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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
10章 争いを拒むもの、争いを望むもの
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10章-≪魔女の雑貨屋さん≫本社にて①-


魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫本社へと通じるドアを潜り抜けた先。

当然のように屋外に繋がっていることには今更誰も驚きはしなかったが、代わりに目の前にあるものにシオン以外の面々が息を飲んだのがわかった。


「本社って聞いてたから普通にオフィス的なものをイメージしてたけど……これってもうお城(・・)だよね」


ナツミの感想はまさにその通りで、寂れたビルの一角からやってきたシオンたちの目の前には巨大で古めかしい城がそびえ立っている。

シオンも初めて見た時にはナツミたちのように驚かされたものだ。


「うーん定番の反応って感じ」

「そう言ってるルリアも最初は似たような反応したんだろ」

「そりゃそうでしょ。現代っ子のあたしたちからすれば映画とかの世界の代物だもん」


現代にそういったものが残っていないわけではないが、決して数が多いわけではない。

シオンたちのような若い世代からすれば、ファンタジー映画のようなフィクションの世界にしか存在しないようなものが目の前に現れればこういう反応になるのも自然なことだろう。


「しかもこれで魔女の会社なんだろ? 中身もやっぱりファンタジーしてるんじゃねぇかな!」

「確かにね!」


テンションが上がってきているギルとアンナ。

そんなふたりを前にシオンとルリアは無言で顔を見合わせた。それからルリアは小さく首を横に振る。


シオンは以前一度ここに来たことがある。そのため、この場所が実際のところどういう場所なのかも当然知っている。


「……まあ、とりあえず中に入りましょう」


期待に胸を躍らせる恩師と親友を少々哀れに思いつつ、シオンは古城の大きな扉に手をかけた。


「――はいはい台車通るわよー!!」


扉を開けて早々、古めかしい城の大きなエントランスをガラガラと音を立てながらダンボール満載の台車と宅配業者のような服装の女性が横切った。

台車を直接押していないあたりは一応ファンタジーだが、やっていることはファンタジーもクソもない。どこぞの工場か何かかと思うような光景である。


「はいもしもし? ええ!! 在庫ないの!? でも倉庫の管理システムでは在庫ありって出てたはずなんだけど!」


右手のスマートフォンを耳に当てつつ、左手に書類を抱えてカツカツとその場を横切る魔女はいわゆるオフィスカジュアルという感じの服装で電話の先の相手とやいやい言いながら早足で歩いていく。

こちらについては台車の彼女以上に魔女要素が皆無である。せめて使っているスマートフォンがマジフォンであってほしい。


「……魔女の会社?」

「魔女の会社」


ギルが首を傾げつつ聞いてきたので、事実を事実として復唱してやった。


「そりゃあ魔女の会社だし魔法だってちゃんと使ってるんだけどね。同じ城の中でいちいち空間転移させるのもコスパ悪いし、お金の計算とか在庫管理みたいな厳密に管理しないといけないタイプの業務って魔法とは相性悪いからさ」


荷物を魔法で浮かせるのは簡単だが台車に乗せて動かせばより少ない魔力で楽に運べるのは事実であるし、念話だって魔女なら誰でも使えるがスマホはスマホで便利。

倉庫の在庫管理などの業務はコンピューターで管理した方が確実だ。


いくら魔女の営む会社とはいえ、なんでもかんでもファンタジーなわけではないのである。


「ちなみに、あそこに見える扉の先にはサーバールームがあるわけなんだけど」

「これ以上夢壊さなくても……」


魔女からサーバールームというあまりにちぐはぐなワードが飛び出してきて面々がなんとも言えない顔になった。


「とまあそういうのはさておき、お祖母様に会いに来たんでしょ? 案内するよ」


ルリアの先導でエントランスから移動を始める。


「……って言っても、実はお祖母様緊急で会議入っちゃっててすぐに会えないんだよね。約束してたのにごめんなさいねってお祖母様からの伝言ね」

「俺たちの用事なんて顔見せだけだし気にしなくてもいいのに」

「むしろ忙しいところに無理に時間を作っていただいてしまったのでしょうか……?」


ガブリエラが不安そうにするのに対してルリアは違う違うとひらひらと手を振る。


「全然そんなことないよ。ホントにたまたまだから」

「ですが、ミランダ様は≪始まりの魔女≫なんですよね? ご多忙なのでは?」

「ううん。確かに十年くらい前まではすごく忙しかったらしいんだけど、今は一応隠居してて、本当に大事なこと以外は≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫のことも口出ししないことになってるの」

「(それはそれで緊急の会議ってのが気になるけど)」


魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫の魔女たちは有能だ。

そんな彼女たちがミランダに相談しなければならない案件となると只事ではないだろう。


それが商売の話ならいいが、そうではなかったなら――


「(ま、俺が気にすることでもないか)」


ミランダが関わって解決できないような問題はこの世にそう多くはない。

協力を求められたなら話は別だが、そうなるまではシオンが気を揉む必要もないだろう。


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