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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
8章 霧の海で出会うもの
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8章-霧の中の戦い②-


急降下させたドローンのすぐ上を、純粋な光学兵器として大火力に加えて〈光翼の宝珠〉の魔力を帯びた〈ラグナロク〉の閃光が駆け抜けていく。


シオン自身はあくまで〈ミストルテイン〉の艦内にいるわけだが、ドローンを通じて間近に感じるその力強い気配に思わず体が震えた。


『シオン! 今の、あっちに当たった⁉︎』

「えっと、戦艦は健在みたいです」


大雑把な照準ではありつつも確かに戦艦の気配がある方角に閃光は駆け抜けていったはずだったのだが、さすがに命中とはいかなかったらしい。

ただ、ドローンに襲いかかってきていた人型兵器ではない何かはいくつか薙ぎ払うことはできたようだ。


「(そのついでに霧も多少は吹き飛ばしてくれればよかったんだけど)」


〈ラグナロク〉の閃光の正体は熱線であり、霧は魔力で維持されているという特殊さはあるがあくまで水粒だ。

普通に考えるなら、霧を熱線が貫けば一瞬にして蒸発させられてかき消えてしまいそうなものなのだが、この霧はそんな常識お構いなしということらしい。


「! みなさん、戦艦に動きがあります!」


ガブリエラの警告の直後、シオンもまた戦艦から魔力の気配を感じ取る。

先程のように人員が動いている風ではなく、シンプルに魔力が高まっているようだ。


「ってことは戦艦からの攻撃か! アキトさん、警戒!」

『わかってる! ナツミ、回避だ!』


戦艦の姿は相変わらず視認できないが、先程〈ラグナロク〉の閃光が通過したのと同じルートを逆走するように無数の魔力が霧の中を駆け抜けるのがわかった。

遅れて〈ミストルテイン〉全体が大きく揺れる。


「ブリッジ! 大丈夫ですか⁉︎」

『大丈夫! ナツミちゃんがほとんど回避してくれたし、当たった分も防壁でガードできたみたい!』

『そもそも狙いも甘い。あちらもこちらの位置は大まかにしかわかっていないんだろうな』


アンナとアキトからすぐに答えが返ってきている以上本当に問題はないのだろう。


しかしどうにもやりにくい戦いだ。

あちらの攻撃の照準が甘いのは〈ミストルテイン〉にとってメリットだが、こちらもうまく狙えないのだからプラスマイナスはゼロといったところだろう。

少なくとも現状のままでは戦艦同士の撃ち合いは無駄に消耗するだけにしかならない。


「となると、あっちが次にどうするかなんてまあ限られてくるよね……!」


戦艦からの攻撃では決定打にならない。

ならばあちらが取れる戦略は、戦艦の攻撃を当てやすくするために戦艦を動かすか、戦艦は霧に隠れたまま別の戦力で〈ミストルテイン〉を叩くかといったところだろう。


シオンなら後者を選ぶ。そしてそれは【異界】の戦艦も同じだったらしい。


「アキトさん! 生き残ってた小型の謎兵器がそっち向かいました!」


戦艦はあくまで動かず、小型兵器で仕掛けることにしたらしい。

自ら動けば攻撃を仕掛けしやすくなる一方で〈ミストルテイン〉から反撃されるリスクも高まるのだから、当然と言えば当然の判断だ。


「援護します⁉︎」

『大丈夫だ。機動鎧部隊を出す』

「そういうことだ。こっちは任せろ」


制御用ヘルメットのせいでドローンからの映像しか見えていないシオンの肩をハルマが叩く。

それから格納庫の中は機動鎧の出撃のために慌ただしくなり始めた。


「とりあえず、シオンとガブリエラの嬢ちゃんは端に移動だ! ロビン、ギル、運べ」

「「了解!」」

「え? きゃっ!」


わずかな衣擦れの音と共にガブリエラが小さく悲鳴を上げた。


「ごめんなガブリエラ、でもここに座ってたら仕事の邪魔になっちまうから……」

「ギル⁉︎ そ、そうですね。わかってます、大丈夫です」


どうやらガブリエラのことはギルが運んでいるらしい。少しずつふたりの声が遠ざかっていく。


「あれ? ロビン先輩ここぞとばかりに美少女抱っこしなくてよかったんですか?」

「テメェは俺をなんだと思ってやがる?」

「女たらしクソ野郎」

「即答すんじゃねえ!」


そうしてロビンもまたシオンのことをおもむろに抱き上げた。

手つきがそこそこ荒っぽい割にちゃんと安定感はある抱え方をするあたりにロビンの性格が見える気がする。


「実際どうしたんですか?」

「……なんかギルの野郎がすげえ速さでガブリエラのこと抱き上げてたんだよ」

「ほー……」


ロビンからガブリエラを守ろうとしたというのはなんとなく察せられた。


「(でもまあ、ちょっと意外かも)」


なんだかんだギルはロビンを兄貴分と見なして懐いている。

そんな先輩の前で奪い取るようにガブリエラを抱き上げたというのは少し意外ではある。


そうこうしている間に案外快適に運搬されたシオンは格納庫の端であろう場所で下ろされた。ご丁寧にベンチも用意してある。


「で、ドローンの俺たちは何をすれば?」

『まだ戦艦の位置はわかるな? ならそのまま見失わないようにしつつ、動きがあれば都度報告してくれ』


三〇〇メートル程度しか探知できない霧の中で【異界】の戦艦を見失うと、再発見に苦労しかねないし、戦艦の攻撃の兆候などもわからなくなってしまう。

だからシオンたちにはなんとしても戦艦を捕捉し続けてもらわなければならないというのがアキトの判断らしい。


「とりあえず了解!」

「同じくです!」


アキトに了承の意を示し、シオンとガブリエラは海上スレスレまで高度を下げていたドローンを一気に戦艦の気配のある方向へと加速させた。


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