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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
6章 白き者、黒き者
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6章-人ならざるものの内側①-


時間帯が昼を過ぎてきた頃、町の賑わいがさらに増してくるのを肌で感じる。


「人間って、こんなにたくさんいるんだ……」


トウヤはそんな周囲をキョロキョロと見回してただでさえ大きな目をまん丸にしている。

発言の内容はなかなかどうかと思うものだが、実際彼からすればこんなにもたくさんの人間を見る機会はあまりなかったのだろう。


「旅に出てから何度も驚いてきたけど、今日がこれまでで一番かもしれない」

「まあ、この祭りは大イベントだしなぁ」

「特に今この町には欧州全域からお客さんが来てるだろうからね」

「確かにとても賑わっていますが、実際のところこの町に今集まっている人数だけでは地球上の全人口の一割にすら達していませんよ」

「これでも全然少ないってこと⁉︎ 想像もできないや……」


ギル、リーナ、マリエッタの解説にトウヤはさらに驚いたようだった。


トウヤの出身地については謎のままとは言え、人間社会から隠れているくらいなのだから決して多くが暮らしていたわけではないのだろう。

そんな彼からすればこれ以上のたくさんの人間などイメージできなくて当然だ。むしろシオンであってもそんなこと無理である。


「トウヤ、食べたいものとかあったら遠慮なく言っていいからね。お金は俺が出すから」

「だってよトウヤ! あっちにいろいろ並んでるから見に行こうぜ。ガブリエラも」

「ええ、行きましょうトウヤ」

「う、うん!」

「ギルの分はギルが払うように!」


「わかってるって!」という言葉を残してギルはトウヤとガブリエラを連れて近くにあるキッチンカーや出店へと突撃していく。

トウヤは確実にキッチンカーなどにも不慣れだろうが、ギルとガブリエラがうまくリードして楽しませてやってくれるだろう。


「……やっぱりお前、子供に極端に甘いよな?」

「何かを他人に奢るなんて、ギル相手でもしてるの見たことないよ……」

「はは、怪しい人間を見るような目はやめようかミツルギ兄妹」


なんとも言えない目でシオンの子供に対する態度について言及してくるハルマとナツミ。

確かにシオンは例え親しい相手であっても金銭を出してやるようなことはほとんどないが、子供のために金を出しただけで変質者なのではと疑うような目を向けてくるのはいかがなものだろう。


「俺は、か弱くて守るべき存在には特別に優しいだけ。子供もそうだけど小動物とかも対象だから」

「あたしたちみたいなか弱い女の子は?」

「ナツミやガブリエラは子供とかの次点くらいかな。あとお前は自分で言うほどか弱くない」

「当然のように私が含まれてないんだけど……」

「特別科出身の機動鎧パイロットならそこらへんの男よりは強いだろうに。……そもそもナツミやリーナたちには子供だとかそういうの以前に優しくしてるほうだと思うんだけど」

「だとしても、子供相手はまた別次元な印象があるよ。だから何か理由でもあるんじゃないかって、みんな気になってるんじゃないかな?」


レイスの指摘にハルマやナツミたちもうんうんと頷く。

確かにシオン自身、子供や小動物などのか弱い存在に甘い自覚はあるが、そんなにも目立っていたとは思っていなかった。


「理由ってほどのことはないんだよ。単純に小さい頃……まだ両親が生きてた頃に動物とかに囲まれてて、孤児になってからも年下が結構いてって感じだったから自然とね」


小さな頃から世話を焼くべき自分より小さな存在が当たり前のように近くにいた。

それだけでそういった存在を気にかけるようになる理由としては十分だろう。

しかしナツミやレイスたちがそれだけで納得してくれる一方で、すんなりと受け入れてくれない面子もいる。


「わからなくもないけど、それだけにしては極端というか……」

「ああ。……中東での一件とか、な」


中東でのテロリストとの一件。

人類軍関係者とはいえまだ比較的幼いマリエッタがいるので詳細についてはハルマも口にしなかったが、あのときシオンは“子供に手を出した”という理由だけで数十人のテロリストを血痕のひとつも残さずに殺し、情報を吐かせるために生かしたリーダーの男にも完全に戦意を挫くほどの恐怖と苦痛を与えた。


確かに、子供に優しいというだけでは説明しきれない極端な行動だっただろう。


「そこはまあ、人外としての性質……みたいなもんかな」

「性質?」

「体質とか本能って言ったほうがわかりやすいかもしれねえっす」


シオンの説明に補足を入れるようにシルバが口を挟んだ。


「例えば“狼男”のオレは事前に薬とか魔術で対処してないと満月の夜には自分の意思と関係なく獣の姿になっちまう。他には、吸血鬼が対策なしに日の光を浴びると焼け死ぬとか、人外にはそういう特殊な性質があるやつがいる」

「俺も≪天の神子≫としてちょっとそういうのがある」

「……無意識に子供に優しくしちゃう、みたいな?」


ナツミの出した答えにシオンは首を横に振る。


「俺のは本能みたいに自然とそうなるわけじゃなくて……“自分に正直になる”って感じかな」

「正直になる……?」

「子供や小動物は守るべき対象だから優しくする。気に入らないと思ったものには一片の慈悲もかけない。そういう自分の中の感情とか考えがはっきりと行動に出るんだよ」


シオン・イースタルは自らの心や考えに従う。

そこに倫理や損得勘定などは介在せず、シオンがそう(・・)と決めれば、何事であっても行動に移される。

だからシオンは子供を守るためというだけの理由で、なんの迷いもなく数十の命を奪うことができた。


「……つまり、お前のマイペースさとか他人の考えお構いなしなのもそこに原因があるのか?」

「否定はしないかな」

「自分勝手な性質過ぎるだろ……」

「今更だねー。どっちにしろ俺が変えようとして変えられるものでもないから諦めてほしいかな」


悪びれることもなく笑うシオンにハルマが眉間にシワを寄せた。


「さて、俺もトウヤたちのところ行くよ。ギルの入れ知恵でとんでもない量とか買わされてるかもしれないしね」


何か話があったかもしれないハルマから逃げるようにシオンはその場からさっさと立ち去った。


「(……これ以上深掘りされるとちょっと面倒だしね)」


シオンの言葉にウソはない。シオンの性質を元々知っていたシルバもなんの隠し事もしていない。

ただ、シオンが子供や小動物に甘いを通り越してある種の執着を見せる理由は全て語られたわけではない。


それは未だ、シオン本人を除いて何人たりとも知り得ぬことなのだから。


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