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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
6章 白き者、黒き者
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6章-お祭りに行こう⑤-


「――と、いうわけで、この子はトウヤ。大事な人を助けるために武者修行中の秘境出身であんまり事情が話せない謎の人外の男の子」

「トウヤです。よろしくお願いします」

「よろしくなー」

「いやいや待て待て」


トウヤとぶつかってから落ち着けるスペースを求めて広場の端に移動した一行。

シオンの雑な紹介とお行儀よく頭を下げるトウヤへの反応は三者三様という様子だった。

ちなみにあっさりと状況を受け入れてトウヤへと笑顔を見せたのはギル。

すぐさまツッコミを入れてシオンの肩を掴んだのはハルマだ。

客観的に見て、後者のハルマが反応としては確実に正解である。


「この際人外がどうこうは置いておくとしても、事情が話せない謎の人外って怪し過ぎんだろ。名前と性別くらいしかわかってないぞ」


非常に警戒している様子のハルマ。しかしちゃんとトウヤに聞こえないようにシオンを少し離れた位置に引っ張って行ったり配慮した声量で話をしてくるあたり、やはりコイツ優しいなとシオンは場違いにほっこりした。


「それはまあそうだけど、多分大丈夫だよー」

「人外相手に警戒心持てって言ってたのはお前なんだけどな?」

「トウヤについてはちゃんと俺が前回の遭遇時にチェックしておいたから心配ないって」


出会ったあの日に気配を探ったのはトウヤが“天使”である可能性を考えてものだったが、その時点で悪い気配感じていない。

気配の質で言えばむしろ善良さや神聖さを感じさせるような類のものだ。


「そこらへん、シルバはどうかな?」

「そうっすね。オレも悪い感じはしねえっすよ」


音もなく内緒話をするシオンとハルマの隣に現れたシルバがシオンの言葉を後押しする。


「本当なのか? シオンに話し合わせてるだけじゃないか?」

「むしろなんでハルマは俺が悪いものでもスルーするみたいに思ってるのかな?」

「トウヤが子供だからだ」

「即答⁉︎ っていうかその言い方はちょっと俺がアレな人種みたいに聞こえない?」

「……確かにシオン先輩は子供にゲロ甘っすけど、オレはそこまで甘くないんで」


シオンとハルマがやいやい言い合っている中、シルバはあくまで冷静に断言した。


「トウヤから感じる魔力から悪い感じはしねえし、外見を誤魔化してる感じもしねえ。……なんとなく、シオン先輩の魔力の気配に似てるような」

「え? そうかな?」


シオンの中で自分の魔力に似ているという認識はなかった。

まあ、自分の魔力の気配を客観的に捉えたことなどないし、感知に関してはシオン以上のスペックを誇るシルバがそう話す以上は事実なのだろうが。


「なら、トウヤも“神子”ってことになるんじゃねえか?」

「んー、神気があるなら“神子”じゃなくて“神”の分類かな? 俺は神気の気配全然感知できてないけど」

「それで大丈夫って断言してたのかお前」


非難するような目を向けてくるハルマに顔を背けたシオンはわざとらしく口笛なんて吹いてごまかしておく。


「……とにかく、トウヤは少なくとも悪いものじゃねえと思うっすよ。見た感じマリーよりもひとつかふたつくらい年下っぽいし、そんなガキを邪険に扱うのもどうかと思うっす」


シルバがそう言いながら指差した先ではギルやガブリエラとキャッキャと楽しそうにしているトウヤがいた。

どう見ても演技には見えない子供らしさにハルマも毒気を抜かれてしまったのか何かを諦めたかのように深くため息をついた。




「それで、なんでまたトウヤはこの町に?」


トウヤのそばに戻ったシオンは改めて尋ねる。

武者修行として欧州をうろうろしているらしい彼がこの町にいるのは別におかしなことでもないのだが、広い欧州で再び遭遇したことを偶然と軽く片付けるのは少々無理があるように思う。


「えっと、シオンお兄さんの勧めで≪魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫に出入りするようになって、そこで大きな祭りのウワサを聞いて」


欧州記念式典は欧州全域で広く行われているイベントだ。

そこらの人外ならともかく、比較的人間社会にも溶け込んでいる上に欧州をホームグラウンドにしている魔女たちの耳にも間違いなく入ってくるだろう。


そして、魔女という生き物は総じて好奇心旺盛な傾向がある。


そんな彼女たちが人の多く集まるイベントに興味を示さないはずがない。


「(下手すりゃそこらへんのキッチンカーに並んでるかもな……)」


トウヤもそんな彼女たちからウワサを聞いて興味を持ったということらしい。


「前にお兄さんにあったときもお祭りに最中だったんだよね? そのときは僕、よくわかってなくて……それを話したら魔女のお姉さんがもったいないって」

「なるほど」


彼の暮らしていた土地のことは詳しく知らないが、下手をすれば祭りというもの自体が初めてかもしれない。

魔女がもったいないと言うのもおかしくはないだろう。


「つまり、トウヤは祭りを楽しみに来たってことか」


シオンのすぐ隣でトウヤの話を聞いていたギルがシンプルな結論を出すとトウヤはこくこくと頷いた。


「ならもっと楽しまないとダメですよ! 初めてというなら尚更です!」

「ガブリエラもこんなデカイ祭りは初めてって言ってたもんなー」

「ええ。トウヤくん、お祭り初心者同士楽しみましょう」

「……うん!」


「というわけだから、トウヤも一緒に回っていいよねハルマ?」

「……ここでダメっていうほど鬼じゃないよ」


こうしてトウヤを交えた十名で、改めてシオンたちは祭りへと繰り出すのだった。


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