6章-狂乱の都心①-
「〈アサルト〉!」
シオンが叫べば一瞬にして魔法陣から〈アサルト〉が姿を表す。
まだアンノウンたちの出現の予兆に気づいていない人々は、むしろ突如現れた機動鎧に驚いて慌てふためき逃げていくが、それはそれで構わないと無視する。
あえてコクピットへは乗り込まず、魔法による遠隔操作のみで〈アサルト〉に〈ドラゴンブレス〉を真上へと向けさせる。
「術式展開 空間固定 閉じたる世界に風は吹かず 平穏なる箱庭を此処に!」
〈ドラゴンブレス〉から放たれた閃光が天高く駆け抜け、都市上空に巨大な魔法陣を刻む。
魔法陣は都市全体を覆い尽くすサイズだ。
「シオン、あれは⁉︎」
「都市全体に空間固定術式……まあ要するにあとからアンノウンが湧いて出ないようにした! とりあえずいきなり第二波出現とかはないよ!」
残念ながらすでに空間に入ってしまっている亀裂からの侵入は拒めないが、それ以上状況が悪化する可能性はこの術式で排除できる。
「それはそれとしてハルマ、手!」
「手⁉︎ なんでだよ⁉︎」
「とにかく!」
急に手を出せと言われて戸惑っているハルマの手をシオンは勝手に掴んだ。
それから少々強引にハルマに魔力を流しこんで、一部のコントロールを奪い取る。
「来い、〈セイバー〉!」
〈アサルト〉がそうであったように、シオンとハルマの目の前に〈セイバー〉が姿を表す。
「おま、何やってんだ!」
「そういうのはあと! というか、これハルマひとりでできるように今度個人レッスンするから!」
「あーもう! あとでちゃんといろいろ説明しろよ!」
説明を放棄して〈アサルト〉に飛び込んだシオンを見て、ハルマは苛立ちながらもさっさと〈セイバー〉に乗り込む。
そのそばでは自分で〈クリストロン〉を呼び出したシルバがいそいそとコクピットに乗り込んでいる。
「シルバ、悪いんだけどマリーとリーナとレイス乗っけて〈ミストルテイン〉に戻って」
『了解っす』
シルバは文句ひとつ言わずに三人を抱えてその場から飛び去った。
「ギル、さっきも言ったけどガブリエラとトウヤを」
『つーか、お前の魔法で〈ミストルテイン〉にワープとかできねえの? 俺が連れ回すより安全だろ?』
「ちょっと無茶して空間固定したせいで俺自身ですら簡単には転移できない。……それにトウヤのこと人類軍に知られるのは避けたいから」
シオンがすぐに転移できる先は自分のテリトリーにしている〈ミストルテイン〉の艦内に限る。
ギルとガブリエラはそれでもいいが、トウヤを送ってしまって万が一彼が人外であることが〈ミストルテイン〉外部の人類軍に知られようものなら、確実に面倒なことになる。それはトウヤのためにも避けたい。
「ひー、ふー、みー」
シオンの影から飛び出した使い魔たちはすり抜けるようにして〈アサルト〉から飛び出すとギルに寄り添う。
「ひーたち三体もつける。とにかくさっさとシェルターに!」
『わかった! トウヤ、抱えて走るからこっち来い!』
ギルがトウヤを抱え、ガブリエラを引き連れて去っていくのを確認してからシオンは改めて上空へと意識を向ける。
最初確認していた亀裂はもう十分すぎるほど広がっていて今すぐにもアンノウンたちが飛び出してきそうだ。
『……シオン! もういろいろ今更だろうけど、都市全域に無数のアンノウン反応だらけよ!』
「ホント今更ですね! とりあえず今まさに出てこようとしてる第一波以降、追加出現みたいな展開はないように対策しておきました!」
『それは素直にありがたいが、そもそもアンノウン除けの結界で追い払うことはできないのか? オボロ様が立ち去ったときやっていただろう』
「あれはそれなりの下準備があって初めてできることであって、ホイホイとできるような代物じゃないんですよ」
通常のアンノウン除けの結界は、結界で守っている範囲にアンノウン侵入させないためのものに過ぎない。
すでに出現済みのアンノウンを追い払うとなるとさらに上位の結界を使うしかないが、使用する魔力にしろ術式にしろ一朝一夕に用意できるようなものではないのだ。
『つまり、出てくる分は倒すしかないわけだな。……現地の部隊もすでに動いているが、都市中央部ですぐ動けるのはお前たちだけだ』
「……俺たちが踏ん張らないと民間人にとんでもない被害が出るってことですね」
すでに都市からの警報が発されているので公園にいた人々も避難し始めているが、そもそもこの公園には相当な数の人間が集まっていたのだ、そう簡単に避難完了とはいかない。
実際、シオンたちの視界に入るだけでもまだ結構な数の人間が右往左往している状況だ。
だが、そんな事情をアンノウンたちが待ってくれるはずもない。
『シオン! 来るぞ!』
「わかってる!」
上空に生じた亀裂のひとつが砕け黒い異形が姿を見せた瞬間、空間の亀裂に直接〈ドラゴンブレス〉の閃光を叩き込む。
少なくとも今の一撃で亀裂ひとつぶんのアンノウンは排除できただろうが、さすがのシオンも他の無数の亀裂に同じことはできない。
亀裂から現れたアンノウンたちを前に人々が悲鳴を上げる中、シオンは改めて戦場へと目を向ける。
「ハルマ、意識して強すぎない程度に魔力を垂れ流して。そのほうがアンノウンたちは俺たちに食いついてくれる」
『囮をしながら戦うってことか』
「自信がないなら俺だけ囮やるけど?」
『バカ、いつまでもお前におんぶにだっこなんてゴメンだ。……この間のがまぐれじゃないって証明してやる!』
〈セイバー〉が空を駆け抜けちょうど亀裂から半身を覗かせたばかりのアンノウンを両断する。さらには〈アロンダイト〉から放った光の刃を亀裂に叩き込み
シオンのやったようにまとめてアンノウンを排除して見せた。
「それじゃあ、踏ん張りましょうか!」
『一匹も撃ち漏らすな!』
中央公園上空。
奇しくももっとも多くの亀裂が生じている空を二機の機動鎧が駆け抜けるのだった。




