9章-知った者たち③-
〈ミストルテイン〉、展望室。
そこへと通じるドアの前にハルマ、レイス、リーナの三人は立っている。
「(言われるままに来ちゃったな……)」
食堂でハルマたちの悩みを知ったギル。そんな彼からのアドバイスはというと、
「だったらさ――ぱぱっと本人と話しちまえばいいんだよ!」
という、ド直球もいいところな提案だった。
もちろんハルマたちは驚いたし、「それはどうなんだ?」ともなった。
しかし「食堂でうじうじ悩んでるよりはマシだと思う」というギルの指摘に反論できないのも事実だった。
そんな提案をしたギル本人はというと、最終的に決めるのはハルマたちだから好きにすればいいからと言ってシオンがおそらく展望室にいるという情報だけ残してさっさと立ち去ってしまった。
提案しておいて無責任な気もするが、彼らしいと言えば彼らしい。
結局、現状のままよりはマシではないかということでハルマたちはシオンを尋ねて展望室へとやってきたのだった。
いざ顔を合わせたとして何を話すべきなのかハルマ自身考えがまとまっているわけではないが、ここまで来たわけであるしちゃんと話をしたいとは思う。
息をひとつ吐き出して覚悟を決めると、ハルマはふたりと共に展望室へと足を踏み入れた。
深夜ということもあって最低限の照明しか点いていない展望室は薄暗い。
こんな状態の展望室にシオンがいるのだろうかと一瞬不安になったが、かすかにシオンの魔力の気配がある。
気配を辿って展望室の奥へ進めばすぐにその姿を見つけることができたが、ベンチの上に横たわる姿にハルマは息を飲んだ。
「シオン……!」
思わず声をあげて走り寄ってしまったのは、その力なく横たわる姿に格納庫で倒れ伏した姿を思い出してしまったからだ。
ハルマはそばにしゃがみこんでベンチの上のシオンの状態を確認する。
長めの黒髪の隙間から覗くシオンの顔を緊張しつつ覗き込み……次の瞬間にはかすかに聞こえる寝息に脱力した。
「寝てるだけ、みたいね……」
「よかった……体調が悪いとかじゃなくて」
ハルマに続いて近寄ってきたリーナとレイスもほっとしたように息をつく。
無事を確認して安心すると、今度は紛らわしいことをされたことへの苛立ちが湧き上がってくる。
それもあってハルマはやや強めにシオンのことを揺すった。
「シオン、起きろ。こんなところで寝るな」
「ん、んん……?」
そこまで深く眠っていなかったのかシオンはすぐに目を開けた。
やや寝ぼけているようではあるが、その瞳がゆっくりとハルマのことを映す。
「……ハル、マ?」
「ああそうだよ」
「…………えっ⁉︎」
寝ぼけた状態から急速に覚醒したシオンが飛び起き……ようとして狭いベンチに手をつき損ねてバランスを崩し、ベンチを挟んでハルマたちの立っているのと反対側へと転げ落ちた。
唐突すぎるドタバタに一瞬反応が遅れたが、ハルマとレイスは慌てて見事に頭から転げ落ちたシオンを助け起こしてやる。
「お前、寝ぼけ過ぎだろ!」
「いや、寝ぼけっていうかなんていうか、ちょっとびっくりして……」
助け起こしたシオンをベンチに座らせてやるが、どうも様子がおかしい。
普段から意図が読めない男ではあるが、妙に混乱しているように見える。
「それでその、三人はどうしてここに?」
「それは……その、」
「……僕たち、シオンと話がしたくてここに来たんだ」
ハルマが答えに詰まったところを引き継ぐようにレイスが問いに答える。
レイスは食堂で会ったギルのことも含めてここに来るに至った経緯も補足した。
そして経緯を聞き終えたシオンは頭を抱えた。
「あんのド直球バカ野郎……」
「そうね。実際私たちも話を聞いた時は、え?って思ったけど……今となってみればいいアドバイスだったような気がする」
リーナの言葉にハルマも内心で同意する。
正直、実際にシオンと顔を合わせてしまえば過去を見せられた直後のように上手く言葉が出て来ずに何も話せないのではないかという不安はあった。
しかし実際に顔を合わせてみればなんてことなく話ができている。
ギルのシンプルなアドバイスに従ってみなければそれに気づくこともできず、ハルマたちは未だに食堂で悶々としていただろうし、今夜は本格的に眠れぬ夜を過ごす羽目になっていただろう。
まだ何も話せていないし、何も解決してはいないが、確実に良い方向には進展している。
それは間違いなくギルのアドバイスのおかげであった。
「……何はともあれ、ベンチじゃ全員座れないし、あっち行こう。話、するんでしょ?」
そう提案してきたシオンはどこかぎこちない。
そのことに違和感を覚えつつ、ハルマたちは落ち着いて話すために展望室にあるテーブルに着くことにした。




