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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
10章 争いを拒むもの、争いを望むもの
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10章-エナジークォーツの作り方-


欧州へと向かう〈ミストルテイン〉。

その格納庫でシオンを中心に十三技班の主要メンバーたちが集まっている。


「はい。というわけでそろそろ新型のECドライブに使うためのエナジークォーツを作っちゃおうと思うんですが」

「いや、そもそもそんな気軽に作れるもんなのか?」


シオンの雑な導入にロビンが声を上げた。彼の感想はそのまま集まったメンバーの総意なのかうんうんと頷く者も多い。


「それがまあ、実際結構時間かかっちゃうんですよ」

「結構っていうと?」

「ただの魔力結晶であれば一瞬ですが、ECドライブに使えるほどのものとなると小さなものでも一週間は必要になるはずです。……機動鎧を動かせるほどのものとなると、ひと月ほどは必要かと……」

「そんなに!?」

「そもそも自然界においては年単位の時間をかけて生み出されるものですから……」


ガブリエラは驚く面々を前に困ったように笑う。


世界に満ちる自然界の魔力が地中で長い年月をかけて物質化し、結晶の姿になったものがエナジークォーツ――人外界隈であれば魔石だの精霊石だのの呼ばれ方をする代物になる。

シオンがお手軽に作っている魔力結晶も魔力を物質化したものという点では同じなのでエナジークォーツの一種とも言えるが、価値が全く別次元だ。


一番の特徴はやはり、魔力を半永久的に宿し続ける性質だろう。


厳密には世界のどこにでも存在する自然界の魔力を吸収・増幅・蓄積しているのでゼロから魔力を生み出しているわけではないのだが、それができるのは前者のものだけであるし、こちらは仮に中の魔力を使い果たしても消えない程度には物質としてしっかりと成立している。


後者のものはあくまで生成時に込めた以上の魔力は持たないので、何もしなければ込められた魔術を上限いっぱい使えば物質としての状態も保てず溶けるように消滅する。

シオンがナツミやレオナルドに渡したものが消えないのはシオンが魔力を遠隔で供給しているからであってあくまで例外だ。


何はともあれ、ECドライブに使えるレベルのエナジークォーツは一朝一夕で作れるものではない。


「細かい説明は省くとして、要するに膨大な魔力があるからドーンで作れるようなものじゃなくて、じっくり時間をかけて物質化させていかないといけないんですよ」

「それはわかったが、具体的にどれくらいかかる」

「ちゃんとしたスペックのを作らないとなので一ヶ月前後くらいのつもりです」


シオンの返答にゲンゾウはやや不満そうに唸る。

基本的にせっかちな性格の男なので時間がかかるのが嫌なのだろう。


「つっても、お前がそう言ってる以上はどうやったって一ヶ月かかるってこったろ?」

「ですねー。こればっかりは早く作業すればいいとかじゃないので」

「となると、もう早速始めてもらった方がいいんじゃないでしょうか?」

「そうですね。開始を遅らせれば遅らせるほど完成がズレ込む、ということでしょうから」


エリックとアンジェラの判断に他の面々も頷く。


「あ、でも、もしかして一ヶ月かかりきりとか? 分身がいるとはいえシオンが抜けると結構作業遅れそうよね」

「そこは大丈夫のはずです。最後の仕上げは作業が必要と聞きますが、基本的には魔法陣を使って自動で行えるもののはずですから」

「じゃあその仕上げ以外は今まで通りでいいんだなー」


わいわいガヤガヤと今後のスケジュールについて話し合い始めた面々だが、シオンはそこで大きくわざとらしい咳払いをした。


「で、本題なんですけど」

「え、まだ本題じゃなかったんすか?」

「エナジークォーツ作るのも本題ですけど、ぶっちゃけそこはわざわざ話すほどのことでもないですし」


ガブリエラの言っていた通り、最後の仕上げに少し作業が必要なだけなので仕事にもほぼ影響は出ない。

なんなら説明せずに裏でこっそり作っていたとしても誰にも影響は出なかっただろう。


では何故シオンがその説明をわざわざしているのかといえば、注意点があるからだ。


「エナジークォーツの生成にはそこそこのサイズの魔法陣が必要なのともしもの時の対処がしやすいように格納庫の端でやりたいっていうのがひとつ。……で、生成の間、俺の魔力をそれなりの量魔法陣の中に集中させることになります。で、数日ほどで不安定なエナジークォーツができてそこから少しずつ大きく強いものになっていくわけなんですけど……」

「……もったいぶってねぇでさっさと言やぁいいだろうが」


やや回りくどい説明をするシオンにゲンゾウが機嫌を悪くする。それに急かされたわけではないが、シオンは結論の説明に入った。


「まだ不安定なエナジークォーツは壊れやすいんですけど、そもそもエナジークォーツってご存知の通り下手に砕くと大爆発するじゃないですか」

「「「「あー」」」」


爆発のことはエナジークォーツの研究の過程で判明しているので人間であっても普通に知っているレベルの話だ。


「でもそれってもう安定状態に入ったエナジークォーツの話であって、不安定だともっとやばいんですよね。しかも周囲に俺の魔力が満ちてる状態なので、それも連鎖爆発することになるっていう」

「……つまり?」

「多分、うっかり衝撃与えてパリンと割った瞬間には格納庫が丸ごと消し飛ぶし下手すると〈ミストルテイン〉も撃沈するのでくれぐれも注意してくださいっていう」

「「「「「ちょっと待とうか」」」」」


人類軍において悪名高く、爆発事故くらいは年に数回引き起こす十三技班。

そんな彼らでも今回のことはさすがに流せなかったらしい。


その後、アカネの手によりアキトにも事情が説明され、格納庫ではなく倉庫の中でも大きな一部屋を提供してもらい、厳重に立ち入り禁止にした上でそこで生成を行うことが決定した。


なお、事が落ち着いた後、シオンはアキトとアンナとゲンゾウの三名から一発ずつ拳骨を落とされることとなったのだった。


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