9章-【異界】の歴史②-
「……確かに、そう言われたほうが納得できるかもね」
「どういうことですか?」
「だって、人外たちが使うエナジークォーツが普通にこっちの世界で掘り出せるのっておかしいと思わない?」
エナジークォーツを用いたエネルギー技術が確立されたのは旧暦の末期。
エナジークォーツそのものが地中から掘り起こされるようになったのはさらに前で、どちらも【異界】との大きな接触がある以前のことだ。
「【異界】から持ち込まれただけなら地面からは出てこないだろうし、普通にこの世界の自然界にあるものだって考えるほうがシンプルでしょ?」
「確かに一理ありますね」
アンナの考えにミスティも納得したところでアキトがガブリエラに説明を促す。
「具体的にいつ頃、【異界】が成立したかについては私たちも正確には把握していません。おそらくは神話の時代になるのでしょうが……」
「気が遠くなるね。そうも昔だと正確にわからないのも当然じゃないかな」
「とにかくそれほどの大昔、まだこちらの世界に暮らしていた神々が創り出した異なる世界が【異界】であるとされています」
「……世界を創るとはまたとんでもない話になってきたが」
「実際今の時代では不可能だと思います。多くの神々が今では考えられないほどの信仰を集めていて、なおかつ手付かずの大自然から膨大な自然界のマナを得られたからこそ成せた大魔術でしょうから」
「要するに“極論魔力とイメージさえあればなんでもできる”のお手本みたいなパターンですよ」
元々強い力を持つ神々が人々の信仰でさらにパワーを得ていて、さらに自然からもガンガン魔力を得られてという恵まれすぎた状況あってこその世界の創造というわけだ。
「あと、ものすごいスケールダウンバージョンでよければアキトさんとアンナ教官は行ったことあるでしょ」
「ああ。神域か」
広さは限定的であるし、主の身に何かあれば揺らぐ不安定な代物ではあるが、神域も小さな世界のようなものだ。
玉藻前ひとりでも可能なことを複数の神と膨大な魔力で行ったとなれば、そこそこの広さの安定した世界の創造もそこまで突拍子もないことではない気がしてくる。
どちらにしろ今はできるできないを話してもあまり意味がないので話を進めるべきだろう。
「そうして創り出した世界に人ならざるものたちは移住していきました。とはいえ生まれた土地を離れたがらない者も少なくはなく、この世界に残る選択をしたと聞きます」
「それが今もこっちの世界で暮らしてる人外たちの祖先ってわけね」
「その通りです」
「……でも、なんであっちの世界に移住したの?」
アンナは不思議そうに首を捻る。
「残った人外たちがいたなら、絶対に移住しないとダメだったわけじゃないんでしょ? それにこの世界が故郷だっていうなら、世界を創るなんて大変なことしてまで別の世界に行く理由ってなんだったのかしら?」
「それについては一言で説明できるものではないです。それぞれに理由があったようですから」
「それぞれ?」
「はい。人との戦いに疲れて去ることを選んだ者たちがいたとも聞きますし、人と人ならざる者が共に生きるにはこの世界が小さいと考えた者たちもいたそうです。もっと異なる理由でこの世界を去った者たちもおそらくはいたんじゃないかと」
「要するに、ケースバイケース過ぎて考えるだけ無駄って話です。別になんであっちに行ったかは今となってはあんまり重要でもないでしょうし」
軽く見積もっても二千年以上は前のことだ。今更理由を知ったところで意味もない。
「今わかってればいいのは、この世界がまずあって、この世界で生まれた一部の人外たちが移住先として創り出したのが【異界】だってこと。アーノルド副艦長のいう関係性って考え方をするなら……【異界】はこの世界の子供か、兄弟みたいな感じなのでは?」
「……実際そういうことにはなるのでしょうが、例えのせいで妙な親近感がありますね」
そうは言われても実際そうなのだからこれ以外の言いようもない。
「というか、元々こっちで生まれたって言うなら【異界】の人外がこっちの世界で生きる権利主張してきたりしないのかな? 大丈夫?」
「事実としてこの話は伝わっていますが……正直こちらの世界よりあちらの世界のほうがずっと平和ですし、わざわざこちらの世界に領土を拡大しようとは誰も思わないかと」
「こっちと違って戦争もずっとないらしいですし、機械がほぼないのでエネルギー問題とか環境問題とも無縁。でも魔法があるから大体のことは機械でやるのと同じかそれ以上に楽にできますね」
「なるほど、こっちの世界に来てもメリットないね。というか割と本気で【異界】に移住したいかもなんだけど、ただの人間でもできるかな?」
「できるんじゃないですか? 実際この間オボロ様に連れられてただの人間何十名か移住しましたし」
「シオン、レオナルド、話がそれるからストップね」
アンナのストップもあり、ひとまずこの話題は終了ということになった。




