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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
8章 霧の海で出会うもの
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8章-霧の中の戦い③-


距離を詰めたことでより詳しく【異界】の戦艦の魔力の気配を感知できるようになった。

詳しくわかるようになった気配をより集中して調べれば、例え撹乱の魔術の影響下でも多少はわかることが増えてくる。

それもあって周囲一帯の霧を生み出しているのが彼らではないこと、それから撹乱の魔術もまた彼らが扱っているわけではないことにシオンは確信が持てた。


「(ま、そうじゃなきゃもっと上手くこっちのこと攻撃してるだろうから今更だけど)」


おおよそ状況から判断できていたことが確信に変わっただけと言ってしまえばそれまでだが、ぼんやりしたままよりはずっとマシだ。

それにここまでわかるようになれば、別のことも見えてくる。


「一応報告です。この【異界】の戦艦。感知済みの五種類の魔術のどれにも(・・・・)噛んでない」

『……いやちょっと待て。それはさすがにおかしくないか?』

「俺も正直めちゃくちゃびっくりしてますし訳がわかんないです」


しかし探った限りそれが真実なのでどうしようもない。

とにもかくにもこの戦艦は霧を作ってないし撹乱の魔術も使ってないし、空間も歪めてないし人を呼んでも追い払ってもないのである。


『…………とりあえずわかった。それはこの戦闘の後で考える』


わずかな沈黙の後にアキトは見事に割り切った。シオンとしては賢明な判断だと思う。


ただでさえ【異界】の騎士なんて未知の敵と戦闘中なのにこんな予想外の事態についてまで頭を使っている余裕などない。

無茶な同時並行よりも、ひとつひとつ順番に片付ける方がいいだろう。


「シオン! 戦艦からまた例の小型の何かが出てきました! 狙いはこちらです!」

「わかってる! とりあえず各個迎撃ってことでいける⁉︎」

「はい! 多分!」


ガブリエラと直接会話しつつ、ドローンからの映像にわずかに映ったシルエットに向けて攻撃を仕掛ける。


ドローンから放たれた光の弾丸自体は確実に霧の先にあるシルエットの本体に命中したはず。

しかしそれが壊れた気配も墜落した気配もなく、ただシルエットはドローンの視界から消えていった。


「(防壁はしっかり張ってあるわけか)」


こちらの攻撃が当たったであろうタイミングで魔力の気配があった。

視認できてはいないが、魔力防壁で防がれたのだろう。


霧があるので視認の可否は不明だが、気配としても攻撃がヒットするまで防壁の有無がわからなかった。

撹乱の魔術の影響下でわかりにくいことを差し引いてもそもそもしっかりと気配を消す技量なり細工なりがあるのだろう。


「さすがエリート騎士団ってわけだ」

「ええ。さすがに本気のシオンであれば遅れを取ることはないでしょうけど……」

「ガブリエラは? 騎士の技量としてはどうなのさ?」


ガブリエラは≪戦少女騎士団≫の所属、相手はエリート部隊の≪銀翼騎士団≫。

人類軍で例えるなら、一般のパイロットとハルマたちエリートパイロットのような関係性になる。

双方の間にはわかりやすく実力差があるのではないだろうか?


「……これでも剣の才能は認められていましたから、遅れを取るつもりはありません」


心配されたことに少しだけ拗ねたように答えたガブリエラにシオンは小さく笑いつつ、目の前の敵に集中する。


「それじゃあ心置きなく目の前のを潰して回ろうか!」


光学兵装に対魔力防壁の魔術を施して改めてシルエットを撃ち抜く。

今度は敵の防壁を貫くことができたようで、シルエットは海へ向かって真っ逆さまに落ちていった。


少々離れた位置でも敵の魔力反応が落ちていく気配がある。


「こちらも撃墜しました。問題ありません!」

「それじゃあこのまま戦艦に突撃しよう!」

「はい!」


迫ってくる敵の小型兵器を返り討ちにしつつ、それぞれのドローンを戦艦へと向かわせる。

邪魔をされて迂回しつつとはいえ三〇〇メートル程度の距離だ。距離を詰めるのに二分とかからない。


「(それでもほぼシルエットしか見えないってのがやりにくい……!)」


距離にして十メートルほどまで近づいているが、霧越しのシルエットしか見えない。

かといってこれ以上接近するのはいくらなんでもリスクが大きすぎる。

気配はやはり感じられないが、戦艦を防壁で守っていないはずはないだろう。下手をすればその魔力防壁に正面衝突してしまいかねない。


そんな心配もあってドローンに一定の距離を保たせていると、戦艦の魔力の気配がわずかに大きくなっていく。先程と同じ戦艦からの攻撃の兆候だ。

このタイミングでこういった動きがあるとなると、狙いは〈ミストルテイン〉ではないだろう。


その予想に応えるかのように、シルエットから大量の魔力の弾丸がこちらに向かって放たれた。

さながら光の雨、を通り越して光の嵐のような攻撃の隙間を縫うようにドローンを飛ばす。


「冷静に考えると墜とされても死なないどころか怪我もしないんだけど、普通に怖いなコレ!」

「そうでした! これドローンですもんね!」

「バカ野郎! ドローンだってタダじゃねえんだから絶対に壊すんじゃねえぞ!」

「親方いたんですか⁉︎」

「んなことより墜とされねえように集中しやがれ!」


怒鳴るように促されてしっかりと意識を集中して戦艦からの攻撃をかわし続ける。

ここまで攻撃が激しいとフレンドリーファイアしかねないからか小型兵器は襲ってこないが、それでも回避を続けるのに手一杯でこちらから何か仕掛けてる余裕はない。


「あーもう! ガブリエラ、少し下がろう!」


戦艦近くにいてもただ撃墜されるリスクが高いだけでメリットがない。

そう判断するや否やドローンを戦艦から離れさせる。


ある程度離れれば戦艦からの攻撃はあっさりと止んだ。

ただでさえ視界の悪い霧の中なのだ。離れていったせいでシルエットすら見えなくなったであろう全長二メートルにも満たないドローンを狙うのはどう考えても無駄な労力だろう。


時折小型兵器が襲いかかってくるが、こちらも戦艦から攻撃が止んだおかげでひと息つけた。


「ブリッジ、そっちの戦況はどうです?」

『問題はないわね。機動鎧部隊があっさり小型兵器をやっつけてるわ。ただ……』

「ただ?」

『多分だけど、小型兵器は無人機よ』


ドローンからの映像だけの視界の端に、〈ミストルテイン〉から送られてきたであろうデータが小さく表示される。

どうやら小型兵器のデータのようだ。


『全長二メートル程度。鳥をモデルにしてるっぽいけど、結構細身でね』

「どう見てもパイロットが乗り込める外見じゃないですね……」


全長二メートルとはいえ、横幅は一メートルもないし、パイロットが乗り込めそうな鳥でいうところの胴体の部分は縦幅も一メートルと少しくらいしかない。

乗り込めたとしても人間であれば小学生くらいの子供が限界だろう。


『ガブリエラちゃんはどう? 見覚えとかある?』

「いえ、初めて見ます……」

「わりと最近出てきた新兵器ってことか」

『まあそれはいいんだけど、問題なのは無人機相手だとあんまり相手に打撃与えられてないってことなのよね』


無人機である以上、いくら落としても相手の頭数を減らせているわけではない。

もちろん無人機本体だって無限ではないだろうが、所詮はものでしかないので被害としては大きくはないだろう。


戦力として大したことはないとはいえ、相手にする以上はこちらのパイロットは疲れる。

どれだけの数を確保しているかは不明だが、あちらが数を持っていればいるほどこちらは疲弊させられてしまいかねないわけだ。


『というか、やり方がねちっこいのよ! どう考えてもこっちを疲れさせる戦法じゃない!』


霧の中に潜みつつ、ダメージの少ない無人機のみを延々とけしかけ続ける。

確かに相手を疲れさせてやろうという魂胆がわかりやすいいやらしい戦略である。


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