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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
7章 “天”の真髄
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7章-魔術と科学①-


〈ミストルテイン〉格納庫にて。


〈アサルト〉のコクピットからひらりと舞い降りたシオンは、すぐ近くで同じように〈ワルキューレ〉の胸のあたりから翼を広げて降りてくるガブリエラを見上げた。


「ガブリエラおつかれー」

「おつかれさまですシオン」


互いにかけ合う労いの言葉は軽いが、これでもふたりはたった今さっきまでアンノウンとの戦いを繰り広げていたのだ。


とはいえ数は決して多くなかったので、今回出撃したのはシオンとガブリエラのふたりだけ。それと〈ミストルテイン〉からの援護だけで十分対処できる程度だったというわけである。


「ガブリエラー、おつかれー」

「ギルもおつかれさまです」

「〈ワルキューレ〉に載っけた通信機諸々、問題ないか?」

「はい。特に問題なくブリッジのみなさんともお話できてますよ」


ガブリエラが〈ワルキューレ〉を使って〈ミストルテイン〉に協力することになったとき、一番最初に問題になったのは通信手段だった。


人外界隈での通信なんて魔術を使って行うのが当たり前であるし、初歩的な魔術なのでわざわざ道具を使ったりすることもしない。

しかしシオンや最近シオンから魔術を仕込まれている面々はともかく、普通の人類軍とはそれでは連絡ができない。

それは人類軍と協力していこうというのには大問題だった。


そのため、現状では〈ワルキューレ〉に十三技班の用意した通信機を搭載させてもらっている。


ちなみに、普通に考えるならガブリエラにとっては大事な武器である〈ワルキューレ〉に人類軍の手を加えるというのは嫌がられそうなものなのだが、彼女は二つ返事でOKを出した。

アキトからその打診があったとき、はたから見ている分には「必要なことなのはわかりますからお気になさらず」と冷静に対応しているようだったが、いざ搭載する様子を眺めるガブリエラの目が興味津々といった様子でキラキラしていたことを十三技班の面々は知っている。


間違いなく、興味のある機械が〈ワルキューレ〉に組み込まれるのにワクワクしていたやつである。


「そういや今更なんだけどさ、ガブリエラってどういうきっかけで機械に興味持ったんだ?」

「へ?」

「あ、それ私も気になるー!」

「確かにちょっと不思議だよねぇ……」


ギルの質問をどこからか聞きつけたリンリーとエリックがやってきたかと思えばなんだなんだと近くにいて比較的手の空いていたメンバー集まってくる。


「そんなに不思議でしょうか?」

「まあ、正直俺もちょっと気になってた。……だって【異界】じゃそもそも機械なんて見る機会もなかっただろ?」


最初にガブリエラから機械についての興味を聞かされたときは、彼女が【異界】から来たなんて知らなかったこともあって「昔から作ったり触ったりしてみたいと思っていた」という発言も「箱入りお嬢様ならそういうこともあるかもね」くらいの感覚で受け入れていた。


しかし【異界】は魔術を主体とする世界だ。魔法道具の類はいろいろあるだろうが機械となるとそもそも目にすることすらあるか疑わしい。

それに興味を持つ機会があったということ自体、シオンとしてはまあまあ驚いている。


「確かに、あちらにいた頃はほぼ機械を目にする機会なんて本当に稀でしたがウワサを耳にする機会はたくさんありましたから」

「ウワサ?」

「ええ。浮遊魔術もなしに巨大な鉄の塊が空を飛ぶですとか、手のひらくらいの大きさの板のようなもので星の裏側にいる他人と言葉を交わすことができるだとか……そういうウワサを聞いてはいったいどんなものなんだろうと想像したものです」


そう語るガブリエラの目は子供のようにキラキラとしている。


「私たちからすれば、飛行ユニットのひとつも付いてない〈ワルキューレ〉が空飛べるとか意味わからなすぎてすっごく気になるわよね?」

「……ああ、なるほど。対象が違うだけでリンちゃんの感想もガブリエラちゃんの感想も本質は同じなんだね」


要するに、自分の常識とかけ離れすぎた未知の代物に興味が湧いて仕方ないのだ。

こちらの世界の人間にとってはその対象が魔法や魔術であり、【異界】の人外たちにとってはその対象が機械や科学であるという違いしかない。


「じゃあ、こうして十三技班(うち)の手伝いできるのってガブリエラちゃん的にはすごくラッキーだったのね!」

「はい! 提案してくれたシオンにも受け入れてくださったクロイワ班長にも感謝しかありません。……それに、この作業服も結構気に入ってるんです」


その場で機嫌よくクルリと回って見せたガブリエラだが、シオンたちと同じ作業着に身を包んでいる。

十三技班の手伝いをすると決まったその日にアカネがガブリエラに用意したものだ。


「確かにこの作業着はいいわよね! ダサくはないし動きやすいし汚れに強いし」

「私としては、みなさんとお揃いというのも嬉しいです」

「……可愛いこと言ってくれちゃうわねもう!」


リンリーがガブリエラに抱きついてキャッキャとしているのをシオンたちも微笑ましく見守る。


「あはは、ガブリエラちゃんももうすっかり十三技班の仲間って感じだねぇ」

「うちの人々が特殊とはいえ、本当にあっという間に馴染みましたよねー」


ガブリエラが正式に十三技班の手伝いをすることになったのが五日前、歓迎パーティーをしたのが三日前だが、すでにこの調子である。

元々シオンとギルに連れられて顔を見せたことがあったにしろ、あっという間である。


「なんなら初期のツンツンしてたシオンのほうが馴染むのに時間かかったよな」

「やかましい」


余計なことを言ったギルの頭をシオンは一発引っ叩いておいた。


「……あ、でも」


シオンに引っ叩かれたギルがふと何かを思い出したかのように口を開いた。


「なんかガブリエラ、まだ遠慮してる感はあるよな」

「遠慮、ですか?」

「……そりゃあ、普通は正式に手伝い始めて一週間も経ってないのに遠慮しないのは無理だろ」

「え、無理か?」

「ギルくらいおバカならできるかもしれないけど、ガブリエラは無理じゃないかな?」


シオンの言わんとしたことはリンリーがオブラートに包むことなく直球で指摘した。

まさに彼女の言った通り、普通はそこまですぐに無遠慮にはなれない。

特にガブリエラのような真面目なタイプであれば尚更だろう。


「……でもまあ、このまま遠慮されっぱなしってのはちょっと寂しいわよね」

「え、そうですか……?」

「まあ、困ったことや気になることは遠慮せず言って欲しいかな」


リンリーとエリックの言葉に「遠慮せずに……」と何やら真剣に考え始めてしまったガブリエラ。

正直彼女のようなタイプにそれを要求するのはなかなかハードルが高い気もする。


「(変に思い悩んだりしないといいんだけど……)」


若干別方向の心配がシオンの中で頭をもたげてきたのだが、意外にもガブリエラはあまり時間をかけずに何かを思いついたようだった。


「あ、あの、ちょっとみなさんにご相談してみたいと思ってたことがありまして――」


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