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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
8章 霧の海で出会うもの
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8章-惨劇の理由③-


「そうして人類軍を蹂躙し終えた後、ようやく冷静になった騎士団は自分たちの行いが亡き王と王妃の望みと完全に真逆であったことに気づきました。すでに取り返しのつかない状況に陥ってしまっていることを悟った騎士たちは、体勢を立て直すために帰還したそうです」


ただでさえ王と王妃というトップを失っていたのだ。

あまり冷静に考えられる状況ではなかったことも含め、当時の騎士たちは戻る以外の選択肢を持たなかったのだろう。


「戻る前に沈んだ戦艦の回収をしようとは思わなかったのか? 王や王妃はもちろん生存者がいる可能性もあったのでは?」

「騎士団の戦艦や魔装は海に潜れるようなものではありません。……それに、王や王妃が他界していることは確認するまでもなくわかってしまいましたから」

「こういう言い方をするべきではないかもしれないが、遺体を確認するまでは可能性があるのでは?」


少なくとも人間であればそのように判断する。

しかしガブリエラは黙って首を横に振った。


「王族の人間は、ある程度の年齢になれば信頼できる騎士との間に従者契約を結分のがしきたりです。王妃についてもそれは同じことです。……そして、王や王妃の従者はすでに契約の断絶を感じ取っていましたから……」

「契約の断絶、ということは……」

「契約が切れるパターンは、基本的に主人の側から意図的に解除するか、契約関係にあるどちらか一方が死亡した場合に限ります」


アキトの疑問に対してシオンは淡々と説明をした。

状況的に見て、当時のケースは確実に王と王妃の死亡によるものであることはアキトもすぐに察してくれたようだ。


人間であれば諦め悪くわずかな可能性に縋れるところだが、彼らにははっきりと現実が理解できてしまった。

それが幸せなことか不幸なことかは、シオンにはわからない。


「沈んだ船――〈クレイドル〉の他の船員に関しても、契約こそなくとも魔力の気配が感じ取れなかったそうです。意図して隠さなければ感知できるはずの魔力の気配がないという時点で、それはもう――」

「……すまない。これ以上は大丈夫だ」


これ以上話をさせてもガブリエラやレイル隊の面々の気分を暗くするばかりだとアキトは判断したらしい。

知らなければならない情報については十分手に入ったので、続けさせる必要もないだろう。


「……だが、疑問については解消した。質問した内容もそうだが、以前からの疑問もな」

「ですね。……解消したのが嬉しいかと聞かれるとそうでもないんですけど」


シオンの言葉にアキトは苦々しい表情で頷いた。おそらくシオンも彼と同じような表情を浮かべているのだろう。


「あの、前からの疑問というのは……?」

「ひとつは、六年前にどうやって【異界】の旗艦を沈めたのか、という点だ」


ミスティの疑問に対してアキトが答えるが、彼女やアンナたちはその内容にピンときていないように見える。


「要するに、どうやって魔力防壁を突破して戦艦にダメージ与えたのかって話ですよ」


時代にして六年前。

アンノウンはすでに活動していたので魔力防壁の存在は認知していただろうが、それを当時の兵器で易々と突破できたとは考えにくい。


「しかし、それは戦艦クラスの火力であれば不可能ではないのでは?」

「でも、他の戦艦は一隻も沈められなかったんですよ? それなのに普通なら一番防備が整ってるはずの旗艦を沈められるなんてちょっとおかしいじゃないですか」


シオン自身以前からそこまで考えていたわけではないが、先日アキトに指摘されて気づいた。

今でこそ魔力防壁に対抗する前提で兵装が整えられているが、当時はまだアンノウンとの戦いが本格化したばかりで火力が弱かったはずであるし、仮に当時の兵装で突破できたならもっと他の戦艦や魔装を撃墜できているはず。

そう考えるとおかしな点が目立つというわけだ。


「以前は特攻したと聞かされていたこともあって質量で押し切れたのかと思っていたんだが……シオンやオボロ様のとんでもない強度の防壁を見せられたからな」

「確かに、オボロ様の本気の防壁なんて複数の戦艦の一斉攻撃でもびくともしなかったもんね」


実際に旗艦である〈クレイドル〉がどれだけの防壁を展開できたかは定かではないが、いくらオボロが“神”に分類されるとはいえ、彼単体で展開できる防壁よりも【異界】の艦隊の旗艦の防壁の方が弱いというのも違和感がある。


得られた結論は“そもそも相手が防壁を展開していなかった”ということだが、アキトの疑問が見事に解消した形だ。

防壁がそもそもなかったのだから破る以前に簡単に突破できるに決まっている。


「それからもうひとつ。これは一応確認させてもらいたいんだが、構わないだろうか?」

「は、はい。私にわかることであれば……」

「そこはおそらく問題ないはずだ。……〈光翼の宝珠〉が人類の手に渡ったのは、六年前の一件で間違いないだろうか?」


アキトの問いにガブリエラは息を飲み、動きを止めた。

その反応を見れば言葉での返答を聞くまでもない。


「……それで、間違いありません。いつから予想されていたんですか?」

「昨日、宝珠が本来王族の手元にあるものだと聞いた時に。大切に管理されているようなものが【異界】からこちらに渡る機会なんてそれくらいしか思い当たらなかった」


以前はこちらの世界の人外の持ち物が人類軍に渡ったと予想したが、【異界】の王が持っているはずのものがそのパターンでこちらの世界に移動するとは思えない。

そんな中でアキトやシオンに思い当たる【異界】と人類軍の接触となると、六年前の《太平洋の惨劇》に限られる。


「その場合の入手経路としては沈んだ旗艦しかない。……王に宝珠を託された臣下か何かが旗艦の指揮をしていたのでは予想していたくらいで、まさか王本人が来ていたとは思わなかったんだがな」


そうして回収された宝珠が〈ミストルテイン〉のECドライブに搭載されて今に至る。というわけだ。


「たったあれだけの情報からそこまで考えられていたんですね……すごいです」

「いやいや、驚くのはまだ早いよガブリエラ」


そう、アキトの予想というのはこれだけでは終わらない。

そこからさらに踏み込んだ予想をアキトとシオンはしていたのだから。


「なんと! そこらへんの経緯を予想した賢い我らがアキトさんは、昨日の時点で六年前の惨劇が人類軍の報告してる通りじゃなかったかもってことまで気づいちゃってたんだよね〜これが!」

「……なんでお前が得意げなんだ?」


やや芝居がかった調子で話すシオンにアキトの冷静なツッコミが入った直後、複数人から驚きの声が上がるのだった。


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