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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
9章 暗中模索
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9章-これから為すべきこと-


「それはそれとして、俺を呼んだご用事ってなんですか?」


ここまでの旅路で覚えていなかった事実をチクチク言われつつも改めてミスティの名前を確認し終えたシオンはアキトに尋ねた。


現在のシオンとアキトの関係において「用事もないのに呼ぶな」なんてことは言わないのだが、今回呼ばれた場所は艦長室で、アンナはともかくミスティもいる。

プライベートな呼び出しではないことは明らかだ。


「ああそうだった。少し、今後のことを相談したくてな」

「和平を目指すうんぬん、ではないですよね今更」

「もちろん。もう少し具体的な話だ」


アキトは一度仕切り直すように軽く咳払いをする。


「前提として、和平を目指すという方針は持ちつつも、基本的には上層部の命令に従って任務をこなすことにはなるだろう。俺たちでなければ対処できないようなアンノウン問題を放置するわけにはいかないしな」


〈ミストルテイン〉はあくまで人類軍の一部隊。

上の命令を無視してはどんな罰を受ける羽目になるかわからないし、現実問題、人類軍は〈ミストルテイン〉が動かないと魔物堕ちのような強力なアンノウンにはまだ対処できない。

そういった問題を放置しては人類軍が和平交渉どころではなくなりかねないだろう。


いろいろな意味でその辺りは今まで通りにするのが正解だ。そこにシオンも異論はない。


「そしてその任務の合間合間に和平を目指すための活動――主に人類軍内部の穏健派などとの連携を強めていくのがいいだろう」

「まあ、それが最善ですけど……あんまりのんびりはやってられませんよ?」


和平を目指すとした時、実のところシオンたちにはあまり多くの時間は残されていない。

それはアーサーたちからの情報だ。


ガブリエラという後ろ盾を確保できたこともあり、アーサーたちレイル隊は慎重に出し渋っていた情報もこちらに開示してくれた。

それは主に彼らに与えられた任務についてだ。


アーサーたちの任務は、簡単に言えばこちらの世界の調査だ。

こちらの世界における穢れや魔物の状況。人類軍の動向。人外たちの状況など、様々な情報について【異界】に報告することを命じられているらしい。


ただここで問題になるのは任務の内容というよりも、その任務が与えられていることにある。


ガブリエラ曰く、【異界】側が戦争に向けて優先しなければならないのは現地の人外との交渉だったはずだ。そしてそれについてアーサーたちも否定はしなかった。

だが、今回レイル隊にそういった交渉をしろという命令は下されていない。

それはつまり、【異界】側が交渉のフェーズを終えたということだ。


交渉と調査の並行という線もあり得ないわけではないが、強力な人外のテリトリーをうろつくだけでも相手の機嫌を損ねる可能性があることを思えば可能性は低く、アーサーたちもそれははっきりと否定した。

≪天の神子≫であるシオンや“幽霊船”に接触してきていなかったことを考えると全ての強力な人外と交渉したわけではなさそうだが、ある程度の交渉は済ませたということらしい。


そして最大の問題である交渉のフェーズを終え調査隊を派遣し始めたということは、本格的にこちらに進軍することを視野に入れ始めたという証拠でもある。


ここまで六年かかったことを思えば【異界】はかなり慎重に動いているらしいが、アーサーたちの見立てではどれだけ時間をかけたとしても半年以内には動き始めるのではないかという話だった。


アーサーたちとしてはあえて報告を控えめにして動きを遅らせるつもりでいるようだが、レイル隊以外にも調査を命じられた部隊はこちらの世界に派遣されているらしく、その中には“推進派”の部隊も含まれる。

それらが積極的に報告を送ることで十分な情報が集まったと判断されれば、すぐにでも【異界】側の進軍は始まってしまいかねない。


〈ミストルテイン〉の立場上仕方ない部分があるのは事実だが、あまりスローペースで動いていては先に戦端が開かれてしまいかねない状況というわけだ。


「だからこそ、ひとつひとつの動きを効果的なものにしなければならない。そのために、早速だが大きく動こうと思う」

「と、言いますと?」

「対異能特務技術開発局に切り込む」


対異能特務技術開発局。

それはこの〈ミストルテイン〉や〈アサルト〉などのECドライブ搭載機を開発した機関であり――シオンたちが人外と繋がっているのではと睨んでいる疑惑の機関でもある。


今まではシオンが上層部に睨まれていたことなどもあって様子見をしていたわけだが、アキトはそこにメスを入れていこうとしているらしい。


「……まあ、実際アリ(・・)ですよね」


対異能特務技術開発局が人外と繋がっていることについて、シオンはほぼ確信している。

むしろ繋がっていなかったらおかしいとまで思っているくらいだ。

そして人外と繋がっている機関が人外を敵視しているわけもない。


しかも対異能特務技術開発局は上層部肝入りで設立された機関だ。

人選などには確実に人類軍上層部が関わっているわけだが、そんな機関が人外とズブズブの関係なのだとすれば――


「対異能特務技術開発局について調べれば、玉藻様と繋がってる人類軍内部の関係者とかも明らかにできるかもしれませんしね」


玉藻前は明らかにしなかったが、おそらく彼女と繋がっている人間は上層部に名を連ねているはずだ。

そうでなければ〈ミストルテイン〉という特殊な部隊の人事に細工してコウヨウを配属させることなどできはしないだろう。


そして、その人物は対異能特務技術開発局にも関わっている可能性が高い。

玉藻前が〈光翼の宝珠〉が〈ミストルテイン〉に搭載されていることを知っていたのもそれならば説明がつく。


つまり、対異能特務技術開発局の秘密に切り込むことで玉藻前曰く「人類軍や人の世に害をなすつもりはなく、世界の平和を考えている人物」を見つけ出すことができるかもしれないのだ。


上層部に属していて人外とも確かな繋がりのあるという人物を味方にできれば、和平を進める上でかなりの戦力になるのは確実だろう。


「もちろんリスクもある。無理に暴けば敵対関係になってしまうかもしれないしな」

「でもまあ、悪くない博打でしょう。正直そうでもしないと間に合わなそうですし」


リスクを承知でやってみる価値はあるとシオンは思う。


「で、具体的に切り込む方法は?」

「ああ、実はタイミングよくとある招待(・・)を受けたんだ」


アキトの言葉にミスティが手元のタブレットを操作し、モニターに文書を表示した。


「新型戦艦と新型機動鎧のお披露目イベント、ですか」


文書の内容はシオンの言葉通り、対異能特務技術開発局が進めていたECドライブ搭載型の新型艦及び新型機動鎧を正式配備する前の催しが行われるらしい。


「問題の新型艦及び新型機動鎧というのは、私たち〈ミストルテイン〉の集めたデータを使って設計されたものです。特に新型機動鎧というのは私たちもよく知る〈クリストロン〉のことですよ」


催しには開発を担当した対異能特務技術開発局の関係者や人類軍の高官、開発に関わっている企業の重役などが出席するそうだ。

〈ミストルテイン〉がこの催しに招かれるのも、開発のデータ集めに協力したからということらしい。


「確かに、直接対異能特務技術開発局の関係者に接触できるチャンスですね。マリーとかに頼るよりもよっぽどいい方法です」


〈ミストルテイン〉にはマリーという対異能特務技術開発局の研究者が駐在しているが、まだ幼い彼女をこういった調査などに巻き込むのはよろしくない。

彼女を巻き込まずに済むならシオンは面倒なパーティなどにも喜んで参加しよう。


「アキトさん、ぱぱっと参加しちゃいましょう」

「いや、その前にお前にひとつ確認したいことがある」

「……なんです?」


そこに来て、シオンはアキトが神妙な顔をしていることに気づいた。

単にパーティへの参加について尋ねるような表情では決してない。


「その催しは対異能特務技術開発局の本拠地である人工島で行われる。……そこは、お前にとっても無関係な場所じゃないはずだ」


アキトの言葉を聞いて、シオンはすぐに思い当たる場所があった。

すぐにモニターに映された文書を確認し、その予測が事実であることを確認する。


「場所は、第一人工島――かつてお前が暮らした島だ」


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