2章-正午、マイアミ基地にて-
人類軍北米支部マイアミ基地。
北米の人類軍基地の中では最大規模の基地のひとつである子の基地は今日、平時ではありえないほどの厳戒態勢にあった。
周辺の基地からも人員や機動鎧が秘密裏に集められ、外部からではわからないように巧妙に偽装された状態で基地の至る所に配置されている。
厳戒態勢の理由は明白で、今日この基地には人類軍上層部の過半数以上が集まる。
そしてそれに合わせて異能の力を操る少年、シオン・イースタルもまたここを訪れるのだ。
表向きは平和的な話し合いのためにこのマイアミ基地が使われるということになっているが、実際のところそこまでシンプルな話ではすまない。
上層部とシオンの間で協力関係に対する合意はされている。
しかし双方の間に信頼関係があるわけではなく、どちらかが動けばすぐに無に帰すような脆いものに過ぎない。
そしてつい昨日、一部人類軍軍人がシオン・イースタルの殺害を計画し搭乗機に爆発物を仕掛け実際に爆破するという事件も起きたばかりだ。
その結果、人類軍側の裏切りによって信頼関係に大きな揺らぎが生じることになった。
昨日までの約一カ月間シオン・イースタルから敵対の意志は感じられず、あるいは円滑に話し合いが進められるかもしれないと思われていたこの会議も、先行きが読めなくなってしまった。
集められている戦力も、要するに万が一を考えてのものだ。
もしもシオン・イースタルがこの会議の場で人類軍に対する敵意を明確に示し、武力行使に出るようなことがあればこの場で確実に排除する。そのための戦力だ。
それを準備するという行為自体がシオンとの関係を決裂させかねないが、それほどまでに人類軍はシオン・イースタルという人間を警戒しているということだ。
裏でそんな準備が整えられている敵陣の真っ只中を、少年はゆっくりと歩く。
長い通路を進みマイアミ基地でも最も大きな会議室に立ち入った彼は。直接あるいは画面越しにこちらを見つめる無数の視線を真正面から受け止めて微笑む。
「こんにちは、人類軍上層部のみなさん」
自身の数倍の時を生きてきた男女たちの決して好意的とは言い難い視線を受けても少年は怯む様子もなく、ぐるりと室内を一度見渡してから恭しく――どこか演劇染みた所作でひとつ礼をする。
「シオン・イースタル。なんてことのないどこにでもいるような魔法使いです。どうぞ、お見知りおきを」
冗談でも言うような軽さでの自己紹介の言葉に、シオンのちょうど正面の位置に腰かけるクリストファー・ゴルド最高司令官が満足気に頷く。
「それでは、話し合いを始めようか」
クリストファーの鶴の一声で、人類軍とシオンの今度の関係を決める話し合いは幕を開けるのだった。




