2章-異分子の気配①-
「とまあそんなことは置いといて! そんなことより! スイーツだから!」
会話の流れで真面目な話をしてしまったし空気も若干真面目なものになってしまったが、シオンはそんなことを望んでいないどころかお断りである。
「ほれほれさっさと歩く! ミツルギ妹、とりあえずここから一番近い店に案内よろしく」
「え! あ、うん」
「おい! お前はともかく俺たちにはそんな軽い話じゃ……」
「今のお前らの仕事は俺の監視であって、小難しいこと考えることじゃないだろ?」
目の前の任務と実際にそういうことになるかもわからない未来。
どちらが優先すべきことなのかは明らかで、ハルマが若干口ごもる。それでもなお食い下がられる前にシオンはハルマの腕を掴んで強引に引っ張ることにする。
「おいシオン!」
「ミツルギ兄がいないと支払いできないんだからちゃーんと最後まで付き合ってもらわないと」
グイグイとハルマを引きずりながら自分の目的だけ考えて歩くシオン。
有無を言わせない駄々っ子のような態度に、結局折れたのはハルマのほうだった。
その後、シオンたち一行はとにかくマイアミの都市を歩き回った。
西にシュークリームの名店があればそこへ行き、東にマカロンの美味しい店があればまたそこへ行き。
よくよく考えれば順番をちゃんと決めて上手く回ればよかったのだが、行き当たりばったりなシオンはそこまで考えていなかったのでかなり無駄な時間もあった。
ただシオンとしてはそういった散歩も含めての休日のつもりだったので、付き合わされることになったハルマたちには申し訳ないが、そういうものと受け入れてほしい。
そうこうするうちに九品目までご褒美を買い漁り、残すところあと一品というところまでやってきた。
ちなみに買ったスイーツは全て影の中にちゃんと収納しているので手荷物はない。
「お前、本当にきっちり十品買うつもりなんだな」
「当たり前じゃん。ちゃんと働いた分のご褒美なんだから貰って当然だろ?」
「ああ、うん。お前はそういうやつだって知ってた。……むしろ値段がちゃんと良心的だっただけマシか」
「教官と言いお前と言い、俺をなんだと思ってるんだか」
割と失礼なハルマの言葉を不満に思いつつ、シオンはハルマとナツミに向き直る。
「ところで、艦長って甘いもの好き? 嫌い?」
「は?」
「兄さんは、割と甘いものも好きだけど……」
ナツミの答えを聞いたシオンは満足気に頷き、最後の目的地を有名な洋菓子店の支店に決めた。
「ここにいい感じのクッキーの詰め合わせがあるんだけど、それお土産にするから」
「……お土産?」
「ん。ミツルギ艦長とアンナ教官用にね」
ハルマの疑問に答えたところ、信じられないものを見たような目を向けられた。
ハルマだけではなくギルも含めた全員がそんな反応であることについては本当に解せない。
「シオン、頭でも打ったか?」
「オーケー相棒。ちょっとぶん殴るから頭を差し出せ」
失礼な物言いをする相棒が頭を差し出すよりも先に一発チョップを叩き入れておく。
それから残る四人に向き合って全力で不満をアピールした。
「お土産買うって言っただけでこの扱い。大変遺憾なんだけども」
「さっきまでのお前を見てればそういう反応にもなるだろ」
「……日頃の行い、っていう言葉もあるしね」
「む……」
ハルマとリーナの大真面目な指摘に不服ではあるが反論できない。
味方がひとりもいないことにぶすくれつつ、シオンは洋菓子店へと歩き出す。
「シオン、お土産買うのはいいけど兄さんにも?」
「うん、艦長の分も含めてのつもり。……まあ、艦長のお金だからお土産っていうには若干語弊があるかもしれないけどさ」
隣に並んできたナツミの質問に答えるが、彼女は少し不思議そうだった。
「俺がお土産買うのそんなに意外かな?」
「そんなことは……ないこともないけど。どっちかというと兄さんも含まれてるのが意外っていうか」
しれっとお土産を買うこと自体も不思議だと言われたが、彼女の気にしているのはそこではないらしい。
「ラステル戦術長に買うって言われればわかるんだけど、シオンと兄さんはまだ出会って短いじゃない。……シオンってすぐに人に気を許すタイプじゃないから、そこが意外で」
確かにシオンはあまり人と関わるタイプではないし、アンナ、ギルをはじめとする十三技班やナツミたちと今のような間柄になるまでにも一年近くは時間をかけた。
それを知るナツミから見れば、たかだか出会って一か月のアキトにお土産を買おうというシオンの行動はかなり意外に見えるのかもしれない。
「まああれだ。お前たち兄妹の兄さんっていう時点で他の初対面の人よりは好意的に見てると思う」
ハルマとナツミは間違いなく善良な人間であって、このふたりの兄――しかも両親の死後は親代わりも務めてきたという男が善良ではないとは到底思えなかった。
実際この一か月の間直接関わる機会は多くあったが、初めの印象は変わることなくむしろ好感度は上がっているくらいだ。
自分でも少し驚くくらい、シオンはアキトに対して信頼を寄せつつあるのかもしれない。
ただ、それをここで話すのはなんとなく気恥ずかしいのであえて誤魔化しておく。
「まああれだ。艦長には爆破事件からこの間の話し合いにかけて苦労とか心配とか迷惑とかストレスとかいろいろとかけちゃったからさ。その辺のお詫びも兼ねて、な」
「ちょっとその話知らないんだけどシオンいったい何やらかしたの!?」
「アハハハハ」
笑って誤魔化しつつ目的の洋菓子店が見えてきたところで、シオンは足を止めた。
急な停止にナツミや後ろから付いてきていた四人が不思議そうにこちらを見つめてくるが、そんなことよりもシオンは自らが捉えた気配に注意を向ける。
「シオン、どうした?」
「ミツルギ兄と他ふたり。……拳銃は持ってるよね?」
普段のシオンと明らかに異なる真剣な様子と質問の内容に事態の重さを察したのか、ハルマたちの表情が一気に真剣なものになる。
「何があった? まさか、アンノウンか?」
「……いや、アンノウンじゃない。この気配は人外だ」
質問に答えつつ、シオンはそっと自身の左にある細い道を示した。
「あっちの方角にいる」
「……危険なのか?」
「わからない。けど、こんな大都市にいるのはちょっとおかしい」
都市部には絶対に人外がいないというわけではないが、ここに元々暮らしている人外であれば人間に溶け込む努力をしているはず。
しかし今シオンが捉えている気配からはそういった努力や細工が一切感じられない。
細かな事情はともかくとして、明らかな異分子には違いない。
「俺は、この人外を捕まえたい」
「いいのか? お前から見ると同類みたいなものだろ?」
「放置して事件を起こされると人類軍から俺への風当たりも強くなりそうだし、目的も気になるから捕まえて事情を聞きたい」
加えて、もしも相手が悪意のない人外であればそのまま逃がしてしまいたい。
ただ、これはシオンの事情であって人類軍であるハルマたちには当てはまらないことではある。
「人類軍としては捕まえるか殺すかなんだろうけど……ここは穏便に済ませてくれない?」
「……まずは捕まえてからだ」
ここで即座に却下されなかっただけでも人外への敵対心の強いハルマにしてはかなりの譲歩だろう。
それを聞けただけでシオンとしては十分だ。
「……俺が先頭、武器のないギルとミツルギ妹は最後尾。他はそっちに任せる」
端的な指示にハルマたちが頷くのを確認してからシオンは気配のする方角へと走り出した。




