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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
7章 “天”の真髄
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7章-ルリアからの連絡-


ルリアとの取引から三日。ここまでにはいくつもの動きがあった。


まず、北欧に対しては無事に人類軍と北欧の国々の連名で避難指示が出された。


始まったばかりということで避難が完了するまでにはまだ時間を要するだろうが、自主避難任せの頃のようなパニックはその発表により着実に収まりつつある。

シオンとしてはもう少し時間がかかるかと思っていたのだが、上層部の動きは迅速だった。嬉しい誤算と言っていいだろう。


次にシオンが夢で確認した≪月の神子≫たるコヨミの体調不良についてもコウヨウを介して玉藻前まで連絡してある。


シオンが目にした光景がいつ頃のことなのかわからない以上、やはり現在のコヨミの状態まではわからないが、それでも何もわからない状態だった今までよりはマシだと玉藻前は言っていた。


コヨミとシオンは特別親しいというわけではないが、同じ神子同士思うところもあるし、何より彼女はアキトたちの母親だ。

コヨミの願いはあくまで“あの子”を助けることであるのは承知の上だが、彼女自身のためにできることはしたいとシオンが考えている。


ただ、それは玉藻前からストップをかけられた。


というのも、コウヨウ経由でシオンたちの状況を把握していた玉藻前から「今は目の前の魔物堕ちのことを考えなさい」というド正論を突きつけられてしまったのだ。

それにはシオンも反論のしようがなく、ひとまずこの件については彼女に任せ、何か新しい情報をシオンが掴めば連絡をするということで話はまとまった。


そんないくつかの出来事を経て現在。

シオンはマジフォンに耳を当てながら、格納庫の片隅に積み上げられた大量の荷物に向き合っている。


「三日でここまで集めるとはさすがだな……」

『ま、手数料としてあれだけ受け取ってるんだもん。このくらいは当然よ』


たった今魔術によって転送されてきたばかりの対神武装の数々。

まだ全部を確認したわけではないが、シオンの要望通り機動鎧でも扱えるものを揃えてくれているだけではなく、〈ミストルテイン〉でも扱えるようなものまで用意されている。


「機動鎧向けってだけでも結構貴重だったろうし、そもそも戦艦向けなんて存在したんだな……」


前提として、単純なアンノウンの向けの武装と神格を有するような強力なアンノウン向けの対神武装とを比較すれば、当然後者のほうが高価かつ数も少ない。

そこに人間が操縦する機動鎧でも使えるようにした物という条件まで加えれば、さらに希少な物になる。


そんな代物をこうして山積みにできるほど集めたことはもちろん、シオンが存在すら知らなかった戦艦で扱える対神武装なんてものまで確保したルリアは間違いなく優秀だろう。


『それについては運とタイミングがよかった感じかな』

「どういうこと?」

『……あんまり大々的にはしてないんだけど、実は去年くらいから≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫と錬金術師の人たちと合同でこういう物の生産ラインを整えてるとこなのよ』


そもそもの話をすれば、基本的に人外は機動鎧を扱わない。となればもちろん魔術を施した機動鎧向けの武装なんて物の需要も大したものではない。


アンノウンとの戦いを生業としている≪流浪の剣(ドリフテッド・ソード)≫や≪剣闘士の宴(コロッセオパーティ)≫のような集団では中型以上のアンノウンを相手にするために旧式の機動鎧やガブリエラの〈ワルキューレ〉のような魔装を扱っているという話は聞くので多少の需要はあるだろうが、決して大きなマーケットではないだろう。


そういった事情を知っていたからこそシオンは対神武装の確保は難しいと考えていたわけなのだが、どうも少しばかり事情は変わりつつあるようだ。


「……なるほど、アマゾンの一件のときに普通に大量の物資がもらえたのも」

『その頃には生産ラインはほぼできあがってたからね。在庫はたっぷりあったんだと思うよ』


そしてその生産ラインのおかげで今回も豊富に武装を確保することができた、ということらしい。


ただ、それはそれでやや気になる話ではある。


人外界隈において機動鎧などを使っているのはあくまで少数派であるのは間違いない。

どうして≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫と錬金術師たちがそんな規模の小さなマーケットに向けた商品の生産に力を入れ始めたのだろうか?


「(本格的に人間向けの商売でも始める気なのか……? まあ、今は気にしてる場合じゃないけどさ)」


とにかく今は結構な量の武装が無事に手に入った事実を喜ぶべきだろう。


『そっちの件は置いといて、もう一個の依頼のほうなんだけど……』

「器のほうか。……どう?」

『残念だけどまだ糸口すら掴めてないわ』


ルリアの報告に対してシオンは特に驚きはしなかった。

というか、そんなにあっさりと手がかりが見つかるならわざわざルリアに依頼などしていない。


『お祖母様にも相談はしてるけど、やっぱりどれだけ大枚叩いたところで譲ってくれることはなさそうって言われたわ』

「だよなぁ……」


魔物堕ちを封じ込められるだけの器となると、大きく2パターンの物が考えられる。


ひとつは、今はもう失われているような古代の技術で生み出された先天的な神器や秘宝。

もうひとつは、信仰を集めたり自然から力を得たりという条件で後天的に神格を得たなんらかの物品だ。


どちらにせよ貴重な物であるのは間違いないが、加えて今はタイミングが非常に悪い。


『世間がこんな感じだからね。そりゃあみんな最低でもひとつは確保しておきたいわよね……』

「俺だってそういう意図で探してるわけだしな……」


つい一年ほど前までなら相応の対価を示せば買い取ることも不可能ではなかっただろう。


しかしヤマタノオロチの出現で事情は変わった。


これまで起こらなかった太古に封印された魔物堕ちの復活が実際に発生し、さらに今後も続くと予想されているのだ。

それらを再封印するために必須である器の需要はこれまでになく高まっている。


すでに持っているのなら手放したくないし、最低ひとつ、できることなら複数確保しておきたいと考えるのは当然のことだろう。


『できるだけ頑張るけど、今回の一件に間に合うかは正直……』

「わかった。今回に間に合わないにしても今後も探しておいてもらえると助かる」

『オッケー』


〈ミストルテイン〉はその立場上、今後魔物堕ちが現れれば毎回否が応でも戦うことになりかねない。

今回はシオンの持つ封印手段に頼るしかないが、次を見据えておく必要はあるだろう。


『ああ、それからちょっと関係ない話なんだけど、北欧にある≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫の支店からあんたに伝言を預かってるの』

「は? 伝言?」

『えっと、トウヤっていう男の子からなんだけど』

「トウヤから⁉︎ なんて?」


都市での魔物騒動で別れた後、シェルターを探したもののトウヤを見つけられなかった。

彼のことなので上手く逃げたのだろうとは思っていたが、確証があるわけではないので心配していたのだ。特にガブリエラは自分の正体も説明できなかったとかなり悔やんでいる。


そんな彼からの伝言となれば食い気味になるのも仕方がないだろう。


『“僕は無事で、ケガひとつないから安心してね。またどこかで会えたら嬉しいな。他のみんなにもよろしくって伝えてね”だってさ』

「そっか、よかった」

『それからその子、北欧の状況知らなかったみたい。危ないから北欧からは離れなさいって伝えておいたってさ』

「わかった。その支店の“魔女”にもありがとうって伝えておいて」


ここしばらくは魔物堕ちの件など頭の痛い話題ばかり続いていたが、トウヤの無事という吉報にシオンは少しだけ心が軽くなったように思う。


その後、可能であれば対神武装の追加も頼むとルリアに伝えてマジフォンの通話を切った。


「……にしても、よりによって北欧に行ってたのは危なかったな」


トウヤのことなので忠告を素直に聞いてすでに北欧を離れているだろうが、支店に立ち寄ってなかったらと思うと肝が冷える。

しっかりしているのでもしものときもすぐに逃げられるだろうが、今後彼が運悪く魔物堕ちなどに遭遇しないことを祈るばかりだ。


とにかくガブリエラにはトウヤの無事を伝えておこうとシオンは彼女が作業している場所へと足を進めるのだった。


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