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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
8章 霧の海で出会うもの
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8章-【異界】情勢②-


「そもそも、そちらの世界において王はどれほどの権力を有しているのでしょう?」

「どれほど、と言いますと?」

「例えば、王家に強く意見できるような二番手の権力者がいるですとか、議会などの決定に逆らえないなどの決まりがあるですとか」


ミスティからの問いに対して、アーサーやレッドたちは首を捻るばかりで彼女の言葉にピンと来ていないのは明らかだ。

そんな状況を前にしてサーシャがやや困ったように口を開いた。


「あー、あっちの世界って国として成立してからずっと今の王家が治められてきてるし、今までに王家に不満が出たことも特にないのよね。ざっと千年以上」

「千年⁉︎ その間に一度も不満が出てないのですか⁉︎」

「王家が“天族”のお手本みたいな家系でね。私腹を肥やそうなんて考えもしないし、人々を幸せにすることを真面目に目指してるから……」


自分たちが豊かに暮らすことなど考えず、とにかく自分たちの国で暮らす人々を大事にしていた。そんな王だったなら確かに不満はなかなか出ないだろう。


「全く不満が出ないなんてことはさすがになかったみたいだけど、出たら出たでちゃんと話を聞いて解決策とか考えるし……」

「今からでも移住したいくらいには平和そう」

「そうなのよね。だから人間の歴史あるような王家への対抗手段みたいなものってあっちじゃ発想からしてないのよ」


王政において、強い権力を持つ王家の暴走などを防ぐために、有力な貴族が抑止力になったり、王家を押さえつけるための法整備をしたりという方法が必要となる。


しかしそもそも王家が善良で暴走しないのなら、そういったものは必要ない。

そして【異界】は実際に千年以上の間それらを必要とせずに存続し続けてきたというわけだ。


「まあそういうわけだから、ミスティちゃんの質問に対する答えは“王家がとんでもなく強い権力を持っていて、それへのカウンターは全くない”っていうことになるわね」

「ぶっちゃけ独裁だってできちゃうけど王家がいい人だからそうなってないだけ、って感じですね」


人間の歩んできた歴史などを踏まえると意味がわからない感じではあるが、紛れもなくそれが事実というわけだ。

その答えを聞いてミスティはもちろん〈ミストルテイン〉側の面々は若干気が遠くなりつつ頭を抱える。


「……だとすると、現状“反戦派”が具体的なアクションを起こすのは難しいのではないですか?」


しばらくの沈黙の後、アキトはそう指摘した。


「“推進派”と“反戦派”の勢力差以前に、絶対的な権力を持つ王が“推進派”寄りである以上はどう足掻いても“反戦派”は賊軍のような立場になってしまう。少しでも隙を見せればあっさり“推進派”によって潰されてしまうでしょう」


話を聞いている限り王に逆らったというだけで即処刑などの物騒な事態にはならないだろうが、動きを封じられてしまうことは間違いない。

せめて王家へのカウンターが存在すればやりようはあったかもしれないが、無いものは当てにできないし、今からそういったものを新しく用意することもできまい。


つまり、現状の“反戦派”は戦うことに反対するという意見を述べるまではできても、人類軍に情報を流すことはもちろん歩み寄ることすらかなりリスクが高いのだ。


「(アーサーさんたち何も言わないけど、現在進行形でかなり危ない橋渡ってることになるんじゃ……)」


敵対勢力である人類軍と話をしている。

決定的な内容には触れていないとはいえ【異界】の情報も漏らしてしまっている。

“推進派”に知られようものなら十分に危険な状況だ。


「しかし、だとすると和平はとても難しいことになってしまいます」


アキトの指摘から続いて、ミスティが冷静に意見を述べた。


「私たち人類軍もどちらかと言えば【異界】との戦争に積極的です。しかも六年前の事件に関して都合の良いウソを周知した……可能性が極めて高い。……彼らは、自らの保身のためにも、今更【異界】との協調路線など認められないのではないでしょうか?」


まだタイチたちの言葉を完全には信じられないのか言い回しが若干回りくどくはあるが、ミスティの言う通りだ。


人類軍は六年前の一件についてウソをついただけではなく、それを積極的に広めて打倒【異界】の機運を高めてきた。

しかしもしここで【異界】と手を取り合うという流れになれば、そのウソが発覚してしまいかねない。

そんなことになれば上層部は一気に信用を失い、責任を問われることになる。


六年前のウソに関わった者たちは自分たちの身を守るためにどんな手段を使ってでも協調路線に反対するだろう。


「現状、人類軍にしても【異界】にしても平和的に解決しようという意見が主流とは言い難い。そんな状況で和平を成し遂げるのは不可能に等しいではないでしょうか?」


「もちろん、私は和平が実現させたいと考えていますが」と言いつつもミスティの表情は不安を諦めが顕著に見て取れる。


実際、ミスティの言っていることは紛れもない事実だろう。


【異界】の“反戦派”も、せめて人類軍側が対話に乗り気であれば動きようがあったかもしれないが、実際はその真逆の状態だ。

むしろ、協調路線に進めば明らかに自分の身が危険である人間が上層部に属しているであろう人類軍側の方が【異界】の“推進派”以上に強硬に戦争をしようとしている節すらある。


はっきり言って、仮に【異界】全体が“反戦派”となって対話を求めてきたとしても今の人類軍はそれを突っぱねかねない。

《太平洋の惨劇》に関する事実を知ってしまった今、とてもではないが人類軍が和平に同意するとシオンには思えなかった。


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