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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
7章 “天”の真髄
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7章-“天”の力②-


「≪天の神子≫の最大の特徴は、純粋なる肉体と魂にあるといいます」


ひとつ咳払いをしてからガブリエラによる≪天の神子≫の能力についての説明が始まった。


「一般的に私たち“天族”はもちろんその他の人外、人間も含め、生きるものの全てはその種としての、あるいは個人としての肉体と魂に特徴……例えるならある種の色がついているものです」

「色……、人間なら赤、“天族”なら白みたいなイメージでいいかしら」

「厳密にはもう少し複雑なものですが、イメージとしてはそれでいいかと」


要するに、人間も人外も関係なくあらゆる種族にそういった固有の特徴が存在する。ということらしい。


「この違いはそのまま魔力の相性と言い換えることができます。そして相性次第では魔力の受け渡しにも影響が出るんです」

「例えば?」

「そうですね。十の魔力を渡そうとしても相性が悪く五しか渡せないですとか……最悪の場合は拒否反応で命の危険を伴うこともあります。……しかし純粋な肉体と魂を持つ≪天の神子≫はその制約を一切受けないんです」


以前、シオンから説明を受けたときにも「どんな人外や人間相手でも拒絶反応なく魔力を与えたり、逆に魔力を受け取ったりできる」という説明があった。

この内容はその説明と一致する。


「それこそが≪天の神子≫の与える力――話を聞かせてくださった“魔女”は“(あま)つ恵み”と呼んでいました」

「“天つ恵み”……まるっきり神様みたいね」


アンナがそう感想を漏らす中そっとシオンを見れば彼はわずかにだが忌々しげな顔をしていた。


「(……アイツに神様というのは禁句なのかもしれないな)」


以前シオンはアキトの前で「ただの人間でありたい」と口にした。

思えば彼があのような弱音を吐いたことはあのときが初めてだったように思う。


「しかも、“天つ恵み”は純粋ゆえに極めて上質な魔力でもあるんです。さっきの例に当てはめるなら十の“天つ恵み”で、三〇や五〇の魔力に相当する力を与えることもできますし、さらにはより強い存在への進化を促すことすらもできると言います」

「それは……確かに人外からすればこれ以上ないほど魅力的な能力ですね」


≪天の神子≫から力を分け与えられることで数倍の魔力を得たり、より強力な力を得ることができるとなれば戦略的な価値は非常に高い。

それを【異界】が味方につけたがるのはおかしなことではないだろう。


しかし、それだけでは解せないことがまだある。


「味方にできれば心強いというのは今の説明でわかったが、敵に回すと恐ろしい能力だろうか」


こちらの世界の人外が敵に回り、さらにシオンも敵に回ってしまったのだとすると確かに脅威ではある。敵対する人外が“天つ恵み”で強化されてしまっては確かに厄介だろう。


しかしそれを踏まえても、【異界】が特別に警戒するほどのものだろうか?


「確かに“天つ恵み”に限れば、脅威というわけではないですが……≪天の神子≫はもうひとつ、強力な能力を持っているそうなんです」

「それが【異界】が警戒するほどの脅威になると?」


ガブリエラはアキトの問いかけに真剣な表情で頷いた。


「先程も話した通り、≪天の神子≫は通常存在するはずの魔力の受け渡しにおける制約を受けません。それはつまり何者にも魔力を与えられるのと同時に、何者からでも魔力を受け取る……あるいは奪い取る(・・・・)ことができるということにもなります」

「……奪うってのは物騒ね」


アンナの言葉に再びガブリエラが頷く。


「他の存在から魔力を奪う能力を持つ人外は決して珍しくはありませんが、相性の制約がないのは≪天の神子≫だけです。もちろん受け入れられる魔力量に限界はあるはずですが……」

「だとして、魔力を奪われてその分強くなんてなられたらたまったもんじゃないわよね」

「ええ。脅威と感じるには十分すぎる能力ですね……」


仮に相手を追い詰めたとしても魔力を奪われてそれを力に変えられてしまえばあっさりと形成は引っくり返されてしまう。

敵に回れば非常に厄介な敵であるのは間違いない。


「(……ただ、ここまでイースタルがその力を使ってみせたことはないはずだが)」


意図して隠していたと考えることはできるが、ヤマタノオロチを相手にしたときなど出し惜しみをしている場合ではない場面はあった。

いくらシオンとはいえ、あの生きるか死ぬかの状況で本来の力を隠していたとは考えにくい。


そんなアキトの疑問をよそに、ガブリエラは説明を続ける。


「あまねくすべてに恵みを与える“天つ恵み”。そしてあまねくすべてを喰らって奪う“天つ喰らい”。どちらも強力な力に違いありません。……それに、」

「それに?」

「……いえ、これ以上は今話すべきことではないと思うので」


何かを言い淀んでいるのは明らかだったが、ガブリエラは言葉通りこれ以上話をするつもりはないようだ。


「……まあ、十分いろいろと話してもらえたし無理に話して貰わなくてもいいわよね」

「ええ。……シオン・イースタル、≪天の神子≫ご本人からの訂正などはありますか?」

「……え?」


ミスティの言葉に目を丸くするガブリエラの隣で、アンナがシオンのことを解放した。

そんなシオンは大きくため息をつきながらこちらを恨みがましい目で見ている。


「別に訂正とかはないですよ。むしろガブリエラが予想外に俺の能力について詳しくてちょっと変な気分です」

「俺の、シオンの……? え、それじゃあまさか!」

「≪天の神子≫って、シオンのことだぞ?」


ようやく事実を知らされたガブリエラは数秒ほど硬直し、そして――


「も、申し訳ありませんでした!!」


そんな声が出せたのかと思うほどの大声での謝罪とともに跪き、その場は一時騒然とするのだった。


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