10章-魔物を呼ぶ力②-
「ひとまず対異能特務技術開発局じゃここまでしかわかってなかったっていうのはわかったけど、シオンやガブリエラちゃんならまた話は変わってくるんじゃないの?」
対異能特務技術開発局にアンノウン誘導装置の詳細がわからなかった原因は、正体不明の結晶体の正体が人類の科学では理解できなかったからである。
しかしシオンやガブリエラのような人外の側に立つ者であればそれを理解することもで切るのではないのかとアンナは言いたいのだろう。
そしてその答えはイエスだ。
「実物見たわけではないですけど、問題の結晶体ってのは穢れを結晶化したものなのはまあ間違いないでしょうね」
「結晶化……お前がナツミに渡している結晶のようなものか?」
「ですね」
アキトの問いに答えつつ握りしめた手の中に魔力を集めて小さな赤い結晶を作り出す。
「魔力の結晶化、ある程度訓練すればできるようになる比較的初歩の魔術ですね。大体は特定の魔術を込めたりして、魔法道具を作るのとかに使うケースが多いです」
シオンがナツミに渡したものはシオンへと念話をつなげるために魔術が組み込んであり、レオナルドに渡したものには認識阻害など身を隠すのに役立つ魔術が複数仕込んである。
「ちなみにこの結晶化から派生した高等魔術を使えば、精霊石や魔石とか呼ばれる鉱物――人類視点で言うところのエナジークォーツを作ることもできます」
「そういえば作るとか言ってたな……」
「一般的な人外ではできませんけどね」
ちょっとした余談も交えつつ話を進める。
「穢れも魔力の一種ではあるので、魔力の結晶化の応用で結晶化させることは不可能じゃないはずです。そして結晶自体の破壊と共に生成時に使われた穢れが一気に周囲にぶちまけられれば」
「穢れから生まれ、穢れに惹かれる魔物たちは自然とその場所に招き寄せられるでしょう」
それが問題の結晶体とその効力の正体であると言うのは間違いないだろう。
「思った以上にあっさり結論出てきたわね……」
「まあ、魔力結晶の知識があるなら簡単に導き出せる答えですし。ただ、ぶっちゃけちゃうとこれ相当ヤバい話だったりするんですよね」
「え?」
シオンの言葉にアンナはもちろんこの場にいる大多数が疑問符を浮かべている。
例外となるのはシオンとガブリエラ、シルバ、そしてコウヨウの四名だけで、見事に人外関係者とその他で反応が分かれている状況だ。
「アキトさんと教官、それからアーノルド副艦長には、なんで人外がアンノウンを制御できないのかについて前に話しましたよね?」
「ああ、中東の一件の直後だったな。……魔物になった上で知性を残していなければ不可能。という話だったはずだが」
「そうです。まあ今となっては魔物堕ちって言った方がわかりやすいでしょうけど、そうなった上で知性をしっかり残してる存在がいなけりゃ無理、みたいな話をしたはずです」
ただしシオンはもちろん【異界】とこちらの世界の両方の人外の認識として、それはあり得ないはずの存在だ。
生物の負の情念から生まれた穢れに侵されて魔物にまで成り果てた存在がまともな知性や理性を残しているはずがない。
シオンたちの知らない太古の昔からそれは絶対なのだと考えられてきた、はずだった。
「結論から言いますと、この世の人外みんながあり得ないって断言していた存在が実在することが、この結晶の存在によって証明されました」
アンノウン、もとい穢れを制御することができるのは魔物のみ。
その穢れで魔力結晶を生成することができるのもまた魔物や魔物堕ちに限られるのだから。
「つまり……知性を持った魔物堕ちが存在すると?」
「もうちょっと厳密に言えば、なんらかの考えを持って穢れを結晶化してる上にそれを自分で機械に組み込む、もしくは誰かに提供して機械に組み込ませるかして世の中にばら撒いている魔物堕ちか魔物がいるっていう話になります……はっきり言って前代未聞です」
シオンたちの言わんとすることが理解できたようでアキトやアンナの表情がわかりやすく険しくなった。
「自分で暴れるんじゃなくて人間のテロリストなんかを使って世の中を混乱させるずる賢いアンノウンがいるってこと? ……笑えないわね」
「たちの悪さで言えばわかりやすく暴れたヤマタノオロチやファフニールの遥か上をいくな」
問題の存在は、とにかく裏に潜んでいる。
今までシオンたちが相手にしてきたわかりやすく表で暴れる存在ならこちらも正面から挑んで倒せばいいだけだが、問題の存在はそもそもその居所を探し出さなくてはならない。
それだけならまだいいが相手にはわざわざ遠回しな真似をできるだけの知性があるのだ。こちらの動きを察知して空間に穴を開けて逃亡。なんて真似をされる可能性も否定はできない。
ヤマタノオロチやファフニール相手も相当に苦労したが、それ以上に厄介な相手だと断言できるだろう。
「ふたつの世界の和平を目指さなくてはならない今、そんな存在がいるなんて……」
「タイミング的にその存在自体予見された災いに関係してるって気もするけどね」
数千年単位であり得ないとされてきた存在。
それが活動している世界に災いの兆候となれば、そこに繋がりがあると考えた方が自然だろう。
「シオンシオン。一個気になったことあるんだけどいいか?」
「何?」
「この間、お前がブチギレてドラゴンっぽくなったことあったじゃん」
「うん」
「ヴィクトールさんの話だと、あの時のお前って神子でドラゴンでアンノウン、みたいな感じだったんだよな?」
我ながら属性過多だななどと気の抜けた感想を抱きつつその言葉に頷く。
「それって、今話してるやべーやつと同じなんじゃねえの?」
ギルの指摘にブリーフィングルームに沈黙が訪れた。さらに全員の視線がシオンに集中する。
その中心でシオンは改めてギルの言葉を整理し、
「あー……マジだ」
ここまで散々あり得ないと考えていた存在に他でもない自分自身がなっていたということにようやく気づいたのだった。




