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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
7章 “天”の真髄
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7章-戦いの後②-


格納庫の硬い床に受け身を取ることもできずに倒れ伏したシオンを前に、格納庫の誰もが動きを止めた。


「シオン⁉︎」


一瞬の静寂のあと野次馬から飛び出してきたギルが一番にシオンに駆け寄り、それに続いてガブリエラとシルバもシオンのそばに座り込んだ。


「っ! 急いで医務室に!」


ギルたちの様子を前に停止していたハルマの思考も動き出す。

すぐに周囲に声をかけつつハルマもまたギルたちと同じようにシオンへと駆け寄ろうと一歩踏み出したのだが――、


「ハルマの坊主。お前さんはダメだ」


そんなハルマを阻むように朱月が立ち塞がった。


「ダメって」

「ダメなもんはダメなんだよ。アキトの坊主もやめておけ」


朱月は同じくシオンへと歩み寄ろうとしていたアキトのことも阻んだ。

何故という疑問はもちろんあるが、真剣な様子で言われてしまって無視もできない。

それに――、


「自分が触った(・・・)のが原因だって気づいてんだろ?」


朱月の言う通り、その可能性にハルマは気づいている。

倒れる直前のシオンの動き――ハルマの腕を突然振り払ったことは完全に不自然だった。

そんな不自然な動きの直後に顔色を悪くして倒れたのだから関係ないと言うほうが無理がある。


「一応教えておいてやるが、別にハルマの坊主に非はねえ。あえて言うならシオ坊の自業自得でしかないからな」

「それはどういうことなんだ?」

「あとで説明はしてやる」


アキトの問いに背を向けた朱月はシオンの様子を軽く確認すると、シオンのそばに控える三人に目を向けた。


「ギル坊とシルバとかいう犬っころ。お前さんたちはシオ坊を担いで運べ。場所はシオ坊の部屋がいい。ガブリエラの嬢ちゃんは付き添うのは構わねえが……」

「わかってます。私はシオンに触りません」

「話が早えな。ことが済んだらふたりを診てやってくれ」


テキパキと指示を出す朱月とハルマとアキトは見守ることしかできない。

そうしてギルに背負われたシオンがガブリエラたちを連れて移動していくのを見ていると、朱月は改めてこちらに向き直った。


「お前さんたちも付いてくるのは構わねえ。ただ、アイツに触れるな。いいな?」

「……わかった」


アキトが朱月の言葉に応じるのに合わせハルマも頷いてみせる。

それからこちらに背を向けて歩き出した朱月に続いて先を行くギルたちを追う。


「少しでもいい。何が起きたのか聞かせてくれないか?」

「アキトの坊主はせっかちだなぁ。まあいい」


あくまでこちらに振り返ることはせずに朱月は続ける。


「シオ坊は、簡単に言えばハルマの坊主の纏ってた神気にあてられたんだ」

「待ってくれ、今までそんなことなかったぞ?」


ハルマが神気を纏っていたとなると、〈アメノムラクモ〉との契約が切っ掛けになっているのは間違いないだろう。

しかし契約してから今日まで、シオンに触れてあのような事態になったことなど一度だってなかったのだ。


「そこは全体的に運が悪かったとしか言いようがねえな」

「運が悪くてそんなことになるのか?」

「まずひとつめの原因。ハルマの坊主はついさっき〈アメノムラクモ〉の力を盛大に使ったばかりだ。普段なら神気なんてちょびっと纏ってる程度なんだが、今はそのときの名残でだいぶ神気が濃い」


ハルマにその感覚はないが、おそらく朱月が言っていることは事実なのだろうとひとまず納得はした。


「でもって原因がもうひとつ。シオ坊は今、神気との相性が死ぬほど悪い。それこそ今のアイツにとっちゃ猛毒みてえなもんだ」

「猛毒……」


つまり、シオンはただでさえ弱っているところに猛毒を受けてしまって倒れたということになるのだろうか。

ただ、まだまだわからないことが多過ぎる。


「なんで今のシオンは神気と相性が悪い? 今ってことは普段は違うんだろ?」


そもそもシオンは“神子”なのだ。自分自身が神気を持っている存在が一時的とはいえ神気との相性が悪いというのは意味がわからない。


「そこらへん、アキトの坊主は心当たりあんだろ?」

「…………」


朱月はハルマの質問には答えずにアキトに言葉をかけた。それを受けたアキトは実際何か思い当たることがあるようだ。


「……“天つ喰らい”、なんだな?」

「そうだ。やっぱりわかってたな」

「それって確か、シオンの≪天の神子≫としての能力だったよな」


直接聞いたわけではないが、情報としてはハルマたちにも共有されている。

ただ、どうしてそれが今のタイミングで出てくるのだろう。


「魔物堕ちの封印では器に対象を封じ込めるという話だったが、ファフニールのあの巨体をそのままの状態で物理的に封じ込めることなどできるはずがない。……おそらく対象を魔力などの実体のないものに変換してから器に封じ込めるということなんだろう。そして“天つ喰らい”は魔力を自らの内に取り込むものだと聞いている」


対象を魔力などに変換して器に封じ込める封印術と、あらゆる魔力を自らの内に取り込む特別な力。

そのふたつの情報が揃えば、ハルマにも思い当たることはある。

同時に、シオンが封印の際に唱えていた一節のことも思い出した。


――悪しきものよ 我が身の内に消えよ


「ファフニールは、シオンの()に封印されたのか⁉︎」

「そういうこった」

「そんなめちゃくちゃな!」

「そうでもねえさ。あらゆる魔力を受け入れる最上の肉体なんて、どんなお宝よりも上等な封印の器だからなぁ」


どんな相手でも封印できる強力な器があると、確かにシオンは口にしていた。

それがシオン自身の肉体であることなど誰にも告げなかったのは、間違いなく確信犯だろう。


「とまあここまでで大体わかっただろうが、シオ坊は神話の時代のバケモノを自分の中に封じ込めたばっかりなんでな。その影響で今のアイツは限りなく魔物に近い(・・・・・)


それが、今のシオンが神気との相性が最悪である理由であり、ハルマの神気にあてられて倒れてしまった原因というわけだ。


「……イースタルは大丈夫なのか?」

「大丈夫だろ。時間さえありゃ落ち着くだろうよ」


朱月の言葉にひとまずハルマたちは胸を撫で下ろす。

命に別状がないというだけで今は十分だ。




そうして安堵していたからこそ、ハルマは朱月の呟きを聞き逃してしまった。


「……まあ、落ち着いたところでアレはもう人間じゃねえだろうがよ」


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