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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
10章 争いを拒むもの、争いを望むもの
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10章-力と弱点-


〈ミストルテイン〉が再びクリストファーを迎え入れてからしばらく。


状況としてはあまり変わりなく、移動したり基地に停泊したりを繰り返しつつちょくちょく誘導されてきたアンノウンの襲撃を受けて、それを蹴散らして――という具合だ。


前回の短期間の護衛ではなく、期限は未定。

しかも護衛兼囮という任務にそれこそ最初は船員たちも一部を除いてピリついたりもしたのだが、そこは修羅場を潜り抜けてきた〈ミストルテイン〉の船員たちである。

一週間経過した時点であのミスティですら普段通りの調子を取り戻していた。


そんないつもより少し物騒な日常に〈ミストルテイン〉の誰もがすっかり慣れてきた頃。


「そろそろ新型の稼働テストがしたいです!」


十三技班の面々で週一くらいで行っているミーティングにてシオンが勢いよく手を挙げる。


クリストファーの護衛――は割と些事として、和平のことやコヨミに頼まれた“あの子”のことなどいろいろあるはあるが、今シオンがやるべきはこれである。


「機体の方はもうできあがってるし、問題なく動かせるはずです」

「でもECドライブの中身がまだじゃないの?」

「そうですね。やっと半分くらいです」

「じゃあ動かせないんじゃねぇのか?」


機体の外側がどれだけできあがっていようと動力部がまだであれば動かせない。

リンリーとロビンの指摘は常識的に考えて当たり前のことだが、そのくらいの常識はシオンにかかれば片手間でも覆せるわけで。


「テスト稼働……というか、ぶっちゃけバリバリの本格稼働だったとしても機動鎧一機くらいなら俺の魔力だけで動かせますし」

「シオン君……」

「薄々そんな気はしてたっすけど、ついにその辺隠さなくなってきたっすね……」


コアとなるエナジークォーツのないECドライブだろうがシオンがエナジークォーツの代わりに魔力を注ぎ込めばいいだけの話だ。

ガブリエラやシルバではそこまでの芸当はさすがに難しいだろうが、シオンなら問題ない。


「それって最近できるようになったやつか? それとも前からできたけどサボってたやつ?」

「前からできたけど必要もないからやってなかったやつ。それはそうとサボりっていうのは人聞き悪くない?」


サボりというのは怠けることであって、無茶をしないことはサボりではない。と声を大にして言いたい。


「テストはともかくとして、シオンはどうパワーアップしてやがるんだ?」

「どうと言いますと?」

「テメェがドラゴンだの魔物だのの力も手に入れたってのはざっと聞いちゃいるが、具体的にどう強くなったのかがよくわからねぇって話だ」

「確かに……食べた分最大エネルギー量が上がったってことでいいのかしら……?」


言われてみるとその辺りの詳しい話は十三技班はもちろん、アキトたちにすらしていない。

聞かれなかったというのもあってそこまで細かく説明していなかった。

まあシオン自身も何もかもわかってるというわけでもないのだが。


「そうですね……技師界隈的にわかりやすい説明をすると、追加兵装が外付けされたみたいな感じですかね」


シオンという元々の機体に、ファフニールの能力という今まで装備していなかった兵装も追加され、今までできなかったこともできるようになったというのが現状だとシオンは理解している


「あれ? それだとエネルギー総量は増えてないの?」

「実際魔力量は増えてないですよ。ファフニールを普通に食べてたならそうなってたかもしれませんけど、今回の場合はあくまで俺の中に封印してるだけなので……」


“天つ喰らい”で本当にファフニールを喰らっていたなら、魔力量や能力などがシンプルにシオンに上乗せされていたかもしれない。


しかし現状はあくまで封印だ。


ファフニールはシオンの魂の中で存命中。

しかも穢れも抜けてきて人間のやってこないシオンの魂の中での生活をエンジョイし始めているくらいである。


彼が魂の中にいることでドラゴンとしての属性こそ得られているが、魂の中に溶け込むことはないので魔力までは手に入っていないのが現状ということになる。


「まあ逆にちゃんと食べちゃってたら俺の魂に存在が溶け込んじゃうわけですから、魔力ともかく能力は消えちゃってたかもしれませんけどね」


喰らった対象の魔力量分、シオンの魔力量が上乗せで増大することは過去の経験やサーシャなどと行った実験からはっきりしている。

だからシオンたちは≪天の神子≫の能力を以前のように定義していたのだ。


完全ではないとはいえ特別な能力を持つような強力な人外を喰らって初めて、能力の継承の可能性が浮上してきたのが今回の一件である。


「となると、ファフニールの封印を解いて外に出したらドラゴンの力もなくなるってことっすかね?」

「多分? 長く封印してたら俺の中に定着するなんてこともあるかもですけど……」

「……ややこしい、な……」

「俺自身、そう思います」


いつも比較的難しい顔をしているダリルがさらに難しい顔になってしまっているが、“神子”の能力なんてこんなものである。


特にシオンの場合は前例が全くないので、実際にどうなったかの結果でしか正体を測ることはできない。


「細かいことはさておき、ドラゴンのパワーってのはカッコいいよな」

「そうっすよね! ゲーマーとしてはやっぱりドラゴンって強キャラのイメージっすから正直燃えるっす!」

「俺もそう思ってたんすよね! シオンがこれ以上強くなると怒られる時とか怖えけど……」


キャッキャとドラゴンのことで盛り上がり始めるロビン、カナエ、ギルの三名。

他のメンバーの中にも似たようなワクワク感を出している者はいるのだが、シオンとしてはちょっと憂鬱でもある。


「というか、このパターンなら悪魔とか吸血鬼のパワーも獲得できたり? チートじゃないっすか!」

「いや、これ以上属性増やしたくないです。ドラゴンだってちょっと嫌なのに……」

「え、そうなんですの?」


マリエッタが驚いているが、紛れもなくシオンは本心から言っている。


「確かにパワーがあるのはメリットもあるんですけど、弱点が増えるっていう問題もあって」

「弱点、ですか?」

「そうそう。人外として属性が増えると弱点も増えるんだよね」

「吸血鬼だと日光に弱くなる、というようなケースでしょうか?」

「それもそうだし、あとは特定の魔術とかにも弱くなる。神殺しとか竜殺しとかね」


魔術は非常に多様であり、魔力と確かなイメージがあれば多くが実現できる。

そんな中で、特定の対象を殺すことに特化した魔術も発展してきている。


「あー、そういえばファフニール戦の時、対神武装とかいうのあったわね」

「まさにそんな感じです。あれらは量産品なので“神に効きやすい”くらいですけど……マジの神殺しの武器だ、“これで傷つければ神は死ぬ”くらいまで効果が強かったりするんで」

「神様特攻ってことっすね……んでもって今のシオンくんには神殺しも竜殺しもどっちも効いちゃうかもって話になるんすか」


まさにカナエの言う通りである。

神である時点で神殺しへの警戒が必要だと言うのに、竜殺しにも警戒しなければならないのだ。

仮に悪魔や吸血鬼の力まで手に入れたとすると、その辺りを殺すための術や道具にも弱くなってしまいかねない。


「しかも、神殺しとか竜殺しって結構メジャーなので術も武器も多いんですよね……」

「ファフニール的にグラムとかバルムンクがやばそうっすね」

「やめてください。中のファフニールのせいか名前聞くだけでも嫌な気分になるんですから」


ちなみにシグルズやジークフリートも最近のシオンにとってはNGワードである。

ファフニールの影響なのか名前を聞くだけでなんとも嫌な気分になってしまうのだ。


「そもそも、いくらなんでもそんなバカスカ封じ込めたら俺の人格とか魂に変な影響出ますから。差し当たってこれ以上何かを封印するのはパスです」

「その方がいいと思います。ファフニール一体ですら人格を奪われる可能性もありましたしね」


ガブリエラの言葉で他の面子も本当に危ないのだと察したようである。


「まあいい、大体状況はわかった。話が逸れたが機体のテストもやれるってんならやるに越したこともねぇからな。次にどっかに停泊する時にでもやるぞ」


ゲンゾウの一声に全員が了承の返事をし、ミーティングはお開きになった。


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