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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
7章 “天”の真髄
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7章-乱入者①-


瞬く間に広がった真っ黒な闇はファフニールの巨体すらも容易く飲み込んでしまう。

突然すぎる事態にハルマたちはそれを見ていることしかできなかったが、非常に不味い状況だ。


あの闇がアマゾンでの戦いのときに出現したのと同じ高濃度の穢れなのだとすればアンノウンであるファフニールに力を与えてしまう。

このままあの闇を放置していてはここまで弱らせたハルマたちの努力が無駄になるだけではなく、最悪さらにパワーアップされてしまう可能性すらある。


現時点でそんなことになれば、本格的に作戦は失敗ということになってしまう。


『ラムダ! 〈ラグナロク〉だ! あの闇を撃て!』

『でも効くのか⁉︎』

『何もしないよりはマシだろう!』

『そりゃそうか! 了解だ!』


誰もが呆然とする中、一番に動き出したアキトが鋭く指示を飛ばす。

すぐさま〈ミストルテイン〉の艦首が巨大な闇へと向かい、〈ラグナロク〉が砲門に光を集め始めた。


『撃ち抜け!!』


号令から一拍置いて解き放たれた閃光が空を裂く。

ほどなくしてラムダの的確な狙いによって闇のど真ん中を閃光が貫いた。


『〈ラグナロク〉直撃! 今の一撃で闇の五割程度が消滅しました!』

『そんなに消滅させられたのか⁉︎』


コウヨウの報告に〈ラグナロク〉の使用を命じたアキトまでも驚いている。

〈ラグナロク〉の一撃のみでそこまで闇をかき消せるとはアキトも思ってはいなかったのだろう。


『……そっか、〈ミストルテイン〉の光学兵装は〈光翼の宝珠〉の魔力から生成されたエネルギーを使ってますから。多分神気の性質は残してるのかも……?』

『いや待て。ECドライブで生成された時点で魔力から電力に変換されているはずだろ?』

『通常の魔力はともかく神気を科学技術で電力に変換とかさすがに無理な感じですし、神気は変換できなくてそのまま変換された電気に宿ってるんじゃないかと。……まあ細かいことは置いておくにしろ、艦長の判断は大正解だったってことです!』


全体的に仮説でしかないが、事実として〈ラグナロク〉は闇を半分ほど消し去ることに成功した。今はそれができたというだけで十分だ。


『どちらにしろ状況は悪いわ。しばらく〈ラグナロク〉は撃てないし……』

『残り半分とはいえ、あれを全部取り込まれたらファフニールはほぼ全快しちゃいますからね』


よりパワーアップするという最悪の展開こそ防げたが、状況が好転したわけではない。依然として危険な状況に違いはない。


「……なら、闇を全部取り込まれる前に!」


神気という点で言えば〈アメノムラクモ〉も有している。

〈ミストルテイン〉ほどの威力で扱えるわけではないとしても、多少闇を散らすことはできるはずだ。


「(防壁で守りながらなら闇に突っ込むこともできる! 突撃して内部から神気を纏わせた剣で斬れ払えば……!)」


〈ラグナロク〉ほどの威力はないにしろ、少しはファフニールの回復を阻むことはできるはずだ。


〈アメノムラクモ〉を構え、〈セイバー〉を急降下させて闇を目指す。

しかし間も無く闇に突撃できるというところで闇の内側から放たれた魔力の弾丸によって道を阻まれた。


『ハルマ君⁉︎』

「大丈夫です戦術長! 防壁でガードしました」


闇への突撃を想定して展開していた魔力防壁のおかげで機体へのダメージはない。

しかし、完全に突撃の出鼻を挫かれてしまった。


しかもそれだけではない。闇の内側から無秩序に魔力の弾丸が周囲にばら撒かれ始めたのだ。


『これじゃあ近づけない!』

『おそらくそれがあちらの狙いです!』

『クソ! デカい図体でみみっちいことしやがる!』


闇を取り込んで回復する間、こちらの邪魔が入らないようにするつもりらしい。

無秩序に魔力弾を乱れ撃つのにも魔力は使うだろうが決して大量の魔力を使うわけではない。最終的に回復する量のほうがそれを上回るのだろう。


魔力弾は狙いこそ甘いが、黒い闇の内側から放たれるとなると攻撃を見切るのが難しい。

しかもそれを避け切って闇の中に突撃できたとして、視界がゼロの闇の中で大量の魔力弾に晒されてしまえば、強力な魔力防壁を展開していたとしても防ぎ切れるかわからない。


「(この距離から神気の斬撃を飛ばす? いやその程度じゃ魔力防壁で防がれるだけだ。闇の中には入らずギリギリまで距離を詰める? ダメだ。そんなのほぼゼロ距離で魔力弾を撃ち込まれるに決まってる)」


必死に考えを巡らせながらも、ばら撒かれる魔力の弾丸に対し〈セイバー〉はもちろん〈ワルキューレ〉と〈クリストロン〉も回避に徹するしかない。

そもそも残る二機は接近したところで闇を消し去ることは難しいだろう。


『――もう限界でしょう』


現在の戦況とは真逆に、シオンはとても静かにそう告げた。


『〈アサルト〉、出ます』

『待てイースタル。今出撃して封印なんてできるのか?』

『さあ? 俺はとにかくする(・・)だけですから』


アキトの問いかけに対するシオンの答えはどこか投げやりなものだった。


『このままじゃ成功率は下がり続けるだけです。多少封印用の魔力を割くことになろうが俺が暴れて弱らせるほうがいい』

『だが、』

『残念ですが、答えは聞いてないんです』


アキトの言葉などお構いなしに画面越しのシオンが〈アサルト〉を出撃させる準備をし始めるが、アキトはもちろんハルマにもそれを止める術がないし、何より止めたところで作戦が失敗するだけだ。


「結局こうなるのかよ……」


結局、今までと何も変わらずシオンに頼ることになってしまった。

想定外の事態が起きてしまったのは事実だが、そんなもの言い訳でしかない。


情けないことに、ハルマたちはまたシオンに守られることしかできない。


『……ったく、仕方ねえなぁ』

「……は?」


頭に響いた第三者の呟きに間の抜けた声が漏れた。

その直後、まさに今出撃しようとしている〈アサルト〉との通信画面が不自然に乱れる。


『――ちょっ、お――何を――⁉︎』

『え? シオン、何かあったの⁉︎』


映像が途切れてシオンの声だけが途切れ途切れに聞こえてくるだけというのは明らかに様子がおかしい。

アンナがすぐさま安否を問うがそれに対する返答はないまま、〈ミストルテイン〉から〈アサルト〉だけが飛び出してきた。


勢いをつけて飛び出してきた〈アサルト〉はブースターから力強く火を噴いてさらに加速してあっという間にハルマたちのそばを通り過ぎて闇に向かって突撃していく。


しかしその飛び方を見てハルマは違和感を覚える。


「(アイツ、あんな滅茶苦茶な飛び方してたか?)」


直線的に飛ぶのではなく、激しく無秩序にまるで暴れ回るかのような軌道で飛び回る〈アサルト〉だが、そんな動きの印象とは裏腹に闇の中から襲いくる魔力の弾丸を紙一重で避けている。


「(いや、シオンなら防壁を盾に突撃するはずだ)」


明らかに〈アサルト〉の動きがいつもと違う。

そんな違和感のある〈アサルト〉は闇に近づくとその右手に〈月薙〉を構え、その刀身を激しく燃え上がらせた。


『――燃えろや燃えろ! 鬼の焔が万象まとめて灰燼に帰す!』


高らかに叫びながら闇の中へと〈アサルト〉が消える。

その直後、闇が内側から迸った爆炎によって一気に霧散した。


〈アサルト〉が闇へと消える直前に通信越しに響いた声はシオンのものではない。

もっと男らしく荒々しいそれが誰のものか、ハルマは知っている。


「朱、月……?」

『ああそうとも。この朱月様が助太刀してやんよ』


爆発の余波で立ち込める黒煙を背に〈アサルト〉が担ぐようにした〈月薙〉で肩を軽く叩いてみせる。


それはシオンが決してすることのない――とても朱月らしい仕草だった。


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