6章-お祭りに行こう②-
快晴の空の下、視界に広がる街並みにはこの都市が栄えていると一目でわかるほどに多くのビルが立ち並んでいる。
加えて町を行き交う人の数は非常に多く、先日アキトと共にくり出した都市よりもさらに賑やかな様子だ。
そんな大都市に、シオンは同世代組を引き連れての大所帯でくり出したのである。
「でっかい町だな〜!」
「それに、ものすごく賑わってます」
私服姿のギルとガブリエラがキャッキャと盛り上がっている。
そのすぐそばではマリエッタが興味深そうに町の様子を見回していた。
「五年前にアンノウンによって大きな被害を受けたというお話でしたが、そんなこと微塵も感じさせないほど活気に溢れていますわね」
「だから復興記念式典なんてことがやれるんだろ」
マリエッタの言葉に言葉少なに答えるシルバは若干眉間にシワが寄っていて不機嫌なのがわかりやすい。
「ハーシェルはあんな調子で大丈夫か? ああなるなら連れてこないほうがよかったと思うんだが……」
「俺がいるとはいえ、本人が来ること決めたんだし大丈夫だよ」
「いや、ものすごく不機嫌そうに見えるんだけど……?」
「あれは不機嫌じゃなくて、大都市だとその分においがごちゃごちゃしてて鼻にくるってだけ。オオカミだからね」
ハラハラした様子のハルマとレイスを宥めて、シオンは何やら話し込んでいるナツミとリーナへと視線を向ける。
「で、なんかマイアミのときみたくオススメの行き先とかある?」
「別にあたし下調べするのが好きとかじゃないんだけど⁉︎」
「ま、まあ。これだけ都市全体が盛り上がってるんだし、歩いていてばいろいろ楽しめるんじゃないかな?」
その後簡単に話し合った末、ひとまず都市の中心部あたりまで移動しようということで話はまとまった。
「それにしても、よくお前は外出許可なんてもらえたな」
賑わう町を歩く中、シオンのすぐ隣に並んだハルマはわずかに潜めた声で話しかけてきた。町の喧騒もあって他のメンバーにもあまり聞こえていないだろう。
「そこは俺の高度な交渉術でちょちょいと」
「今そういうの求めてないんだよな」
「……まあ冗談を抜きにすると、ちょっと交換条件とかも出しつつ、ね」
ただでさえあまり外出の奨励されないことに加え、“天使”捜索がうまくいっていない状況下でシオンが町に遊びに出ると言い出せば、それはもちろん難色が示された。
さらに同じく外出を奨励されないシルバも連れていきたいといえば尚更だ。
そんな難色を示すアキトとミスティに対し、シオンは情報提供などの交換条件をいろいろちらつかせて許可をもぎ取ったというわけである。
「交換条件ってお前。そこまでして出かけたかったのか?」
「まあ気晴らししたかったし、ガブリエラの思い出づくりってのもあるし……最悪しばらく出かけにくくなるかもだし」
「悪い。後ろのほう聞こえなかったんだが」
「気にしなくていいよー」
こうしてこの都市に着いてしまった以上、≪境界なき音楽団≫に潜んでいる“天使”を見つけ出すのはもはや不可能だ。
“天使”が戦場に出たところを捕獲するという方法は残っているが、それもシオンの見立て通りに白い鎧が遠隔制御だった場合、巨大な鎧を捕獲したというだけで“天使”自体は空振りというオチになる。
“天使”捜索がうまくいかなかったとなれば、人類軍は役に立たない自分たちのことは棚上げにしてシオンや〈ミストルテイン〉の失敗ということにするだろう。
そうなると今後気軽には外に出られなくなる可能性もあるので、今のうちに多少無茶をしてでも楽しんでおこうというわけだ。
もちろんその辺りの話はアキトやミスティにはしていないが、可能性の話なのでそこまで丁寧に話す必要はないだろう――という名目で黙っておいた次第である。
「俺としてはむしろハルマが快く俺の監視役引き受けてくれたことにちょっとびっくりしてるけどね」
「別に快く引き受けたわけじゃないぞ? 兄さんに頼まれただけで」
「でも、マイアミのときはもう少し小言とか文句とかあったじゃん」
それが今回は許可を取れたことに驚いたりすることこそあれ、シオンの外出に難色を示すことはまったくなかった。
一度似たようなことがあった分、その差は目立つ。
それを指摘すれば、ハルマは若干顔を赤くする。
「もしかして俺、自分で思ってる以上にシオンに甘くなってるのか?」
「いや、俺に聞かれても……」
「あー……なんか恥ずかしいんだが」
「そっちが照れるとこっちも変な感じにあるんだけど……」
ハルマとしては自覚なくシオンに対して優しくなってしまっているという事実が恥ずかしいのだろうが、それを聞かされたシオンもどういった反応をすればいいのかわからない。
女王バチ討伐直後の格納庫での一件以降。時たまこういったなんとも言えない空気がふたりの間に流れることがある。
「(なんだろこれ、士官学校時代ともまた違う関係になったせいなのか……?)」
ただの友人だったのが殺すだのなんだのの物騒な関係を経て、以前とはまた少し違う友人関係に落ち着いた。
普通の人間関係ではなかなかないであろう遷移に、シオンもハルマもまだ頭が追いついていないのかもしれない。
「兄さんもシオンも、何変な顔してるの?」
「「いや、なんでも」」
「……ふーん」
歩くシオンとハルマの間に体を滑り込ませるようにひょっこりと現れたナツミは、ふたりの顔を交互に確認してからニコリと笑みを浮かべた。
「なんでここで笑うんだ?」
「なんでもなーい」
笑みはそのままにシオンとハルマのそれぞれの腕に自身の腕を絡ませたナツミは、機嫌よくふたりを引きずるように歩き出す。
そんなナツミにシオンとハルマは訳もわからず引っ張られるばかりだった。




