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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
8章 霧の海で出会うもの
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8章-話し合いを前に-


「それじゃあ、誰が行くのかさっさと決めましょう。移動考えると十五分くらいしかないですよ」


念話による交信が終わってすぐにシオンはパンパンと手を叩いて注目を集めるとさっさと本題に入った。

言葉にした通り、あまり時間はないのだ。


「とりあえず護衛兼知恵袋的な感じで俺は行くことになりますよね」

「ああ。それは確定だ。あとは俺も行く」

「言うと思ってたけど当然のようによくわかんない相手のとこにトップが行くのどうなんですかね?」


アキトらしい判断と言えばその通りなのだが、それがよい判断なのかどうかは別問題だ。


「今更じゃない? 玉藻様のとことかオボロ様のとことか普通に連れてってたじゃない」

「それはそうする必要がありましたし、オボロ様はともかく玉藻様がアキトさんに手出ししないってのはほぼほぼ確信してたので……」


オボロについては人好きの神なのはなんとなく察していたのでアキトのような男を安易に害さないと予想できたし、玉藻前についてはシオンの気に入っている人間に手出しをしないだろうという確信があった。だからあまり心配せずにアキトを連れて行っていたのである。


が、今回についてはシオンですら相手のことをよく知らないのだ。

ここまで交わした言葉の雰囲気からして大丈夫そうな気はしつつも、部隊の最重要人物がホイホイ出向くのはやはりリスキーではある。


「だが、少なくとも水上艦の女性は自ら出てくるだろうし、あの様子なら【異界】の戦艦からも隊長本人が来るだろう。相手がトップを出してくるのにこちらがそれを渋ると余計な揉め事を起こすぞ」

「そうなんですけどねー」


「なんでこちらはトップを出しているのにそちらはトップを出さない」と言われてしまうと反論のしようがない。

わかりきっているマイナスは避けるに越したことはないだろう。


「それに。純粋な人類軍人の中で一番自衛ができるのは俺だぞ?」

「そこもその通りなんですよねー……」


アキト以外を出すなら副艦長のミスティか、人外相手だろうが友好的かつ抜け目なく相手ができるアンナのどちらかになってくる。

しかしそのふたりには魔法や魔術の心得がない。自衛なんて全く無理な話で、完全にシオンに守られることになる。


一方でアキトはと言えば、シオンに自衛手段を仕込まれている上に〈光翼の宝珠〉との契約によって攻撃、感知、さらにはそこらの人外にはできない空間転移まで使いこなしている。


片や自衛はできるし人外方面の知識も得ている。なんなら空間転移で退避もできちゃうんじゃないかというアキト。

片や自衛はできないし知識面でも大したことはないミスティかアンナ。


「トップが行く」というわかりやすいリスクを考慮に入れても、アキトが行くのが一番なのではないかという気になってくる。


「ま、こうなったらどうせアキトは譲らないし……多分アタシやミスティが行くよりいいわよ?」

「そう、ですね……人外相手ですと私ではきっと円滑に対話できないでしょうし」

「と、いうわけで俺が行くことで決定だ。シオンも異論はないな?」

「ないでーす」


なんの心配もないとは言えないが、アキトの今の実力なら相当大変な事態にでもならなければ問題ないのもまた事実だ。

シオンも最初からそこまで強硬に反対するつもりはなかったので問題はない。


「じゃあ、俺とアキトさんのふたりですかね?」


最大五人とは言われているが、極端な話ひとりでの参加でも問題はないのだ。

必要がないのであれば少人数の方が何かあった時に動きやすいので、シオンとしてはふたりでも構わない。

その結論でアキトたちも納得しかけたその時、ブリッジのドアが突然開いた。


「すみません! 急で申し訳ないのですが私も話し合いに同行させていただけないでしょうか⁉︎」

「え、ガブリエラ?」


突然現れた上にいきなり自分の望みを一方的に投げかけてくるというのは普段のガブリエラのイメージからはややかけ離れた行動だったのでシオンは純粋に驚いてしまった。


「レイル君。急にどうしたんだ?」

「その、相手は私と同じ騎士ですし、対話の機会が設けられるのなら私が間に立つことで互いに対する理解を円滑にすることができるのではないかと思いまして……」

「確かにそうかもだけど……場合によっては逆に揉めない?」


ガブリエラは騎士でありながら【異界】と敵対する人類に協力している身だ。

相手の騎士たちがどういった考えを持っているかわからない現時点でガブリエラの存在を明かすと、“裏切り者の騎士とそれに与する人類軍”という見え方にもなり得る。

そうなってしまえば一転して状況は悪い方向に転がってしまう可能性もあるわけだ。


「相手の隊長さんの雰囲気的に大丈夫そうな気もするけど……」

「その、大丈夫そうというか大丈夫(・・・)なんです」


断言するガブリエラにシオンたちは首を捻ると、彼女ははっきりとした口調で続けた。


「念話での交信は私も聞いていました。それで確信したのですが、あちらの隊長は私にとって親交の深い方なんです」

「つまり……知り合いだから問題ないってこと?」


シオンの確認にガブリエラが力強く頷いた。


「ソード様がいた時点でそうかもしれないとは思っていたんですが、念話のおかげで確信が得られました。あちらの隊長もまた私と同じでこの世界との戦争に消極的な人物になります」

「なら確かにガブリエラちゃんがこっちにいるって知られても大丈夫ね!」

「はい、大丈夫です! ……私個人は少々お説教されるかもしれませんが」

「へ?」

「とにかく、私が同行することで話を進めやすくなると思いますので、ぜひ同行させてください」


相手とガブリエラが既知の間柄であるというのならシオンたちにとってはメリットしかない。

反対する者はひとりもおらず、ガブリエラの参加も決まった。


こうしてシオン、アキト、ガブリエラの三名で水上艦へと向かうことが決まったのだった。


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