ろからルリアに呼び止められた。
「シオン。何をとかは多すぎるから言わないけど、ちゃんとしてよね」
その言葉が指すものが無茶をするなという話なのか、トウヤのことをどうにかしろという話なのか、はたまたもっと別のことを指しているのかは定かではない。
シオンはただ「へいへい」と雑な返答だけ残して≪魔女の雑貨屋さん≫本社を立ち去るだけだった。




