9章-招かれざる客人②-
「つまりこの男の人は、アキトさんたちのお友達にもかかわらずそのお友達の船を命令のまま探りに来た友達がいのない人間である、と」
シオンの確認にアンナは少し迷ってから頷いた。
「なるほど。殺さないにしても軽くシメていいやつですね」
「待って待って待って。僕の言い分もちゃんと聞いて欲しいかな!」
シオンの冷たい視線に晒されたレオナルドは簀巻き状態ながらも可能な範囲でじたばたする。
「というか根本的なところに勘違いがある! 僕は別に〈ミストルテイン〉のことを探りに来たわけじゃない」
「えー、無断で侵入して艦長室に直接忍び込もうとしたくせにそんなこと行っちゃうんですかー」
「確かにそこは弁明しようがないんだけども! でも本当、マジで本当! だからガッツリ口開けてるバケモノをゆっくり近づけるのやめて!」
シオンとレオナルドの問答を前にアキトが呆れたようにため息をつく。
「シオン、とりあえず話を聞こう」
「あまりに胡散臭いですけど、話聞く価値あります?」
「掴み所がないのは昔からだが、悪いやつではないからな」
アキトがそう言うのならとシオンは影の獣を消した。
レオナルドはそれに心底ホッとしたようである。
「アキト……君は本当にいいやつだね」
「とはいえただで優しくするほど甘くはない。お前の目的についてさっさと話せ」
「わかってるとも」
わざとらしい咳払いを挟んで、レオナルドは話し出す。
「さっきも言ったけれど、僕は別に〈ミストルテイン〉を調べるためにここにいるわけではないし、少なくとも僕はそういった指令も受けてはいない。……まあ他の諜報員がそういう指示を受けていないかは僕もわからないから情報部がこの船を警戒していないとは断言できないけれどね」
「しかし、少なくとも貴方は違う、と」
ミスティの確認にレオナルドは頷くが、それなら何故〈ミストルテイン〉に侵入したのかという話になる。
「僕がこの船に忍び込んだのは誰にも内緒でアキトに頼みたいことがあったからさ。……できることなら僕がアキトに接触したことすら誰にも知られないのが好ましいくらいにはこっそりとね」
「……だから、こっそり艦長室に忍び込んでアキトを待ち構えるつもりだった?」
「ご名答!」
誰にも知られずに艦長室に潜みアキトひとりだけに接触できたなら、レオナルドの考え通り表向きは彼がアキトに接触したという事実すら存在しないことになる。
全てはアキトとレオナルドの間で完結し、外部には一切漏れないというわけだ。
「で、そんなことまでやってアキトさんに何を頼むつもりだったんです?」
「僕、たった今できるだけ人に知られたくないみたいな話した気がするんだけど」
「生憎、そこをぼかされた状態でアンタのこと信用してあげられるほどアタシやシオンは甘くないからね」
戦艦への侵入など下手をすれば拘束される間も無く射殺されていた可能性すらある危険な行為だ。
それを承知でレオナルドがその選択をしたと主張するなら、アキトへの頼み事もそれに足る内容でなければおかしい。
もしもレオナルドが選んだ危険行為と彼がアキトに頼もうとしたことのバランスに違和感が残るようであれば、シオンとアンナは彼の言葉を信じられない。
「……オーケー。ちゃんと話をしよう」
「あら、意外と潔いわね」
「正直、捕まっちゃった以上は話すしかないと思ってたからね。予定よりたくさんの人間に知られてしまうってだけで、アキトに頼み事がしたいっていう僕の行動目標に変更はないし」
どうやらレオナルドはこの後に及んでアキトに問題の頼み事とやらをするつもりらしい。
「(いやまあ、誰にも知られないのが好ましいとは言ってたけど、最悪知られても大丈夫なのか)」
アキトのみと話ができれば満点。それが上手くいかなくて八〇点や六〇点になることはあっても、それだけで0点になってしまうわけではないのだろう。
「……それに、ウワサのシオン・イースタル君がこんなにアキトと仲良しなら、巻き込んじゃった方が僕にとっても都合がいいからね」
「おっとなんか嫌な予感がしてきましたよ」
「それじゃあ細かいことは後で補足するとして、ひとまずざっくりと頼み事について話をしよう」
シオンの発言を気にすることもなく、レオナルドはこちらのメンバーを見渡す。
「現在僕に与えられている指令は、“人類軍内部ないし近辺に潜んでいると思しき人外の把握”。……そのために、第一人工島で行われる新型の披露式典に僕を潜入させてほしい」




