8章-日差し注ぐ砂浜にて①-
晴天の空から降り注ぐ日差し。その眩しさにシオンは目を細める。
広がる白い砂浜。押し寄せる透き通った波。
開放的な服装で砂浜を歩く人々は皆一様に表情が明るい。
そんな楽園のような砂浜を前に、水着にサングラスという遊ぶ気のあふれるスタイルのリンリーが腕を組んで仁王立ちする。
「さあ! 楽しみましょう!」
リンリーが高らかに宣言するとともに歓声を上げた十三技班のメンバーが駆け出していく。
「結局、なんやかんや十三技班の半分くらいいるし」
「アタシたち、基本的には屋内にこもりっきりっすからね。みんなたまにはこういうところではっちゃけたいんすよ」
「とかなんとか引きこもり筆頭みたいなインドア女子がのたまってやがるぜ」
「ちょっとロビンさん、なんか文句あるんすか」
「文句はねえよー。珍しいと思っただけだ」
日差し対策につばの大きな帽子を被ったカナエとアロハシャツという浮かれ気分満載なスタイルのロビンがいつものようにわちゃわちゃしだすのを横目にシオンは改めて砂浜の方へと視線を向けた。
「シルバ様、すごいですね! わたくし砂浜に来たのは初めてですわ!」
「わかったからはしゃぐな! つーかあんまりベタベタすんじゃねえ!」
人生初の砂浜にテンションの高いマリエッタはシルバの腕に抱きつくようにグイグイと彼のことを引っ張っている。
それ自体は〈ミストルテイン〉の艦内でもわりとよく見かける光景なのだが、いつもそれに対して平然としているはずのシルバが今日に限っては少し慌てているようにも見える。
「ふむ……みなさまの見立て通り、水着でのスキンシップにはシルバ様に意識していただくのに一定の効果があるようですね」
「オイコラァッ! マリーに余計な知恵与えたのは誰だ⁉︎」
「その辺りは黙秘する約束ですのでお答えできませんわ。……ふふ、少し大人っぽくて露出の多い水着を選んだのは正解だったようですわね!」
「バカか⁉︎ 年頃の女が軽率に肌見せるもんじゃねえ!」
騒ぎつつもマリエッタを振り払うことはできないらしいシルバがぐいぐいと引っ張られていくのを遠くから見守っていると、シオンの中から込み上げてくる言葉がある。
「「「青春してんなぁ……」」」
思わず出てきた言葉はカナエとロビンと見事に被った。
「つーかシルバのやつ、本当に今時の男子か?」
「照れてるのは年相応かもっすけど、発言が完全にひと昔前のノリっすけど」
「ああ見えて硬派なんですよ。……ところでマリーに入れ知恵したのってカナエ先輩ですか?」
「当然のようにアタシを疑うのよくないと思うっすよ? まあやってないわけでもないんすけどね」
「正解なんじゃねえか」
「厳密にはアタシとリンリーちゃんとアンちゃんの三人合同っすよ」
「なおタチが悪い」
「恋と戦争にはどんな手段を用いてもいいもんなんすよー。色仕掛けも然り!」とキメ顔で言ってのけるカナエにシオンは心の中でだけシルバに合掌した。
シルバにそのつもりはないとはいえ、十三技班の女性陣がマリエッタについた以上は今回に限らず彼女からのアプローチはエスカレートしていくに違いない。
シオンにはどうにもしてやれないし、正直巻き込まれたくないので関わりたくない。よってシルバには自分で対処してもらうこととしよう。
「さて……そろそろ俺は俺で楽しむとするか」
「ナンパっすか」
「ナンパでしょうね」
「うるせえ、ナンパの何が悪いってんだ」
「悪くはないっすよ、悪くは。ただやっぱり女たらしクソ野郎だなーって」
「悪くないって言ってるわりにすげえ悪意ある含みを感じたぞ」
「気のせいじゃないっすかねー。……じゃあアタシも失礼」
フンとひとつ鼻息を荒くしてカナエはパラソルの方へと歩いていってしまった。
シオンでもわかる程度にはあからさまに機嫌を悪くしたようである。
「なんだよアイツ……」
「シンプルにロビン先輩に呆れただけでは? ちなみに俺も嬉々としてナンパしようとするってのは少しどうかと思ってます」
「カナエといいお前といい可愛くねえ後輩だなぁオイ!」
そう言ってロビンがぐりぐりとシオンの頭を乱暴に撫で回す。
撫でるというには強めの力加減にシオンの首がガクガクするが、ある程度撫で終えたロビンがふっと真剣な表情でシオンを見下ろした。
「先輩?」
「お前、ちゃんとリフレッシュしろよ?」
普段のようなふざけた雰囲気のない言葉にシオンはわずかに目を見開く。
「なんでそんなことを……?」
「そりゃお前。せっかくの休暇なのにお前あんまりテンション上がってねえだろ」
ロビンはポンポンと軽く叩くようにシオンの頭を撫でてからこちらに背を向ける。
「お前隠し事上手いけどな。あんまり年上を舐めんじゃねえよ」
それだけ言い残してひらひらと手を振りながら去っていくロビンにシオンはただ呆然としてしまった。
どうやら、シオンが何か問題を抱えているということは少なくともロビンにはバレてしまっているらしい。
あの言い回しでは他にも勘づいている人間はいるのだろう。
「……普段からああいうとこちゃんと見せたら、ナンパなんてする必要もないだろうに」
頼れる兄貴分らしい大きな背中を見つめつつ、シオンはそんな風に感想をこぼすのだった。




