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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
9章 暗中模索
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9章-招かれざる客人①-


アキトとシオンにお出迎えされてしまった哀れな侵入者は、当人が行きたがっていた艦長室へと連行された。

ちなみに人類軍における一般的な連行でなく、シオンの影でグルグル巻きにされての連行である。腕の一本も動かせない簀巻き状態での連行だったので運搬という表現の方が適切かもしれない。


「というわけでこちらの侵入者(お客様)なんですが……とりあえず俺の魔法で頭の中でも覗きます?」


最初からやる気満々なシオンにアキトや集められたミスティとアンナが引いた。


「アンタ、なんでそんな乗り気なの?」

「いやー、いつかこういう日が来るだろうなと思ってたんですよね。その分個人的にいろいろ準備もしてあったもんで、ちょっと楽しいというか」


要するに「こんなこともあろうかと」というお約束のセリフが言えるのでちょっとテンションが上がっているのである。


「なるほど、侵入者を見つけてから幻術を使うと言い出すまでやけに手際がいいとは思いましたが、最初から用意してあったものだったんですね」


哀れな侵入者が艦長室を目指しておきながら倉庫に誘導されたのはシオンの魔法によるものである。

簡単に言えば、ちょっとした幻術を使ってエレベーターで移動するフロアをひとつ誤魔化して別フロアに誘導。さらに誘導したフロアの見た目や電子ロックの有無なども幻で本物のように見せて誤認させたのである。


「まあ、元々は艦長室じゃなくて俺の部屋への侵入を想定してたんですけどね」


本来は同フロアにあるシオンの私室に侵入者が向かった場合を想定して用意してあったものだが、艦長室と位置関係が近かったのであっさり応用できたわけである。


「なんでそんなもの用意してたのー……なんて言うまでもないか」

「ええまあ。俺は人類軍のことこれっぽっちも信用してませんからね!」


シオンが用意していたこの仕掛けはあくまで人間、具体的には人類軍の人間相手を想定したものである。

何せ、シオンに敵対してシオンの私室にこっそり侵入しようとする者なんて人類軍しかいない。人外であれば≪天の神子≫に喧嘩を売ろうとはまずしないのだ。


「……まあその辺はおいといて、この人なんのために来たんでしょうね?」


未だシオンの影によって簀巻き状態の男。

艦長室を目指していた以上はシオンを狙っていたわけではなさそうだが。


「人類軍内部の人間なのは間違いないな。でなければ説明がつかない」


例えば広い艦内で迷うことなく艦長室を目指せたこと。その後あっさりと電子ロックを突破できたこと。十三技班の作業服を着用していることなどのことの説明がつかない。


「流れからすると、あの搬入トラックからしてこの人の差金でしょうね」


おそらくあの搬入トラックの荷台に潜んで格納庫に侵入し、十三技班の作業着で何食わぬ顔して周囲に溶け込んだのだろう。

どう考えてもそこらのテロリストにできる真似ではない。


「俺狙いじゃなくて艦長狙いだったなら、人外嫌いの過激派とかですかね」


シオンを従え、さらにはガブリエラまで迎え入れている〈ミストルテイン〉の艦長であるアキトが人外と友好的な関係を築いているであろうことは誰が見てもわかる。

しかも本人は魔法まで扱えるようになっているのだ。【異界】や人外を嫌っている輩からすれば面白くない相手だろう。


「で、その辺どうです?」

「……それ僕に聞く?」


シオンが問いかければ男は一瞬ポカンとしてから疑問を返してきた。


「そりゃ聞きますよ。こっちで予想するより本人に吐いてもらう方が早いし」

「いや、僕が正直に話すと思うの? この状況で」

「へえ、逆にこの状況で正直に話さないつもりなんですね」


シオンは男に向かって微笑む。それだけで男は嫌な予感を察したようだ。

その予感に応えるように、シオンの影が蠢き出す。


「手際とかからして訓練を積んでる諜報員さんみたいですし、拷問とかの対策もしてるんでしょうけど……所詮は人間の拷問(・・・・・)だけでしょう?」


男を拘束しているのとは別の影が男の真正面でゆっくりと獣の姿をとっていく。


「お察しかもしれませんが、これはさっきアキトさんの善意のおかげであなたが見なくて済んだモノです。可哀想に、結局見ちゃいましたね〜」


見せつけるように男の正面で影の獣が牙を剥く。

大きな口と立派な顎を駆使すれば、男の頭くらいは瞬く間に噛み砕けてしまうだろう。


怯えたように目を見開く男を前に、クスクスとシオンは笑う。


「正直にお話ししてくれますか? 嫌だって言うなら、とりあえず足の一本でも噛みちぎりましょうか? 大丈夫、すぐに止血するので失血死の心配はありません。まずは右脚……まだダメなら左脚。その次は右腕、最後に左腕ですかねぇ?」


クスクスという笑い声を止めることなくシオンは男を見上げて――次の瞬間アキトのゲンコツで視線が頭ごと勢いよく真下に向いた。


「ホントにお前ノリノリすぎるぞ」

「これくらいやった方が正直に話してくれると思いまして」


シオンが軽い調子で答えるとアキトはあからさまにため息をついた。


「シオンのやり方は最終手段として、自主的に質問に答えるつもりはあるか?」

「あるある、ちょーあるからホントに食べるのは勘弁して!」


ちゃんと口を開かせてみると男はずいぶんと気の抜けるような口調である。

そんな男の口調にアキトとアンナが少し反応を示す。


「……なんか、覚えのある感じのしゃべり方ね」

「あ、わかってくれちゃう? さっすがアンナは勘がいいね」


親しげにアンナの名を呼ぶ男に、アキトとアンナのふたりは顔を見合わせる。


「とりあえず、答え合わせのために帽子とその下の特殊メイクをひっぺがしてよ」

「……シオン」

「アイアイサー」


ちょうど出しっぱなしにしていた影の獣が男の帽子を奪ってそのまま食べ、その光景に小さく悲鳴をあげている男の耳のあたりに境目のようなものを見つけたシオンはそこから男の顔を覆うマスクのようなものを剥ぎ取った。

髪はウィッグなどではないようだが、男の顔つきがガラリと変わってまるで別人のようになる。


そうして晒された男の顔に、アキトとアンナは盛大にため息をついた。


「何してんのよ、アンタは」

「仕事だよ仕事。俺がそういうとこに入ったのは知ってるだろ?」

「だとしてもお前が俺たちを探りに来るのは悪趣味だと思うがな」


気安く会話をする三人はどうやら知らない仲ではないらしい。


「……艦長、戦術長。結局のところ彼は何者なのですか?」


シオンとミスティ共通の疑問についてミスティが問う。

対するアキトは少しだけ戸惑いつつ口を開いた。


「この男は、レオナルド・ホークス。……士官学校時代の俺の同期で、人類軍情報部の人間だ」


アキトの紹介を受け、侵入者の男――もとい、レオナルドは「よろしくね、おふたりさん」とこちらにウィンクして見せた。


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