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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
1章 魔法使いと人類軍
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1章-暴れん坊ロックンロール②-


『ひゃっほぉぉぉぉう! 十三技班のお通りだぁぁぁっ!』

『なんかテンションおかしくないか?』

『最近ストレス溜めてたんでな! 誰のせいとか言わねえけど』

『それ言ってるも同然……いや、これについて文句は言えないか』


ブリッジでのミスティの苦悩など知らず、とても戦場とは思えない気楽さで会話を交わしているシオンとギルにアキトも若干頬が引き攣る。


こんな調子ではあるのだが武装が充実している〈サーティーン〉が先行し、後ろにぴったりとついた〈アサルト〉がアンノウンたちの攻撃が来るタイミングでのみ〈サーティーン〉の前に出ては魔力防壁で防御する。

攻守をしっかりと役割分担し、さらに互いに声をかけることもなく行われる連携からはふたりの間にある信頼が如実に感じ取れる。


『とりあえず中心目指してるけどそれでいいよな?』

『いいよ。結局そこにいるスライムのオリジナルをどうにかしないと終わんないし』

「……イースタル。敵は水中にいるようだが対応できるのか?」


アキトの問いに対して、シオンの返答はない。

今までは即座に反応し余計なことまで言うのが常だったので違和感があるが、その理由にアキトはすぐに気づいた。


「人類軍の人間は信用ならない、か」


十分に信頼できるアンナや十三技班の面々はともかく、それ以外の人類軍に対してのシオンの信用は先程の爆発で地に落ちた。


否、元々信用などしていなかったのだろう。


彼は上層部と交わした契約を履行していたというだけで、それを人類軍側が破り、あまつさえ彼の命を狙った時点で人類軍に対して友好的に接する理由はない。


一度通信を遮断する前にこの一件が片付けてからまた話そうと言ってはいたので全くこちらと話をするつもりがないわけではないようだが、少なくとも今はその気はないらしい。


「シオン、結構そういうのにシビアだから」


通信であちらに届かない程度の声量で助言してくれるアンナに頷き、同じく潜めた声で「任せた」とだけ伝える。


「シオン! 水の中のアンノウンはどうするつもりなわけ?」

『いくつか手はあるのでこっちでもどうにかできますし、もう位置がわかってるならそっちで対処って手もあるんじゃないですかね』


アンナの言葉には一秒とかからず返答する。その落差がいっそ清々しいほどだ。


「ラムダ、どうだ?」

「センサーで大まかな位置はわかるが、的が大してデカくなさそうだからな。ミサイルは撃ちこめるが確実じゃねえ」

「ってわけだから、シオンのほうで頼むわね」

『戦術長殿人使い荒ーい。了解です』


文句を言いつつもすぐさま了承したシオンとギルは危なげなく基地の中央まで移動していく。


「シオン、そろそろ〈セイバー〉と位置が近くなるけどどうする?」

『……下げてもらえます?』


敵の数を思えば戦力は多いに越したことはないはずだが、シオンはあえて戦力を減らすことを所望した。

合理的ではないが、この場合は仕方がないだろう。


「〈セイバー〉、聞こえてたと思うけど下がって。〈ブラスト〉〈スナイプ〉も支援やめていいわ」

『……了解です』


若干の悔しさを感じさせる声で指示に応じたハルマの〈セイバー〉が中央付近から後方に下がる。

それと入れ替わるように〈アサルト〉と〈サーティーン〉が一気に中央に躍り出る。


『とりあえず、来い!』


力のこもったシオンの「来い」の声に反応するように、地面に転がっていた〈ライトシュナイダー〉と〈ドラゴンブレス〉が吸い込まれるように〈アサルト〉の手に収まった。


『ついでに、ドーンってね!』


そのまま即座に高出力モードの〈ドラゴンブレス〉を放つ〈アサルト〉。 

武器が宙を飛んだ時点であり得ない現象なのだが、まるで当たり前のことかのようにあっさりとやってのけられては驚く暇もない。


〈サーティーン〉も〈アサルト〉に並んで弾丸やミサイルをばらまいていくが、アンノウンたちも負けじと川から新たな個体がどんどん湧いてくる。


「(……二機では捌き切れない)」


二機ともかなりの効率でアンノウンたちを屠っているのだが、それでもアンノウンの増殖速度のほうが早い。

このままでは確実に押し負けてしまうだろう。


だが、それでシオンが終わるとはアキトも思っていない。


『……拡散術式展開』


通信でギリギリ拾える程度の声量のシオンの呟き。その瞬間〈ドラゴンブレス〉の砲口の前に魔法陣が現れる。

続いて砲口から放たれた閃光は魔法陣に触れた瞬間、無数に枝分かれしてアンノウンたちをまとめて薙ぎ払った。


『すっげー! でも前みたいに呪文みたいなのいらねえの?』

『ビームの拡散くらいならいらないよ。……それはそれとして、ちょっと〈アサルト〉の後ろに移動してくれるか?』

『? わかった?』


明らかに意図を理解できていないのが通信越しでもわかったが、それでもギルは素直にシオンの指示に従う。

その間もシオンは拡散させた光線でアンノウンを蹴散らし続けている。


『でさ、シートの後ろに変な箱ある?』

『変な箱って……この「危険触るな」「無理に外すと爆発します」って書いてる箱か?』

『そうそれ!』

「そんなもの乗せたまま〈サーティーン〉動かしてたの?」


アンナの指摘のほうがどう考えても正論なのだが、シオンとギルは「十三技班ではよくあることなんで」と疑問にも思っていないようだ。


「それで、このタイミングでその箱の話するってことは、使えるものなんでしょうね?」


アンナの問いに対して、クスリと笑う声だけが通信越しに届く。

それは答えと同じだ。


『音声認証、パスワードは"十三番目の流れ星"!』

『――認証完了。術式起動します』


シオンの言葉に応じたのは誰の声でもなく〈サーティーン〉のコクピットに流れた機械的な音声だった。


『うぉ!? おいシオン! なんか起動してるっぽいんだけど!?』

『危険はないから大丈夫。あとは自動でやってくれるから』

『それはいいけど、なんなんだこれ!?』


何やら戸惑った様子のギルだが、アキトたちからは状況がまったくわからない。

そんな中、ブリッジにいるコウヨウが驚いたように声を上げた。


「〈サーティーン〉の機体内部で高エネルギー反応! なおも上昇中!」

「ちょっとシオン! これなんなの!?」


原因など考えるまでもない。

アンナの質問に、シオンは上機嫌に答える。


『俺は、悪名高い十三技班の技師であり、魔法使いですよ? そんなの、科学と魔法を組み合わせた兵器(オモチャ)を作るしかないじゃないですか』

「ってことはこれって……」

『もしものときに使おうと思って作っておいた、対大型アンノウン用の魔法攻撃兵器。ちょうどいいので景気よくいってみましょう!』


ディスプレイに映されている〈サーティーン〉の機体表面に複雑な紋様が浮かび上がっていく。

紋様は紫色の輝きを放っており、それは時間追うごとにどんどん強さを増していく。


戦場の変化はそれだけではない。


「オリジナルと目されるアンノウンの直上にも高エネルギー反応! 反応パターンからして〈サーティーン〉から発されているものと同じもののようです」


〈サーティーン〉の輝きに呼応するように上空に浮かび上がる立体的な魔法陣と、その内部で強まっていく光。

その光を見ていると悪寒が走る。

それがとんでもなく禍々しいものなのだと、何故だかアキトには確信できた。


「上空の光の持つエネルギー総量、戦艦の主砲に匹敵します!」

「そんな⁉ 〈サーティーン〉はシオン・イースタルが搭乗しているわけではないのに!」


シオンが異能を使って作り出したものとはいえ、機動鎧に搭載できるサイズで戦艦の主砲に匹敵する火力を誇る兵器などとんでもない代物だ。


そんなアキトたちの動揺をあざ笑うように、シオンは楽しそうに告げる。


『人類軍のみなさんはよく見ておいてください。これは俺が好奇心のままに一切セーブせずに作り上げた()です』


直後一際強く輝いた光が真っ直ぐに川へと落ちる。

一瞬の静寂の後に迸った閃光は、川の水を上空に巻き上げ、アスファルトに覆われた基地の地面を砕き、アンノウンたちをことごとくかき消した。


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