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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
10章 争いを拒むもの、争いを望むもの
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10章-蹂躙のその後-


テロリストによって画策された第一人工島へのアンノウンの襲撃の二日後。


襲撃の翌日をほぼ丸一日眠ったまま過ごしたシオンが動けるようになったこともあって、シオンはアキトと共に第一人工島の人類軍基地に訪れていた。

招き入れられた会議室には人類軍の最高司令官であるクリストファー・ゴルドとこの基地の責任者と思しき軍人以下数名がすでに揃っていた。


「お待たせしました」

「何、時間通りだから気にしなくていいよ」


しっかりとした敬礼を見せるアキトをクリストファーは気楽な態度で出迎える。

一方で彼を除く面々の表情はどうにも硬い。


「さて、早速だけれどこの間の話を聞かせてほしい。構わないかな、シオン君」

「わかりました」


クリストファーの言葉に簡単に応じて、シオンは一昨日のことを話し始める。


とはいえ話す内容はそこまで多くない。

この島にミサイルが撃たれ、それがアンノウンを誘導する効果のあるものだったこと。

かつての面影がほとんどなくなっているとはいえかつて暮らした故郷が再びテロリストたちによって害されようということに非常に腹が立ったこと。

腹が立ったので島を守りつつアンノウンを皆殺しにしつつ、実行犯のテロリストのこともひとりの情報源だけ生かして全て殺したこと。

そして、


「生かしたひとりから聞き出せた範囲で、彼らの仲間も全滅させました。多分」

「……は?」


名前も知らない軍人のひとりが間抜けな声を漏らした。

どうやら意味が理解できていないようなので改めて説明しておく。


お話(・・)してお仲間の居場所を四箇所聞かせてもらったので、それぞれに分身を送り込んで焼き払いました。というかその辺捕虜の人には聞きませんでした?」

「……どこの組織に属するのかや四つの拠点の位置は尋問で確認している」

「じゃあ、多分そっちが把握してる拠点はもう全部俺が更地にしちゃってますね」


シオンのさらりと告げた内容に数名の軍人の顔が引き攣った。

しかし事実は事実なのだから仕方がない。


十年前と同じく、実行犯はもちろんその仲間たちのひとりですらシオンは生かすつもりなどなかった。


「そういえば、捕虜にした人どうなってます」

「……引き続き尋問中だ。素直に情報を話してくれている」



シオン個人としては捕虜として男を生かしておく必要はなかった。

テロリストたちの仲間を追いかけるにしても、魔術で縁を追いかければそれで事足りる。


それでもあえて生かしておいたのは、それ以外の情報を人類軍が引き出せるようにするためだ。

シオンにとってはどうでもよくとも、人類軍にとって有用な情報が得られるならぱっと殺してしまうのは少々もったいない。

そういうことまで考えられる程度にはシオンも大人になっているのである。


「尋問中、変なことありませんでした?」

「変なこと?」

「尋問中に突然捕虜の人の腕が捻くれてから一瞬で治るとか」

「言っている意味がわからないのだが」

「じゃあ、起きてないんですね。それなら証言は全部本当だと思っていいですよ。逆に捕虜の人が痛がるような何かが起きたら、その時の証言は嘘です。そういう呪い(・・・・・・)をかけてあるので」


情報を吐かせるために生かしておいたが、嘘を言う可能性も否定はできない。

なので嘘をついた場合には潜水艦内部でシオンがやったのと同じように激痛を伴う外傷を与えては即座に治癒、という拷問が再現されるようになっている。


「あと、人類軍からその人への尋問が終わったら自動で絶命しますから」


本人にも伝えたが、シオンはテロリストをひとりたりとも生かしておくつもりはない。

捕虜として捕まえたのは情報を吐かせるためでしかないので、用が済めば殺す。


ちなみに本人には「話せば楽に死なせてやる」と言ってあるが、シオンには最初からそんなつもりはない。


「尋問の終了と同時に額に赤い魔法陣が出ます。そこから三時間くらい悪夢にうなされて最後に心停止するので、お医者さんとか手配する必要はないです。死亡確認した後は火葬なり土葬なり適当にやっちゃってください」

「わ、わかった」


シオンの説明に軍人たちの顔色が悪くなる中、クリストファーはため息をついた。


「どうやら、私たちの思う以上に君はご立腹のようだ」

「ええまあ。でも人類軍には八つ当たりしたりしないので安心してください」


にこりと笑みを浮かべるシオンに対してクリストファーも同じく微笑みを返してくる。

それがシオンにはやや気味が悪かった。


正直に言えば、あの晩はやりすぎた(・・・・・)自覚がある。


いくら人類軍の味方をしたとはいえ、シオンの本気を目の当たりにした人類軍がどんな反応を示すかといえば、それは恐怖しかないだろう。

実際この場においてほとんどの人間がシオンを恐れている。例外はクリストファーとアキトだけだ。


アキトに関してはもう何も言うまい。彼がそういう人間であることはわかっている。


しかしクリストファーは違う。シオンは未だに彼という人物を理解できていない。

以前からシオンに好意的ではあったが、この後に及んでシオンを恐れることなく相対することができる彼は、果たしてその微笑みの奥で何を思っているのだろう。


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