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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
8章 霧の海で出会うもの
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8章-無言-


私室からすぐそこのアキトの私室まで捕まえられたネコのように運ばれたシオンは、ぽーんと軽くベッドの上に投げ飛ばされた。

質のいいベッドで軽く弾んでからアキトの様子をそっと見上げる。


「…………」


私室の前での遭遇からここに至るまで、アキトは一度もシオンに声をかけていない。

ギルたちには普通に声をかけていたあたり、意図してシオンに対して無言を貫いているのは明らかだ。


無言ゆえにその感情を言葉から測ることはできない。しかし怒っていることだけは間違いないだろう。


「(……どうしようかこれ)」


重要な情報を自分に都合のいいように操作しアキトたちを騙した。


アキトの怒りを買って当然の行動をした自覚はあるが、こう言ってはなんだがこのような流れはこれまで何度も経験してきている。

それもあってファフニールの封印に関してウソをついた時点で封印が成功した後にはこうしてお説教が行われることも当然予想できていた。

それも全部承知の上でシオンは今回の行動に出たわけだが……この状況は想定外だった。


正直、シオンは封印をした後のことは深刻に考えていなかったのだ。


アキトの説教は確定として、他にも数名から説教および鉄拳制裁を受けるだろうなと予想はしていた。

しかしあくまでそれだけだ。

神話の時代のドラゴンを体の中に受け入れることと比べれば別に大したことでもない。

アキトの説教はそれなりに大変ではあるだろうが、これまでも大した問題にはならずに済んできているしまあなんとかなるだろう。くらいの感覚でいた。


が、蓋を開けてみればこれである。


こうして無言で圧力をかけられ続けているというのは初めてのパターンでシンプルに戸惑ってしまうし、これまでとは違うのだと見せつけられているかのようである。

アキトの意図もわからないのでどう動いていいのかがわからない。


とはいえ、何もしないわけにもいかない。

何かしら行動を起こさなければこの居心地の悪い状況が延々と続くだけだ。


もちろんアキトの根負けを待つという手もなくはないのだが、単純に根比べでシオンがアキトに勝てる気がしない。

この男、下手をすればこのまま数時間くらい余裕で無言で見下ろしてきそうだ。


「えっとですね。とりあえずすみませんでした」


ベッドの上に座っていたシオンはそのまま流れるような動きで土下座を披露した。

こういう時はさっさと非を認めて謝ってしまうのが一番であるという考えからの選択である。


「…………」

「…………」


シオンの土下座を前にアキトは微動だにしない。

すでにこの時点で心が折れそうである。


「あのですね。もちろん艦長とか皆さんは怒るだろうなって思ってはいたんですけど、他に選択肢なかったっていうか……」

「…………」

「ちゃんと勝算はあったんですよ? なんなら今までのやらかしと比べればローリスクなくらいですし」

「…………」

「ただ、そのまま“俺の体の中に封じるんですよー”とか説明しちゃうと危なく聞こえて絶対反対されるじゃないですか。だからちょっとだけウソをつかせていただいたというか」

「…………」

「ま、なんやかんや上手くいったしよかったじゃないですかー……なんつって」

「…………」


自分の主張をしてみても、なんならあえて怒らせるようなことを言ってみても、アキトは口を開く様子がない。

ただシオンの言葉を聞いてないわけではないらしく、最後のセリフの直後視線が二割ほど冷たくなった。


正直本格的に打つ手なしの気配がしてきているが、無視されているわけではないとわかっただけマシと自分に言い聞かせておく。

そうでもしないとやってられない。


「…………」

「(これもういっそ逃げてやろうか)」


無言のままベッドから降りてドアを目指してみる。

一瞬で距離を詰められて再び首根っこを掴まれてベッドに戻された。

まあここまでは想定内である。


「……失礼します」


空間転移の魔術を使って展望室に瞬時に移動する。


「よし、一旦ここで対策を……」


最終的に説教を免れることは不可能だが、ひとまず体勢を立て直すくらいはできるはず。

そう油断したシオンの首根っこが力強く掴まれ、体が持ち上げられる。


「…………」

「えぇ〜……」


振り向いて自分を捕まえるアキトを確認したシオンの口からはなんとも情けない声が漏れた。

普通に考えればアキトの自室にいるはずの彼がものの数秒でここに来られるはずなどないので、当然の反応である。


そんな驚きも落ち着かない内に視界が一瞬白く染まったかと思えば、周囲の景色は展望室ではなくアキトの自室に戻っている。

状況的にアキトが空間転移をやってのけたのは疑いようもない。


「(〈光翼の宝珠〉め……)」


空間転移などシオンはもちろん教えていない。

となれば〈光翼の宝珠〉から知識を与えられたと考える他はないだろう。


こうして再びシオンはベッドに放られた。

いっそ逃げたことを怒ってくれれば、くらいに思っていたのにそれもない。


逃走という戦法すら封じられたシオンは変わらず無言でこちらを見下ろすアキトの前でなす術もない。




――そして、そのまま二時間が経過した。


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