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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-監視つきな休日②-


多くの人が行きかう町をのんびりと歩くシオンたち一行。

全員私服姿で年齢も近いので、傍から見れば学校の同級生が遊んでいるようにしか見えないだろう。


「さてさてどこへ行ったもんだか……」


とりあえずマイアミ基地を出発したわけだが目的地は特に決めていない。


十分な大都市なのでシオンの目的であるスイーツ巡りをする分には特に困らないだろうが、逆に選択肢が多すぎるという側面もある。


「女子ふたりは店の心当たりとかない?」

「初めてくるのにそんなものないわよ……」


シオンの問いにリーナは呆れた様子だが、もうひとりの女子であるナツミは少々微妙な表情をしていた。

そんな妙な表情に気づいたのはシオンだけではなく、全員の視線がナツミに集まる。


「えっと、そのー……」


気まずげにカバンから取り出したのは、色どり鮮やかな表紙の旅行用ガイドブック。しかもいくつかのページには付箋が貼られているようだ。


「もしかしなくてもお前結構ノリノリだな?」

「このガイドブックは戦術長が宿泊施設のお店で買ってくれたんだよ!? シオンが好きそうな所ピックアップしておいてって」


シオンに外出の権利が認められているとはいえ、長時間ダラダラとうろつくのは人類軍からの印象が良くない。

なので、シオンの目的が果たせそうな場所にさっさと連れて行ってできるだけ早めに基地に帰ってくるようにしてほしいとアンナに頼まれたのだと必死に説明するナツミ。


「でも、そんだけ付箋まみれになってるってことはかなりノリノリだったのは確かだよな?」

「しかも昨日の夜に急に決まったのにそれだけチェックしてあるってことは、だいぶ夜更かししたんじゃね?」

「ああ。俺よりよっぽど時間とか守るはずなのに一番集合遅かったのはそのせいか……」


シオンとギルの追求にみるみる顔を赤くしてガイドブックで顔を隠すような状態になってしまったナツミ。

ちょっといじめ過ぎたと反省しつつ、残る三人を見てみるとレイスとリーナは苦笑し、ハルマは呆れたような顔をしていた。


「ナツミ……一応お前も監視側なんだぞ?」

「うぅ……」

「まあ戦術長の指示をしっかり守ったのは事実だし、いいんじゃないかな?」

「そうね。目的地候補があるのはいいことだもの」

「シオン任せじゃマジで何時間ぶらつくことになるかわからねえしなー」


ハルマの指摘に凹むナツミをレイスたちがフォローするのを眺めつつ、最後にシオンは彼女の肩をポンポンとあやすように叩く。


「で、さっそくだけどお前のオススメスポットはどこなんだ?」


気を取り直したナツミはシオンの質問を受けて、とある背の高い建物を指差した。




テーブル上に並ぶのはケーキケーキケーキプリンケーキケーキアイスケーキケーキ……とにかく大量のスイーツである。


それを前に目を輝かせるシオンとナツミとレイス

仕事中という意識から控えめではあるがチラチラとスイーツを見るリーナ。

真逆にうわぁという表情で若干引いた様子のハルマとギル。


各々が様々な反応を示す中、シオンは両手を合わせて「いただきます!」とひと声発して早速一番近くにあったチーズケーキにフォークを突き立てた。


ナツミの示した背の高い建物の正体は、マイアミにある中でも最大級のホテルだった。

そしてそのホテルでは少々お高めのスイーツバイキングが期間限定で実施されている真っ最中だったのだ。


話を聞いて最初の目的をそこと決めたシオンは他五名を引きずるような勢いでホテルへと走り、スイーツバイキングへと直行した。

その後、「どうせなら全種類いっとこう」と迅速に並べられていたスイーツを端から端までテーブルに持ち寄り、現在の状態ができあがった次第である。


「さすが高級ホテル、レベル高い」

「本当だね。このガトーショコラすごく美味しい」

「あたしはこのモンブランがお気に入りかな」


シオン、レイス、ナツミの三人がキャッキャと騒ぐのをハルマがげんなりした顔で見ている。

彼の前にも甘さ控えめのケーキがあるにはあるが、まだほとんど手も付けられていない。


「……そういえばレイスもそっち側か」

「あはは、なんかゴメン」


シオンほどの勢いはないがレイスもひょいひょいとスイーツを口に運んでいる。彼もまたなかなかの甘党なのだ。


「バイキングならどれだけ食べても一品扱いだし、上手い手を考えたもんだな」

「べ、別にそういうつもりだったわけじゃないけど、シオンは好きそうだなーって」

「学生の頃からスイーツバイキングには弱かったしね」


和気藹々と――しかしスイーツを食べる速度はそのままに言葉を交わす三人。

ちなみにその影に隠れてちゃっかりイチゴのショートケーキを楽しんでいるリーナにシオンは気づいているが、あえて指摘はしないでおいた。これ以上はハルマの精神衛生上あまりよろしくない予感がする。


「お前らホントとんでもなく甘いもの好きだよなー」

「……ギルはそうでもないんだな。意外だった」


ギルの前にあるのもハルマと同じ甘さが控えめなものが多い。しっかりと手が付けられているあたりはハルマと少し異なっているが、甘党というわけではないのは確かだ。


「シオンと仲がいいから、食べ物の好みも近いのかと思ってた」

「俺は基本的には美味けりゃなんでもいいんだよ。ただまあ、あそこまで甘いのだけってのはちょっとな」


「あ、でもそれ美味そう」と言ってシオンの手元のチョコケーキを素早く掠め取ったギルの姿にハルマの若干希望を見出していた目が光を失った。

残念ながら甘いものがどちらかと言えば苦手なハルマの味方などここにはいない。

ケーキを食べる手は止めずにシオンは心の中で合掌した。


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