9章-招かれざる客人③-
「人類軍に潜む人外、だと?」
「ん? その反応は意外だな。アキトならとっくにその可能性があることくらいわかってると思ってたんだけども」
レオナルドの指摘通り、アキトやシオンはその可能性に気づいている。というか確信を持っている。
アキトが驚いたのは人類軍の側でそれを調査している人間がいたことなのだが、事情を知らないレオナルドには単純に潜む人外の存在を予想していなかったように映ったようだ。
「ECドライブの中にエナジークォーツ以外の人外の道具が当たり前のように紛れ込んでいた。それはこの〈ミストルテイン〉が一番よく知ってることだろ?」
「……ああ、そうだな」
「それを受けて情報部では〈ミストルテイン〉を製造した対異能特務技術開発局が怪しいと睨んでるってわけだ」
レオナルドの言葉にアキトとシオンは顔を見合わせる。
今になって考えてみれば、〈光翼の宝珠〉や〈アメノムラクモ〉、そして〈月薙〉の存在は異能についての知識がない人間から見ても十分怪しいのだ。レオナルドや彼に命令を下した情報部の人間のように対異能特務技術開発局への人外の関与を疑う者が現れたとしても別に何もおかしくはないわけで。
これまでシオンたちの目にそういった動きが映ってこなかっただけで、ここにいるレオナルドや情報部のみならずそういった考えを持つ者は人類軍内部に普通にいるのかもしれない。
「(となると、全然そういう話してこない上層部もだいぶ怪しい気が)」
シオンが把握している限り、上層部の面々に対異能特務技術開発局への疑念がある様子はない。
比較的人外に寛容なクリストファーはまだしも、人外に厳しいディーン・ドレイクなどがそういった動きをしていないのは少し妙にも思う。
まあシオンたちに見えているものなど上層部の本の一面に過ぎないとは思うので、裏では調査などをしているのかもしれないが。
どうあれ、シオンたち以外にも対異能特務技術開発局の秘密に切り込もうとしている勢力が存在するのは確かなようだ。
「対異能特務技術開発局はかなりの秘密主義で、上層部の中でも最高司令官含めた相当なお偉いさん以外にはほとんど情報が共有されてないんだ。情報部の権限ならそういうのを無視して情報開示要求や調査もできなくはないけれど……正規の手続きを踏んでのあれこれで真実を明らかにできるとは思えない」
「確かに、正規の手続きを踏む以上は調査される側が調査されることを把握しているわけですからね」
ミスティの指摘通り、正規の手段では対異能特務技術開発局が調査されることを把握する。そんな状態で情報開示を要求してもいくらでも誤魔化されてしまうだろうし、抜き打ちで研究施設などに押しかけたところで情報部が重要な証拠にたどり着くまでのほん数分の間にその証拠を全て破棄されてしまうことも十分あり得る。
本気で探りを入れるなら、調べていることすらも気取られないようにしなければならない。
「だから僕は人知れずに対異能特務技術開発局の本拠地に潜り込みたい。そのために問題の本拠地に招待されているこの〈ミストルテイン〉に密航させてもらいたいってわけなのさ」
曰く、通常時の第一人工島は非常にセキュリティが強固で、立ち入るのに色々な手続きを要する。
手続きさえすれば入れるには入れるが、その場合素性をはっきりさせる必要があるそうだ。
「そうなると、それらしい理由をでっち上げたところで情報部所属の人間なんて絶対警戒はされるわよね」
「対異能特務技術開発局の調査です」なんて明言するわけがないが、情報部という肩書きがあるだけで警戒される。特に相手にやましいことがあるのだとすれば確実にだ。
レオナルドもアンナの指摘にうんうんと頷いている。
「だけど、今回の催しではそれなりに多くのお客を招く都合で人の出入りはどうしても激しくなる。そのどさくさに紛れて潜入したいってわけさ」
一般的な人類軍の施設に入る場合、わざわざ船員全員のチェックなんてことはしない。
仮に第一人工島では全員のチェックを行うのだとしても、一〇〇人前後のチェックをしているどさくさに紛れ込めればいい。
そのためにレオナルドは〈ミストルテイン〉に乗って第一人工島に向かいたいということらしい。
「そちらの言い分はわかりましたが、もしも貴方の侵入が露見した場合私たちにもリスクが伴いますよね?」
「その場合、僕はあくまで「密航した」っていう証言を貫くよ。全く責任を問われないとは言わないけれど、君たちは被害者でしかない。そこらへんを確実にするためにもアキト以外にはあんまり話したくなかったんだよね」
ウソをつかせれば大なり小なり綻びが生じるリスクがあるが、本当に知らなければその心配はない。
レオナルドなりにこちらに迷惑をかけないようにするつもりはあるらしい。
「まあそういうわけだからさ、頼むよアキト。……それに僕、ちょっと前にそっちの頼み事聞いてあげたじゃないか」
「…………」
アキトがレオナルドに何を頼んだのかは知らないが、何かしらの借りがあるらしい。
アキトの性格上それを引き合いに出されると断りにくいところではあるだろう。
ただ、シオンとしてはレオナルドに協力するのは避けたい。
「レオナルドさんとやら」
「何かな?」
「ちょっと相談するので大人しくしててください」
レオナルドの返答を待たず、シオンは影で彼の目と耳を塞いだ。
影には防音や遮光の魔術を仕込んであるので、何も見えないし何も聞こえないだろう。
「ちょ! アイマスクとか耳栓なんか目じゃないくらいに塞がれてるんだけど⁉︎」
『大人しくしててくださいって言ったでしょ。あんまり騒ぐと口も塞ぎますよ?』
目と耳は塞いでいるので念話で直接声をかけてやった。口まで塞がれては敵わないと思ったのかレオナルドは聞き分けよく大人しくなる。
「で、アキトさんはどうするつもりですか? 個人的には反対なんですけど」
「反対の理由は?」
「外野にちょっかい出されると、俺たちにとって不都合しかないですよ」
例えば、レオナルドや情報部が先に対異能特務技術開発局の秘密を暴いてしまえば、人類軍は対異能特務技術開発局や関与する人外を排除しようとするかもしれない。
秘密にたどり着かなくとも、誰かに探りを入れられたことを察知してもっと強固に自分たちの秘密を守ろうとするかもしれない。
前者になると人類軍にあって人外に友好的な勢力をひとつ失うことになるし、後者になるとその勢力にシオンたちが接触しにくくなる。
それ以外にもいくつかパターンはあり得るだろうが、レオナルドが探りを入れることでシオンたちに好都合なことが起きることはまずなさそうだ。
「私も彼に賛成です。ただでさえ時間がありませんし、第三の勢力の介入はできるだけ妨害すべきかと」
「そうね……アタシも話がこんがらがると困るし、シオンとミスティに賛成」
アンナとミスティもシオンの考えを支持したが、アキトはすぐに判断を下さない。
貸し借りの問題を気にしているのかと一瞬思ったが、この状況でそれに固執するタイプでもないだろう。
「確かに断るべきだとは思うが……こいつのことだ。俺が断ったならまた別のルートでの侵入を試みるだろう」
「あー……確かに。というかすでに第二、第三のプランくらいありそうよねこの男なら」
「ヘラヘラしてがいるが抜け目ないし、頭もいい。最終的にはどうにかして第一人工島に忍び込むだろう」
アキトとアンナはレオナルドをなかなか高く評価しているらしい。
確かに、今回の侵入の手腕はなかなかのものだった。
電子ロックの解除はもちろんだが、レオナルドは単に服装だけで偽造していたわけではない。しれっと自身の侵入と同時に艦内の一部カメラにダミー映像を走らせていたのだ。
シオンが〈ミストルテイン〉艦内にいろいろと魔術を施しているからこそ、覚えのない魔力の気配を感知して侵入にすぐ気づけたわけだが、逆にシオンさえいなければ彼は予定通り艦長室に忍び込めていただろう。
「そういう男だからな。下手に預かり知らないところで動かれるより、俺たちの目が届くところにいてもらった方がいい」
「そう言われると、その方がマシな気がしてきましたね……」
「あとは……いっそこちらに引き込むってのはどうだ?」
そう提案したアキトは、彼にしては珍しい“悪い顔”をしていた。




