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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
9章 暗中模索
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9章-疑惑のその先①-


マリエッタのことを話した後、ヘレンはローテーブルに置かれた紅茶を軽く口にしてから軽く息を吐いた。


「後半はごく個人的なことになってしまってすまなかったね。私の方の用件は片付いてるし、そっちの話を聞くよ」


こちらから話があるとは伝えていないのだがヘレンはシオンたちからも話があるものとほぼ確信しているようだ。


「おや? 何かあるんじゃないのかい?」

「あるのは事実ですが、何故そう思われたのですか?」

「マリーからシオン君のことは聞いてたんでね。ただこっちの話を聞くためだけに招待に応じてくれるとは思わなかったってだけさ」


招待に応じた時点で、シオンからも何か対異能特務技術開発局に用事があるものと予測していたということらしい。

見透かされていることはあまり好ましくないが、それなら話が早い。


「じゃあ早速なんですけど、一部ECドライブの中身について聞いてもいいですか?」

「中身……宝石やら日本刀やらのことかい?」


ヘレンの確認に対してシオンは頷く。


「〈光翼の宝珠〉はまだしも〈月薙〉や〈アメノムラクモ〉はどう見てもエナジークォーツと見間違えるようなものじゃありません。そんなものをどうやって見つけてきたのかとか、どうしてエナジークォーツ代わりに使おうなんてことになったのかとか、ずっと疑問なんですよ」


実際魔力を宿しているのでそういった使い方ができるわけではあるが、そもそも日本刀などのエナジークォーツに似ても似つかないものにエネルギーが秘められていることがどうしてわかったのか。

その上で、そんな謎の多い代物をECドライブの核に使おうなんていう決断を下した理由はなんなのか。


シオンのこの疑問だが、実のところひとつのシンプルな仮説で全て丸く収まる。

その仮説とは“人外からの助言”だ。


人外やそれに関わる人間であれば〈月薙〉や〈アメノムラクモ〉の秘める力にあっさり気づくだろう。

そしてそれらがECドライブの核としても十分に機能すること、さらに言えばそこらのエナジークォーツよりも遥かに多くのエネルギーが得られることもわかるはず。


そういった個人、あるいは組織が〈月薙〉や〈アメノムラクモ〉を人類軍に提供し、エネルギー総量のことなどを理由に使用することを助言したと考えればとてもシンプルな図式になる。


「なるほど、もっともな質問だね。……けれど、それは最重要機密ってやつになる」

「答えられないと」

「私はあんたの上司と違って規律は守る方なんでね」


ヘレンは毅然としていて取り付く島もない。

元々簡単に話が聞けるとは思っていなかったが、予想以上にガードは硬い。


「(鎌かけたところで口を滑らせてくれるタイプにも見えないしな……)」


顔を合わせてようやく一時間経過したかといったところだが、ヘレンがそう簡単に転がせるような相手ではないのはなんとなくわかる。

下手に仕掛けても相手の警戒を強めるだけでデメリットの方が大きいだろう。

アキトもシオンと同じように考えているのかさらに追求しようという素振りは見せていない。


ヘレンに探りを入れて人外の関与について調べるというのは難しそうだ。

こうなると別に動いているレオナルドに期待するしかないかとシオンは諦めモードに入ったのだが、


「ったく、回りくどいことやってんじゃねぇよ」


ゲンゾウは呆れたと言わんばかりにそう口にすると、ヘレンへと視線を向ける。


「要するにだ、コイツらはテメェんとこの部署が人外と繋がってるんじゃねぇかって疑ってんだよ」


非常にストレートに、何ひとつ隠さずにゲンゾウはヘレンに言葉を投げかけた。

シオンとアキトは想定外過ぎる状況と、ゲンゾウには話をしていなかったはずの疑惑について彼の口から飛び出してきたことのふたつに驚いてしまって上手く言葉が出てこない。


「あんた、普通そんな馬鹿正直な聞き方する?」

「テメェの裏をかくのが簡単なことじゃねぇのはわかりきってるんだ。だったら直球で聞いた方が早い」

「だとしても疑ってる相手に疑ってますっていうのはどうなんですかね⁉︎」


シオンの言葉に対してゲンゾウはフンと鼻息を荒げる。


「別に問題ねぇだろ。どうあれこのクソババアはお天道様に顔向けできねぇような真似はしねぇからな」

「はい?」

「あ゛? だから、コイツが人外と通じてようがなかろうが、戦争を止めたいっつー真っ当な目的を邪魔することはあり得ねぇって話だ」


つまり、ゲンゾウはヘレンが悪事を働くようなことはないと断言しているのだ。

しかもそこに根拠らしい根拠はなく、ただ“ヘレンだから”という理由だけでそれを確信している。それだけの信頼があるのだ。


「……まさか、親方と局長さんって“喧嘩するほど仲が良い”とかいうベタなあれなんですか」

「「仲良くない!」」


ゲンゾウからの信頼もそうだが、ヘレンもヘレンで明らかに大事にしているマリエッタを預けているし、シオンへの反論のタイミングもぴったりである。

そういうところが仲良しなのではと思ったがあえて言わなかった。これ以上話がこじれると面倒だ。


「……まあいいでしょう。クロイワ班長が口にしてしまいましたし隠しませんが、私たちは対異能特務技術開発局が人外との繋がりを持っているのではないかと考えています。そうでなければ、〈アサルト〉や〈セイバー〉のECドライブの中身についてあまりにも違和感がありますから」

「……でしょうね」

「仮に私たちの予想通りだったとしても、対異能特務技術開発局と敵対するつもりもそれを人類軍に告発するつもりもありません」

「もしも私たちが本当に人外と繋がってたなら、後々〈ミストルテイン〉も罪に問われかねませんよ」

「構いません。それよりも私たちは人類に協力的な人外や人外と友好的な人類とのコネクションを望みます――ふたつの世界の和平を目指すために」


アキトとのやり取りを終え、ヘレンは少しばかり目を閉じた。


「……わかりました。……いや、この際ミツルギ艦長にも堅苦しい話し方はやめようか」

「構いません。その方が俺も気楽ですから」

「よし、それじゃあ改めて。……あんたの考えはわかったし、戦争なんて私もさっさと終わってほしいと思ってる」

「では、話を聞かせてくれるんですね?」

「ああ。ただまあ、それがあんたらの期待通りかというと違うんだけどね」


含みのある言葉にアキトはもちろんシオンやゲンゾウも疑問符を浮かべる。それに苦笑しつつヘレンは言った。


「私の知る限り対異能特務技術開発局に、人外との繋がりなんてものは……ない(・・)


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