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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
7章 “天”の真髄
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7章-歓迎パーティーにて①-


「かくかくしかじか(略)……ということで」


格納庫のとあるコンテナの上に立つロビンがマイク――ではなく拡声機を構えてこちらを見下ろした。

視線だけでコンテナの周囲に群がる十三技班メンバー+αを確認したロビンは――


「これよりぃ! ガブリエラちゃん&ちょっと遅めのマリーちゃんの歓迎会をおっぱじめるぞぉ!!」

「「「「「おおおおおおお!!」」」」」


拳を突き上げてロビンが叫ぶのに合わせその左右に控えていたメンバーが小型バズーカをぶっ放し、紙吹雪やら紙テープやらが放たれる。


続けてロビンの音頭に合わせて乾杯が行われ、格納庫でのパーティーが幕を開けたのだった。




「今更と言えば今更なんだけどさ」

「ん?」

「十三技班って本当に好き勝手やってるよな」

「本当に何を今更」


若干遠い目をしてそんなことを言い出したハルマにシオンは割と本気で呆れた。

その反応にイラッとしたらしいハルマに睨まれたが、手元の紙皿に乗った骨なしのチキンをムシャムシャ頬張る。


「別にいいじゃんか、ちゃんと艦長には許可もらってるらしいし」

「むしろなんで兄さんは普通に許可出してるんだ……」

「バカだなぁハルマ。ちょっと断られたくらいで俺たち十三技班が折れるわけないじゃん」


要するに、許可が出るまで許可を求め続けてゴリ押したのである。


「それ、さすがに厳罰ものじゃないの……?」

「そこはほら、いくらなんでも十三技班の技術者全員謹慎処分にするわけにはいかないじゃん?」


リーナの疑問に対してシオンはチッチッチと指を振って見せる。


まず前提として、この歓迎パーティーの申請には十三技班全員の名前で申請をしている。


クソ真面目にその全員に謹慎などの罰則を課してしまえば技班の作業はストップ。かと言って一部に罰則を課したところで残りが許可申請を続けるだけ。

それに対してさらなる強硬策として全員を追い出そうにも、なまじ腕のいい十三技班の代わりを確保することは難しい。


問題も起こすが成果も上げていて、能力が高いからこそ手放すには惜しく、仮に手放ししまうとその補填をするのが困難。


問題児集団と名高い十三技班がなんだかんだと人類軍を追い出されずにいるのはそういう厄介な(・・・)性質を持つが故なのである。


「ま、正直今回のわがままなんて食堂で騒ぐのの延長みたいなもんだからね。艦長もそれだけで大人しくなってくれるなら安いもんだと思ってパパッと許可出してくれたんじゃないかな」

「……どっかの誰かさんがスイーツ与えておけばまあまあ大人しくなる、みたいなもんか」

「あはは」


そんななんてことのない会話をしていると、ガブリエラがギルと共にこちらに駆け寄ってきた。


「おつかれー、挨拶回り終わった?」

「面倒だからって俺に付き添い丸投げしておいてよく言うよなー」

「いひゃいいひゃいいひゃい」


流れるようにギルに頬をつねられる。

そんなシオンたちのじゃれ合いに不慣れなガブリエラがオロオロする一方で、割と慣れてきているハルマ、リーナ、レイスは鮮やかにスルーした。


「そういえば、あの日のアンノウンの襲撃以来こうしてガブリエラと落ち着いて話すのは初めてよね」

「そう、ですね……」


リーナに声をかけられたガブリエラは少し顔を伏せてから、勢いよく三人に向かって頭を下げた。


「リーナ、ハルマさんとレイスさんも。正体を話さずみなさんを騙していて、本当にごめんなさい」


頭を下げられた三人はもちろん、シオンとギルもガブリエラの突然の行動には驚かされた。

ただ、冷静に彼女の性格を思い直せば決しておかしなことではないだろう。


「(ギル相手にも相当罪悪感あったみたいだったし……)」


シオンは又聞きしただけだが、最初にガブリエラの正体を知ることになったギルに対して彼女は相当に自分を責めていたらしい。

ギルの許しを最初はなかなか受け入れなかったほどだったというのは聞いている。


となれば、シオンとギルと同等かその次点の友人であったリーナたちに対してだって相応の罪悪感があったはず。

ようやく話をする場ができたここで、それが行動に移されただけなのだ。


「……許してほしいなんて言える立場ではありません。こうして謝ることも所詮は私の自己満足に過ぎません」


真面目な女騎士は自分を許そうという気はないらしい。

他人に寛容な一方で、あまりにも自分に厳しい。それはシオンからは痛々しくも見える。


そんなガブリエラはゆっくりと顔を上げ、少し迷いを見せながら口を開き――


「ただ、私がみなさんのことをお友達だと思っていたことだけはウソではないと。それだけは信じてもらえたら嬉しい、です」


一転して年相応な少女らしい言葉が出てきて、シオンは急に力が抜けた。

呆れたなどというような悪い意味ではなく、少しホッとしたような心地だ。


「(やっぱり、あんまり辛そうな顔とか見てるのは気分よくないしね)」


いまだに表情は暗く笑顔というわけにはいかないが、少なくとも謝罪をして俯いていたときと比べれば少しはマシだろう。


本音を言えばこんな空気は適当に引っ掻き回して霧散させてしまいたいところなのだが、今それをしてしまうと他でもないガブリエラを一番傷つけてしまう。

だからシオンとギルはじっとリーナたちの答えを待つ。


「ガブリエラ、そんな顔しないで」


一番に口を開いたリーナはそっとガブリエラに歩み寄ると、彼女の両肩にそっと手を乗せた。


「あんまり気の利いたことは言ってあげられないんだけど、少なくともそんな深刻な顔をしなくていいの」


賢いリーナはガブリエラにかけるべき言葉が単純な許しではないことを理解しているのだろう。だからこそ彼女はゆっくりと言葉を選んでいく。


「あなたのウソは自衛のためにも仕方がないことだったと思うし、あなたが私たちを傷つける気なんてなかったのは見てたらわかるわ。……だから、ここは先の話をしましょう」

「先、ですか?」

「そう。隠し事がひとつなくなった分、前よりも距離を縮めるの。他人と親しくなるのって多分そういうことだと思うから」


隠し事をした過去ではなく、この先の未来を見つめていこう。そう言ってリーナはガブリエラに微笑みかけた。


続いて、そんなリーナの隣にレイスが立った。


「それに、ガブリエラには助けてもらっちゃったからね。ウソをつかれて何か困ったわけじゃないし、むしろ助けてもらった恩のほうが大きいんじゃないかな?」

「そんなこと、」

「そんなことあるよ。……少なくとも僕はそう思う」


レイス自身に断言されてしまえば、ガブリエラにはそれを否定することはできない。

ガブリエラからすれば少し複雑かもしれないが、やはりレイスは優しくすることしかできないのだろう。


そして最後に、ハルマがガブリエラのそばに歩み寄った。


視線を彷徨わせて言葉に迷っている様子は、普段はきはきと話すハルマからはずいぶんとかけ離れているように思う。

ガブリエラの前まで来ておきながらも彼はしばらく言葉に迷い――


「リーナも言ってたけど、過ぎたことをどうこう言っても意味ないんだ。……だから、これからなんだよ」


ここでようやくハルマの目は真っ直ぐにガブリエラへと向けられた。


「これから、本当の君を見せてくれ。話はそれからだ」


そう言って、ハルマは握手を求めるように右手を差し出した。

対するガブリエラには迷いが見える。


「まだ、私は全てを話せてはいません」

「それは多分、お互い様だ。最初からそんなこと気にしてたらきっと誰とも分かり合えない」

「……そう、かもしれませんね」


ガブリエラは一度目を伏せ、次に開かれた青い瞳にもう迷いはない。

彼女はそっと差し出されたハルマの手を握った。


「この先、私は決してみなさんを傷つけない。そう約束させてください」

「わかった。これからよろしく頼む」


ハルマとガブリエラが互いに微笑むのを確認して、シオンはギルを顔を見合わせる。

それから互いにニヤリと笑みを浮かべた。


「それじゃあガブリエラとパイロット組の仲直りも済んだことだし!」

「もっともっと食べて騒ごうぜ!」


ギルがガブリエラの、シオンがハルマの手をそれぞれ掴む。

それから驚くふたりを引きずって料理の並ぶテーブルまで走り出すのだった。


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