7章-失踪事件の真相-
「――つまり、俺たちのクラスメートだったルリア・バッカスはシオンやシルバと同じく人外関係者だったと」
ルリアが人外関係者であるという事実が明らかになり話を聞くことになってすぐ、ハルマたちも無事に合流した。
とはいえハルマたちからすれば何故か卒業式ぶりに会うクラスメートがアキトの前でしゃがみ込んでいるという謎の状況だったので、ひとまず近くのカフェのテラス席に移動し、そこで状況を説明して冒頭の発言に至るわけである。
「まさかルリアまでそうだったとは……」
「…………」
「それはそうと、なんでルリアはシオンの後ろに隠れようとしてるのかな?」
状況を把握したハルマとレイスから見て斜めの位置に座っているルリアはというと、隣に座るシオンの背に必死に隠れようしていた。
シオンの使った認識阻害の魔術のおかげで周囲の他の客がその異様な光景に気づくことはないが、仮に見えていたら全ての客の視線を集めていただろう。
「……なんかハルマに怯えてる感じに見えるな」
「そりゃあそうっすよ」
ギルの指摘に答えたのはシルバだ。
「学生時代、第七人工島にいた人外関係者の間でバレると一番ヤバイ相手ランキング一位ってずっと言われてたのがミツルギ先輩っすから」
「俺、本当にどれだけ恐れられてたんだ?」
「まあ、怖い半分罪悪感半分って感じかな。【異界】と関係ないにしろやっぱり同じ人外に父親殺された相手となるといろいろ気を使うじゃん?」
「……なるほど、初対面で俺にも妙な態度だったのはミツルギの当主だからか」
ハルマにバレることを恐れるのであればその兄であるアキトも同じような対象になり得る。
ナツミに関しては最初こそ思うところはあったのだが、本人が少なくとも人外への憎しみを持っていないとわかってからは恐怖の対象ということはなくなっていったのだそうだ。
「……シオンはともかくシルバ大丈夫なの? 問答無用で命狙われたりしない?」
「大丈夫っすよ。この人もう吹っ切れてるっぽいんで」
あくまでシオンの背にできるだけ隠れつつハルマを警戒するルリアだったが、シルバの言葉とハルマ自身が落ち着いている様子を確認してひとまずシオンに隠れようとするのはやめてくれた。
「それにしても、そうやってシオンの後ろに隠れるくらいだし実はふたりってそこまで仲悪くなかったのかな?」
「確かに、カモフラージュか何かだったのかしら?」
ハルマから守ってもらう対象としてシオンを選んで隣に座ったり背中に隠れたりといった距離感は学生時代ではまず見られなかったものだ。
互いに人外関係者であったことを思えば、わざと仲が悪いというように振る舞っていたのかも、とナツミたちは思ったのだが、
「「いや、素で仲良くはないよ?」」
シオンとルリアの声は綺麗に重なった。なんなら真顔具合まで一致しているくらいだ。
「でも距離近くね?」
「まあ、士官学校に入る前からの付き合いはあるからね」
「え、そうだったの?」
「ルリアは“魔女”なんだよ。で、ミセスと知り合った頃に同い年の“魔女”がいるよって紹介されて……」
「でもぶっちゃけ性格の相性悪いから仲良くなるわけでもなく、士官学校で接点が増えた結果本格的に仲悪くなったっていう」
予想していなかったふたりの関係にナツミたちは「へえー」と答えるしかなかった。
「あれ? じゃあもしかして親戚の会社の手伝いって……」
「≪魔女の雑貨屋さん≫の手伝いだよー」
「つーか、なんなら艦長もこいつと話すの今日が初めてじゃないですよ?」
「は?」
シオンの言葉にアキトはしばし呆気にとられていたが、やがて何か思い至ったらしい。
「アマゾンで協力してくれたジェムと名乗った“魔女”は君だったのか!」
「あのときはどうもでーす。お祖母様の無茶ぶりにはびっくりでした」
ジェムという名前にはあのときブリッジで操縦桿を握っていたナツミにも覚えがある。
巨大な闇に飛び込むために〈ミストルテイン〉を魔力防壁で覆ってくれた“魔女”だ。
「ミセスが君の祖母……だったら君はいったい何歳なんだ?」
「あたしは正真正銘今年で十六ですよ。お母さんがうん百歳で人間のお父さんと結婚したので」
「歳の差えげつねえな」
「それを全部承知で結婚決めたらしいお父さんには正直あたしもちょっと引いてる」
「まあまあ、ルリアのプライベートはひとまず置いておいて、本題に入りましょうよ」
やや脇道にそれ始めていた話題がシオンによって軌道修正された。
「えっと、とりあえずミツルギ艦長はあたしに何を聞きたいんでしょうか……?」
「そこまで込み入ったことを聞くつもりはない。……俺たちは今、この都市で起きた人外絡みの失踪事件を調査してるんだが、そんな都市に君という人外関係者がいたので何か知っているのではないかと思ったんだ」
三件もの失踪事件が起きている都市に偶然“魔女”がいた、というのはナツミでもできすぎていると感じる。
同じように思ったアキトはそれが偶然ではなく何か事件に関係しているのではないかと考えたというわけだ。
しかし、ルリアの反応は芳しくなかった。
「残念ですけど、失踪事件なんて物騒な話に心当たりはなくって……」
「そうなのか?」
「はい。……というか、ここで人外が悪さしてるならあたしの耳にも入ってきそうなものなんですけど……」
首をひねるルリアがウソをついているようには見えない。本当に何も知らないのだろう。
収穫なしということでアキトやハルマから少し重い空気が流れかけたが、そこでシオンがおずおずと手を上げた。
「あのー、失踪事件については調査の結果思い当たることがあるっていうか」
「え、シオンたちのところでは何か手がかりが見つかったの?」
「いや、魔力の痕跡の残り方が顕著ということくらいしかなかったはずだが?」
ナツミに問いをアキトが否定したが、シオンはそれに黙って首を横に振った。
「とりあえず俺の考えがあってるかの確認のために、シルバとガブリエラのほうで何かなかったかも聞きたいんだけど……」
「え、あたし無関係じゃない?」
「いや、ルリアも関係するかもしれないから待機で」
それからシオンはシルバから壁紙の不自然な日焼けのことを、そしてガブリエラから部屋に残っていた魔力の気配が複数混在しており、古いものと新しいものがあったことを静かに聞いた。
「オッケー、ざっと理解した」
「……ついでにあたしもピンときた」
話を聞き終えたシオンとルリアは何かを理解したらしいのだが、表情は晴れやかというわけではなくなんとも“微妙そう”だった。
「シルバも何か気づいてはいたみたいなんだが、話したがらなかった」
「ガブリエラもそうだったわね。シオンと話してみないとって」
「なるほど、気を使ってくれたわけか。でもまあ、答え合わせしないとだから話していいよ」
シオンにそう促されたシルバとガブリエラは顔を見合わせ、まずはシルバが口を開いた。
「オレたちが見つけた不自然な日焼けは、護符が貼ってあったんだと思う」
「護符?」
「簡単に言えば魔術を施したお札とかお守りのこと。今回の場合は部屋になんらかの魔術をかけるためのお札かなんかだったんじゃないかな」
「そして私たちが感じ取った魔力ですが、新しいものはそれこそ事件当日のものですが、古いものは数年前から最近までに時間をかけてあの部屋に染み付いたものだと思われます」
「数年って……じゃあずっと前から何か魔法とか魔術がかけられてたってこと?」
「そうなります」
シルバとガブリエラの証言を聞いてナツミたちが驚く中、アキトは冷静に口を開いた。
「つまり、一方の部屋では壁紙の色に違いが出るくらいの期間魔術を施したものが壁に貼り付けてあり、もう一方の部屋では時間をかけて魔力が部屋に染み付いていたと」
「そうなります。ちなみに俺たちが調査した部屋もガブリエラたちが調査した部屋と同じような状況だったから痕跡が妙に顕著に残ってた感じです」
シオンはそう補足してから改めてアキトへと視線を投げかけた。
「以上の情報を踏まえて、艦長はどういった結論を出しますか?」
「どういったも何も、情報から推測するなら消えた住民が人外関係者だったとしか思えないだろう」
部屋の住民が魔法や魔術について知っていたからこそ何かの目的で魔術を施した護符を部屋の壁に貼っていたのだろうし、住民が魔力を持っていたからこそ住んでいた年月分の時間をかけて部屋に魔力が染み込むといったことが起きた。
そう考えれば辻褄が合う。
「でも、人外関係者が人外に誘拐なんてされるのか?」
「ゼロとは言わないけど、多分普通はない。……つまり、誘拐っていうそもそもの仮定が怪しいんだよ」
失踪した原因が誘拐ではない。
誘拐以外の理由で、たった一晩で住民とその住民の家財道具一式が消えてしまった。
そう改めて考えたとき、ナツミはある可能性に気づいた。
“たった一晩で誰にも気づかれず”ということはなかなかないが、“住民と家財道具がその部屋からなくなる”というだけなら人間の社会でも決して珍しくはない。
「もしかして……引越し?」
ナツミの漏らした言葉にシオンは一瞬だけ目を見開いてから、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ご名答。そんでもってここで俺の隣の“魔女”にこう聞いてみる。……この都市でのお前の仕事ってなんだ?」
シオンに尋ねられたルリアは微妙そうな表情のまま気まずそうに頬を掻く。
「……空間転移魔術を使った引越しサービス、です」




