10章-届け物と頼み事-
「こんにちは。メカシオンの納品に来ましたー」
「……あんたとしてはそんな感じでいいのかい? 一応自分の分身だろう?」
「まあ、他にいい感じの言い回しも思いつかなかったので」
第一人工島中央にある対異能特務技術開発局の本部にシオンはシルバ、マリエッタと共に再び訪れていた。
用事はシンプルで、ヘレンと約束した通りメカシオンを対異能特務技術開発局に常駐させることである。
「ちゃんと小型のECドライブ載っけたので、オリジナルからの魔力の供給が途切れてもちゃんと動けます。メンテナンスの細かいこととかは本人から聞いてくださいね」
「今日からよろしくお願いしまーす」
頭を下げたメカシオンの髪色は白で目は金色。
前回区別のためにわけたカラーリングがわかりやすいのでそのままにしている。
「一応大丈夫とは思うんですけど、実際に俺から遠く離れるのは初なので、何かあったらマリエッタ経由で連絡してくださいね」
「ええわかった。とりあえずよろしく頼むよメカシオン君」
これでシオンの用事自体は完了だ。
「せっかく来たんだ、お茶のひとつでも飲んでいくかい?」
「じゃあお言葉に甘えまして。どっちにしろマリーたちの用事が終わるまでは待つつもりでしたし……」
「そういえばふたりはどうして来たんだい? 来てくれるのは大歓迎だけどねぇ」
「わたくしたち明日にはこの島を出ますので、改めていってきますのご挨拶をしようかと」
せっかくシオンが本部に行くということで、マリエッタはそれに便乗したというわけである。シルバはそんなマリエッタの付き添いだ。
「では早速挨拶に行ってきますね」
「ん、ああ行くか」
マリエッタが歩き出すよりも先にシルバは当たり前のように彼女の隣に立った。
そんなシルバに少しだけ目を見開いてから、マリーは意気揚々とシルバと共に本部の奥へと歩いて行った。
「おやおや……」
「この間まで引っ張られるままだったのに」
今まではマリエッタが強引にシルバを引っ張り回すばかりだったというのに、今のシルバはそうなる前に自ら彼女と共に行く姿勢を見せた。
積極的とまでは言い難い態度だが、これまでを思えばその変化は大きい。
「あれであのふたりも少しは進展するのかね」
「そういえば、人外との恋愛については思うところないんですか? 保護者的に」
「あの子が幸せになるならなんだっていいさ。……マリーのこれまでは大変すぎた」
ヘレンの話す“これまで”についてあえて聞こうとは思わない。
聞いていて気持ちのいいものでもなければ、話していて気分のいいものでもないだろう。
「あんたも、あの子のこと頼むよ」
「もちろんですよ。こう見えて子供は大事にするタイプの神様なので」
「テロリスト相手にはずいぶん容赦がなかったらしいけどねぇ」
「……それ把握しておいてマリーのこと頼むってどういう神経されてるんです?」
ヘレンがどこまであの晩のことを把握しているかわからなかったが、今の口ぶりだとシオンがテロリストを全滅させたことも知っているらしい。
それならシオンのことを恐れても仕方ないだろうし、大事なマリエッタの近くに置いておくのも避けたくなりそうなものなのだが。
「驚きはしたけど、まあマリーにあんたの話は聞いてたからねえ。……それに、あのバカは人を見る目は確かだよ」
「……親方のことですか?」
「ああそうさ。あれは昔からやたら見る目がある。……私の親友の天使みたいな中身を見事見抜いて、惚れ込んでそのまま娶るくらいにね」
「……もしかしなくても、そのせいで親方と仲悪いんですか?」
「ただでさえ気に入らない相手が、大事な大事な親友を掻っ攫って行ったんだよ?」
「あー」
それはとても面白くない。要するに大事な宝物を盗まれたようなものだ。
シオンの頭の中でどこぞのドラゴンが「万死に値する!」と叫んだ気がする。
「とにかく、そういうわけであれの人を見る目は信頼してる。そんな男があんたを自分のところに迎え入れて、引き抜きを邪魔するためにわざわざ直接出向いてくるくらいに大事にしてるんだ。それだけわかってれば怖がるほどのことはないさ」
ゲンゾウが信頼してるから信頼すると言ってのけるヘレン。
やはり“喧嘩するほど仲が良い”というやつな気はするが、どうせ否定されるのは目に見えているので口にしないでおく。
「あ、そういえばちょっとお願いがあるんでした」
「なんだい? 私に直接頼み事なんて……」
「実際そこまで大袈裟な話じゃないとは思うんですけど、どうせなら直接頼んだ方が早いかなって」
人類軍は組織としてそれなりにしっかりしている分、何をするにしても申請などの手続きが必要になりがちだ。
そういう手間が減らせるなら減らす越したことはない。
「気持ちはわからなくもないね。それで、私に何をしてほしいんだい?」
「……テロリストたちの使うアンノウン誘導装置。確か対異能特務技術開発局で解析してるんですよね?」
そこまで話せば、ヘレンはシオンの言いたいことを察してくれたようだった。




