8章-≪銀翼騎士団≫①-
『〈ミストルテイン〉、機関最大出力! 最大船速で突っ込むぞ!』
『了解!』
『機動鎧部隊も! 無人機の相手はほどほどについてきなさい!』
アキトの号令と同時に〈ミストルテイン〉が急加速し、格納庫にいるシオンも危うくこけそうになる。
ドローンからの映像でもかなりの速度で駆け抜けていく〈ミストルテイン〉の姿が見えた。
『敵艦、魔力反応上昇! 攻撃来ます!』
『構うな! 俺の魔力防壁を前方に集中させる! 機動鎧部隊は本艦の後ろに隠れろ!』
直後【異界】の戦艦から無数の魔力が放たれる気配があり、遅れて〈ミストルテイン〉を覆う魔力防壁とぶつかる。
防壁によって完璧に防がれているのか衝撃こそ伝わっては来ないが、かなりの数の攻撃と正面から激突したはず。それでも〈ミストルテイン〉は止まらない。
『敵艦、全兵装の有効射程距離に入りました!』
『ラムダ! 〈ラグナロク〉以外ありったけの攻撃を叩き込め!』
『構わねえが防壁があるんじゃねえのか?』
『俺の方ですべての攻撃に魔力を纏わせる』
『ならよし! 照準は任せな!』
『機動鎧部隊もスタンバイ! タイミング合わせて一気に仕掛けるわよ!』
格納庫にいるシオンはドローン越しではない自分自身の感覚で敵艦の気配が急速に近づいてきているのを感じ取った。
そしてブリッジでラムダが大きな声をあげる。
『カウント3で仕掛ける! パイロットたちも合わせろ!』
そう叫んだラムダは機動鎧部隊の返事も待たずにカウントを開始した。
『3……2……1……発射‼︎』
〈ミストルテイン〉の各種兵装が同時に火を噴いたことで、格納庫にもわずかに振動が伝わってくる中、ドローンからの映像越しに無数の砲撃やミサイル、さらには機動鎧部隊から放たれたであろう光学兵装の光などが敵艦に向かう様を見つめる。
一般的な部隊の攻撃であれば、あれだけあってもきっと敵艦の魔力防壁を破ることはできないだろう。
しかしこの〈ミストルテイン〉は違う。
〈ミストルテイン〉はアキトによって、各機動鎧もそれぞれのパイロットにより攻撃が魔力を纏っているのだ。
すべてが貫通することはできずとも、半数以上は船体に直撃する。
シオンはそう確信していた。
直後、霧の晴れた雲ひとつない空を轟音と共に爆発が彩る。
……しかし、それは敵艦の手前数十メートルでのことだった。
『敵艦、損害ゼロ! 攻撃はひとつも命中していません』
『敵艦の防壁に阻まれたのですか⁉︎』
『いえ違います! 爆発地点に別の強い魔力反応!』
爆風が晴れ、そこにいたのは一機の漆黒の魔装だった。
その強い魔力反応はシオンも確かに感じ取れている。
しかし、今の今まで気がつかなかった。
大量の攻撃をひとりで薙ぎ払うなんて芸当もそう簡単にできることではない。
さらに、そんな派手な芸当をやって見せるまでシオンはもちろんこちら側の誰にもその存在を感知させなかったという点からも只者ではない。
「(そもそも、魔力の気配からしてヤバい感じしかしない……)」
魔力の気配には個性があり、魔物堕ちなどはそれこそ思わず背筋が凍るかのような本能的に恐怖を覚える気配をしている。
問題の魔装の気配は、言うなれば刃だ。
魔物堕ちたちから感じるようなわかりやすい強大さや恐ろしさはない。
しかしその気配だけで、まるで首元に鋭い刃を突きつけられているかのような感覚を覚えてしまう。
“強い”という以上に“鋭い”。そんな研ぎ澄まされた気配だ。
シオンもそれなりに様々な人外と出会ってきているが、このような気配を発する存在にはそう多くはお目にかかったことがない。
数少ない近しい気配の者たちの共通点は、その全員が優れた戦士だったということのみ。
おそらく、漆黒の魔装は敵側のエースだ。
『〈ミストルテイン〉突撃止め! あれに不用意に近づくな!』
『了解! ちょっと揺れますよ!』
アキトもまた突然現れた漆黒の魔装に警戒しているのか、すぐさま反応した。
ナツミによる急ブレーキによって再び格納庫含め船全体が大きく揺れる。
『コウヨウ君! あの魔装に何されたかとかわかる⁉︎』
『すみません! ギリギリまで感知もできていなかったので不明です。少なくとも防壁で阻まれたわけではないはずですが……』
気配を殺すだけではなく何か姿を隠す魔術を使っていたのか、あるいは単純に高速すぎるあまり見えてなかったのかは定かではないが、見えていなかったものが何をしたかなんてわかるはずもない。
しかし、ここで声をあげる人物がいた。
「……多分ですが、斬られたんだと思います」
ポツリとそうこぼしたガブリエラにシオンは思わず彼女がいる方へと顔を向ける。
『斬られた?』
「はい。ミサイルや光学兵装による攻撃など、すべてまとめて命中する前に断ち切ったんです」
『ミサイルや弾丸はともかく光まで斬るなんてそんな馬鹿な……』
「それでも、あの方ならできます」
ミスティの言う通り、普通ならそんなことできるわけないだろう。
しかし剣に魔力を纏わせていれば必ずしも不可能ではない。ただ“不可能ではない”だけであって決して容易ではないのだが。
「≪銀翼騎士団≫始まって以来数人にしか認められたことのない客将――≪剣の化身≫と呼ばれし絶世の剣士、ソード」
その名を口にしたガブリエラの声は、わずかに震えていた。
「≪銀翼騎士団≫において五本指に入る使い手です。最大限に警戒を!」




